第8話

「……うわあああああっ!」




 尋常ならざる恐怖に耐えきれず、マリーは絶叫した。


 ……なんだ、今のは……。


 エイルが無残な姿で殺され、仲間の男戦士2人が消され、私自身もあっという間にやられたような気がした。


 何といったか、あの女騎士は……。




 (過去の名は捨てた。私は"血濡れの復讐騎"だ)




 奴は一体何者だったのか。私もエイルも決して弱くはないはずだ。むしろ何度も死線を潜り抜けてきたとは思っているが、奴には全く敵わなかった。あっという間に両腕を落とされ、両目をつぶされ、腹を斬られた。


 「マリー、大丈夫?」


 エイルが応急処置をしてくれる。……応急処置?!


 「エイル、一体ここで何があったの?」


 見れば、エイルも肩のあたりを切り裂かれ、大事には至っていないが浅い傷でもない。


 「その傷は一体……?」


 私が言い終わるより早く、エイルは私の体を抱きしめた。


 「あなたは悪くない。あいつがあなたの繊細な心につけ込んだだけなの」


 「あいつ……?」


 私の心につけ込んだ?


 じゃあエイルのこの傷は……。


 仲間2人は……。


 恐る恐るエイルに訊いてみる。


 「あの2人は……?」


 「わからないの。私もあなたの攻撃でしばらく気を失ってしまったから」


 倒れたエイルが気を失う直前、割って入ってきたのがあの2人だったという。


 ただ死体があるわけではなく、姿が見えないのはおかしい。


 「私は……」


 「何も言わなくていい」


 「エイル……」


 「私がついている。旅の目的は変わってしまうかもしれないけど、私がどこまでもあなたについていく」


 思わず私もエイルの体を抱きしめていた。


 おそらくあの女騎士は過去のトラウマが生み出した私自身。


 エイルを傷つけ、2人を倒し、自分自身も消し去ろうとしたんだと思う。


 彼ら2人はどうなったかわからないけれど、どこかでまた会えたらいいと思う。


 その時は敵同士かもしれないが。


 これからは私自身を見つけ救うための、償うための旅だ。


 エイルはそんな私についてきてくれるという。こんな傷を負わせた私に。


 「ありがとう」


 そんな言葉がふと口から出た。


 エイルはにっこりと笑ってもう一度抱きしめてくれた。




 そんな私たちのもとにやってきたのは、一人の老人だった。



作者 @amataroさん

https://kakuyomu.jp/users/amataro

代表作「図書館員の憂鬱」

https://kakuyomu.jp/works/16816927862825906128

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