第15話 盲腸から肝炎へ

 盲腸の手術が済んだ後、看護師さんがせっせと私の元へ来て太い注射を打っていきました。

その注射が気になって「この注射は何ですか?」と聴いたら「これ?これは止血剤よ、あなた血液の止まりが悪いらしいから打つようにお医者さんから言われたのでね」って、その打つ時に、看護師さんの手元を見たら、既に血液のついたアルコールの脱脂綿で、私の腕を拭いて、その後注射して行きました。なんかその時嫌な予感がしました。


お手洗いに行ける様になるとトイレの入り口で尿を溜めてる方がいらして覗きにくる看護師さんにそのことを聴いてみたら。

「あの尿を溜めてる人は何の病気なんですか?」

「あの人は、ここの看護婦(当時は看護婦って言ってた)で、患者さんに肝炎うつされて、入院してるの」と・・・その時は、何の知識もなく、「ふ〜ん。いちいち面倒なことしてるですね」と言ってただけでしたが。


退院後、直ぐに決まっていた就職先へ本来なら、研修を重ねて出社しないといけない所、盲腸をした所ということで4月3日のちゃんとした入社式からの出社となりました。


高校生からいきなりの社会人。

会社に入ってする仕事は、本来なら私が経理補助のはずが、盲腸で、出足が遅かったこともあり、営業補助兼庶務って役割に。私はお金を扱うのが苦手だったので、これはラッキーと思いました。ここでもラッキーM効果あり。


本社が東京にある支店での業務(ガムテープとかシールの原紙を扱う会社)やることは、会社に来て、直ぐのお茶出し、当時は女の子がする仕事でした。

他はシールやガムテープの注文を電話で聴いて伝票を回したり。

請求書、手書きしたり、荷物の送り状書き、コピーからお客様が来店されれば喫茶店で、コーヒー配達してもらいそれを応接室まで持って行ったり。


おまけに、その会社建物の奥には寮もあったものだから、その寮で暮らしてる若い人たちのために、(全国的に支店があったので)上司がその若い営業マンたちに、味噌汁なんか作ってて、その味噌汁作りから、クリーニングを出しから、回覧板持って行ったり、花を活けたりとありとあらゆる雑用をやらされていました。


そして、出社して1か月後のある日。

お店に入って来られたお客様には元気よく

「いらっしゃいませ」というのがその店の礼儀でしたが、その日は、朝から身体がだるくてだるくて会社へ来るのもやっとな感じで出てきてました。

(今日一日我慢すればゴールデンウェークに入るんだし、なんとか我慢して会社にいよう。)


そんなつもりで、会社に居たら、お客様が来ても、ハキハキと対応が出来なくて。

お茶を出すために、裏に行って準備をしていたら、先輩が「あなたの今日のその態度なんなの〜」って、それを言われた瞬間から涙がポタポタ止まらなくなってしまいました。


営業の人が裏に覗きにきて「あれ?お茶は?まだ?」って聴いてきて、そしたら泣いてる私がいて、彼が先輩に「新人を泣かしちゃいけないよ〜」って。


先輩は慌てて「私、大したこと言ってないのに、この子が泣き出すんでビックリしちゃった。」と、吐き捨てるように言いながらお茶碗を持って行かれました。


はっきり言って、私自身人前で涙流すなんてこと、子供の時それも幼稚園時でさえ泣かない子だったのに、自分の身体が自由に動かなくて泣くつもりもなく泣いてしまいました。


その日家に帰ってから、ものすごい吐き気に襲われ、近くの病院(盲腸の時にも行った)に夜の診療で駆け込むように行ったら、お医者さんは単なる急性胃腸炎だから、様子を見るように〜と薬出されて帰されてきました。

しかし家に着いてから、戻すものもないほど吐きまくり、身体が思うように動かなくなってしまいグッタリとしてしまいました。


今でも覚えているのは、タバコを吸う父が「そこにある灰皿取ってくれ」と言われても、その軽い灰皿を渡すことも出来ないほどでした。


母は、「だだの胃腸炎ではない。」と家にあった医学書を片っ端から読んで、どうもこの症状が肝炎らしい。と突き止めて、翌朝1人で近くの病院へ行って先生に説明してくれて、直ぐに紹介状を持って、日赤病院までタクシーで行きました。


日赤では血液を採取して調べてもらったら、ものすごく高い肝炎を示す値が出てきたので、お医者様もビックリ!即入院して、絶対安静の札まで出されてしまいました。


さて、絶対安静な状態なのに、4人部屋。

母は、そばについていたいというのに、父は

「お前が居ないと仕事が出来ないから困る」って母を強引に連れて帰ってしまいました。(その病院は完全看護を言ってましたし)


盲腸の時も、手術をしたばかりの私を置いて母を連れて帰ろうとうとしました。その時は、あまりに痛かったし、心細かったので、お願いだからそばに居て欲しいと父に泣きながら頼んで、なんとか母には居てもらいましたが。


今回はそれをお願いする気力もないほど憔悴しきってましたので、父は泣いてる母を強引に連れて帰ってしまいました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る