祭りは楽しや、思うままに踊れ
アカサ・ターナー
祭りは楽しや、思うままに踊れ
ふと地方の寂れた町に訪れた。別にこの町に用事などなく、たまたま別の場所に行く途中で休憩がてらに立ち寄っただけだ。
あちこちで笛太鼓の祭囃子が聞こえてくる。神輿を担いで大声を張り上げる男達をあちこちで見掛けられた。
その割には出店らしきものはない。町全体が活気に満ち溢れるほど盛況しているのにも関わらずだ。
それによく見ると担いでいる神輿も男達の着ている法被もバラバラである。一体何の祭りなのか見当も付かない不可解さが私を悩ませた。
この祭りを開催したのは余程段取りが出来ない奴に違いない。吐き捨てるように心の内で愚痴りながら、かといって訳が分からないものを放置するのも気味が悪い。
たまたま近くで休憩していた地元住民らしき人達がいたので話しかけた。これで何の祭りか分かると思ってのことだが、返ってきたのはこれまた不可解なものだった。
「あー、なんだっけ?」
「特に名前は考えてなかったな。どうするか」
これほど首を傾げたくなる返答もないだろう。彼らだけではない。他の誰に聞いても同じような返答だ。何の曰くがあるのか、意味はどんなものなのか。
何もないのである。彼らの話からしてたまたま祭りをしたくなったから祭りをしたという。
そんな馬鹿な。なにか、なにか理由はあるはずだ。
思わず私はそう言葉にしたが、住民達は特に気にも留めず事も無げに返した。
「なあ固い事言わずにさ、あんたも楽しんだらどうだ? 参加するのも眺めるのも自由だぞ」
屈託のない笑顔に、私は喉元まで出掛かっていた皮肉の言葉を飲み込んだ。様々な土地を見て回って人の良さ以外にも悪い所、どうしようもない醜さも見てきた私には、到底出来ないような表情に呑まれた。
自分にもこんな表情を浮かべられるだろうか?
遠巻きに眺めていようと思っていたが、ふとそんな考えが生じてしまった。頭の中がそんな考えで埋まったならば抗いようもない。内から噴き出た衝動に身を任せるままに私は祭りの熱気に身を晒した。
大声を上げて神輿を担ぎ、わっしょいだの何だのと喉が裂けるほど叫んだ。私の声は大勢の声に溶け込んでしまったが、確かに存在した証を残した。
斜に構えていた頃には澱んでこびりついていた何かが、叫ぶたびに、一歩一歩踏み出すたびに、浚われていき心身が軽くなっていくのを感じる。
いつの間にか私は祭りの意味や由来を求めていないことに気付いた。そしてそんな小さな事を気にしていた過去の自分に思わず笑ってしまう。
きっと各地の祭りも切っ掛けはさほど重要ではなかったのだろう。現代では何かと意味や由来が付いてまわるが、そういうものは後から付け足されていったに違いない。
無論根拠もない私の考えに過ぎないが、感覚的に正しいとも思えた。
疲労した私は祭りから一旦身を置いた。空はすっかり夕暮れ色に染まっていて、吹き抜ける風が火照った頬を撫でていく。住民たちは口々にどの神輿が良かっただの、担いでいた者達の威勢の良さを称えている。
休憩ついでに人々の間に交じり次はいつ祭りをするつもりかと聞いたが、やはり返答は奇妙なものだった。
「さあいつになるかな。なにせ思いついた時にやるからな」
「そもそも祭りをするとは限らない。前は雨の日を題材に詩を詠む大会をしていたな」
「その前は……なんだっけ? 忘れたけど、まあ気紛れに色々やっているんだよ」
なんともいい加減で気紛れなものだ。以前の私だったら呆れるか苛立つかしていただろう。だが今の私にはそういうものだろうと頷けた。心の内に溜めていた想いを開放するのに祭りや大会があるのだから、理由など後付けで良いのだと。
今の祭りが終わったならばどうしようか。次の何かが始まるのを心待ちにしている気持ちが膨れていく。斜に構えて何もせず愚痴を並べ立てるだけでは、もはや溢れる感情は抑えきれないことを知ったのだ。
同時に、この町に滞在せずどこか別の所に行ってもよいとも思った。何もこの町に執着する必要はなく、どこか気紛れに放浪したって良いのだから。それを咎める者はどこにもいない。
だが今は、しばし祭りの余韻に浸っていても罰は当たらないだろう。
祭りは楽しや、思うままに踊れ アカサ・ターナー @huusui_novel
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