第9話
「よろしくね」
「でも俺たちくじ運よくね?
その前も割と後ろらへんの席だったし」
「くじ運って前回は出席番号じゃん。
後ろいいけど私視力よくないからちょっと大変」
「たしかに。出席番号は運関係ないな」
にかっとした笑顔を向けた彼に心臓はどきどきしていたけど悟られることのないようにあまり視線を合わせなかった。
「俺視力2.0あるし、後ろの席は怒られることもないし最高〜」
まるで歌うかのように気分の上がっている彼が教科書を出す為に机を探る音がする。
まともに話したことなんて初めてなのにすごく普通で緊張しているのは私だけみたいだ。
(でも想像してたより話しやすいな)
なんて、そうこうしていたら授業開始のベルが鳴り出したので私も急いで準備をした。
「あっ…やべー… ねぇ早速で悪いんだけどさ、教科書見せてくれない?忘れたみたいなんだよね。かわりに黒板読めない時は教えるから!お願い。」
下から覗き込むように彼に見つめられると断れるわけない。
昨夜読んだ携帯小説にも同じような場面があった。そしてふたりは付き合うんだっけ…。
並べた机の真ん中に挟んだ教科書を覗き込むことなんて出来なくて授業は全く頭に入らなかった。
その後、彼からアドレスを聞かれたが私は携帯は高校生から!と、親に決められていたので教えることができず持っていないと言うのも恥ずかしくて曖昧にしてしまった。
彼も拒否されたと思ったのか、その日はそれ以上に会話することはなかった。
「お母さん、友達とメールしたいからメールの時だけ携帯貸してくれない?」
夜だけだから。
家に帰ってすぐ、お母さんに相談したら意外にもあっさり許可がおりた。
初めてアドレスというものを手にした私は小さなメモ帳にお母さんのアドレスを間違えないように一生懸命書き写した。
明日これを渡そう。
でもどうやって渡そう。
「いっぺいくん、また聞いてくれないかな」
何かが始まりそうな予感に胸が高鳴って眠れそうにない。
なんて考えながら静かに眠りについた。
箱入り娘、嫁に行く 小川真弓 @KONOTABIwa
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