第41話『ボーイズトーク』

とあるマックの店内では、何やら人待ち顔の博記が2人がけの席に座っている。

ソコに、入店してきて、注文を終えた凪兎が、トレイに乗せたテリヤキバーガーセットを片手に声をかける。


凪兎「よぉ。オマエがオレを呼び出すなんて珍しいじゃんかよ。」


凪兎は、そう言いながら博記の向かいの席に座る。


博記「おす。早速なんだが、この前、ファミレス行ったやん?」


凪兎「あぁ、オッちゃんの奢りの時のな。」


博記はコーラのみ注文してたようで、ソレを飲み干して…。


博記「あの時、オッちゃんが言った事が引っかかっててよ。」


凪兎「オッちゃんが言ったこと?」


博記「あの、『自分が興味ある事以外にも、意識を向けた方が良い』ってヤツ。」


凪兎「あぁ、そう言えばそんな事も言ってたな。」


凪兎は、嬉しそうにハンバーガーの包みを開け、パクついている。

どうやら、マックの中でもコレが一番の好物のようだ。


博記「チコやナナには聞けなかったんやけどさ、ナギなら何か分かるんじゃねぇかって思って。」


凪兎「オマエ、クチ悪いけど、結構、気にしぃやもんな。」


博記「…。」


凪兎「オレもチコもナナも、オッちゃんも、オマエの事は、分かってるから大丈夫だよ。」


博記「そうじゃねぇんだよ。ソレは有り難いんやけど、何かもっと大切な事を見逃してる気がしてよ。」


凪兎「ソレはな、自分で見つける方が良いと思うが。」


博記「ソレが出来りゃ世話無ぇし、クチ悪くも育ってないんよなぁ…。」


博記が所在なげに、空になったカップをクルクル回している。

凪兎は、コーラを飲んで、一息ついて続けた。


凪兎「じゃあ聞くがよ。オマエ、チコの事、どう思ってんだ?好きなのか?」


博記「そんなんじゃねぇ、と、思う。それにバンド内恋愛は、ご法度だろうが。」


凪兎の突然の質問にも、博記の言動には焦りが見られない事から、コレは本心なのだろう。


凪兎「音魂では、そんな決まりは無かったと思うが?」


凪兎は、博記の目を見据えた。


博記「…。」


凪兎「別に人が人を好きになるのは当然の事だよ。俺らは元々他人だ。家族でも無い。なのに、こんなに長い時間一緒に居たら、それなりの情も生まれて当然やと思う。好きだ嫌いだは、思うままにして良いと思う。ただ、バンドを壊すような事さえしなければな。言っておくが、オレはチコの事も、ナナの事も、大切なバンド仲間だとは思ってるが、それ以上の感情は、無い。」


博記「チコはよ、本当にオレの恩人なんや。カンちゃんが居なくなって、前を向きかけていたのに、前を向けなくなって…。」


凪兎「恋愛感情では無い、って事か?」


凪兎は、ポテトをクチに放り込みながら聞いた。


博記「チコに対しては、分かんねぇんだ。」


凪兎「まぁ、チコは、得体の知れない部分は、確かにあるしな。」


博記「てかさ、ナギも、そんなキャラだっけか?てっきりオレは、イツモみたいに軽くあしらわれるモンだとばかり…。」


凪兎「さっき言ったろ?オマエの事は分かってる。オマエが、真剣に、助言を助けを求めてるのは、分かる。モチロン、オマエも、オレにとっては大切なバンド仲間だ。」


博記「ありがとう…。」


凪兎「あぁ。もう1つ、聞いてもイイか?」


博記「あぁ。」


凪兎「ナナの事は、どう思ってるんだ?」


博記「ナナ?アイツこそ、良いバンド仲間だろ?一緒に居てメッチャ楽しいしよ。」


博記は、キョトンとした顔で答えた。

対する凪兎は、目を伏せた。


凪兎「まぁ、そうやろうな。」


博記「何でココでナナが出てくるんや?」


凪兎「いや、心当たりが無ければ忘れてくれ。」


博記「???」


博記は、凪兎が何を言いたいのか、本当に分からないという表情だ。

凪兎は、ポテトをクチに放り込んで…。


凪兎「オマエはよ、悪気が無いのは分かるんだよ。だけんこそ、言ってしまえば、悪気があるヤツよりタチが悪い。」


博記「んん?悪いのか?悪くないのか?」


凪兎は、呆れや軽蔑とは違う、博記の事を思ったが故の溜息と共に…。


凪兎「でもよ、チコがオマエをバンドに誘ったイキサツは知らないけど、チコがオマエをバンドに誘って、その後でオレが加入して、最後にナナが加入した。で、SoundSoulsがカタチになり、今までやってきたワケだろ?」


博記「うん?」


博記は、凪兎が言わんとしている意味が、イマイチ理解出来ていないようだ。


凪兎「ツマリ、ウチのベースが、オマエだったからこそ、今までやってこれたし、これからも、やっていける。コレはメンバー全員に言える事やけど、オレらは、この4人じゃなきゃダメなんやと思うぞ。オッちゃん入れて5人やけど。」


凪兎は、慎司に対するフォローも忘れなかった。


博記「でもよ…。」


凪兎「だから、もっと大切な事を見逃してる気がしてるなら、もう少しだけ、シッカリ見るようにしたら、どうだ?」


博記「…。」


凪兎「まだオマエは、その気持ちがあれば大丈夫だよ。」


博記「分かった。ナギに相談して良かったよ。」


凪兎「そう言って貰えて嬉しいわ。で、余計なお世話やけど…。」


博記「ん?」


凪兎「ナナの事は、もう少し、女性扱いしてやってくれよ。」


博記「ナナは女なんやから、当たり前やろ?」


凪兎「そういうトコなんよなぁ…。」


凪兎は、小声でボヤいた。


博記「ん?何か言ったか?」


凪兎「イヤイヤ、気にすんな。でよ…。」


博記「おう。」


凪兎「オレが、オマエに言った事を、少しでも気にしてくれたら、見つけるキッカケには、なると思うぞ。」


博記「チコとナナの事か?」


凪兎「まぁ、簡単に言えば、そうやな。」


博記は、腕を組んで、考えている。


凪兎「別に今スグに見つけなければ、音魂が終わるワケじゃ無ぇんだしよ。」


博記「そりゃそうだがよ…。」


博記は席を立つ。


凪兎「もうスタジオ行くのか?」


博記「コーラ無くなったけん、また買ってくる。ナギは、ソレ食べ終えたみたいやが、コーラ飲むか?オゴるぞ。」


凪兎「ヒロが…?オゴる………だと………?」


凪兎は、まさに驚愕といった言葉が似合う表情を見せた。

博記は、基本的にオゴったりはしないタイプのようだ。


博記「要らねぇのか?」


凪兎「要ります!!」


その言葉を受け、博記は注文カウンターに向かう。


凪兎「ホント、アイツはクチは悪いけど、悪いヤツじゃねぇんだよな…。」


暫くして、コーラを2つ持った博記が戻ってきて、凪兎の前に置く。


凪兎「サンキュ。」


博記「相談料とでも思ってくれ。」


博記は、早速自分のコーラを飲んでいる。


凪兎「なぁ、ヒロ。」


博記「ん?」


凪兎も、博記がオゴってくれたコーラにクチをつけて…。


凪兎「オマエは、音魂を、どうしたい?」


博記「オレは別に、オマエラと音楽が出来てればソレでイイよ。」


凪兎「プロになりたい!とか、思わないのか?」


博記「オレは、音楽は好きだ。だから、音を楽しんでる。ソレ以上の事は、別に望まない。オレはもう、ココに居られる事で満たされてる。」


凪兎「成程な。じゃあ、もし、チコがプロを目指したいって言ったら?」


博記「仲間の夢は、全力で応援するし、協力する。」


博記は、当たり前の事を言っているという顔をしている。


博記「ソレは、チコに限らず、ナギも、ナナも、同じやけんな。」


凪兎「…。オマエさ、どうしてクチが悪いキャラなんだよ。ソレさえ無ければモテるぞ。」


博記「うるせぇよ。オレぁ別にモテたいと思ってねぇよ。」


凪兎「天邪鬼がよ。」


博記はコーラを飲みながら店内の他の客に目を向けている。

凪兎も、何となく同じように視線を巡らせていると、離れた席に偶然、終夜が座っているのに気付いた。


凪兎「あれ、終夜じゃんか。」


博記も、凪兎の発言を受けて、凪兎が見ている方に視線を移す。


博記「マジや。アイツなら、ソッコーでオレらの事を見つけて寄ってきそうやがな。」


当の終夜は、博記達に気づく様子もなく、終夜から少し離れた席に座っている数人の男女を睨むように見ている。


凪兎「アイツが、あんな顔してんの初めて見たな。」


博記「なんとなく、イツモ、ヘラヘラってか、ニコニコしてるイメージやったけどな。」


凪兎「声かけんのはヤメといた方が良さそうやな。」


博記「ま、確かに終夜が睨んでるヤツラ、何か大声で騒いでるみたいやし、な。」


凪兎「さて、ぼちぼちスタジオ行くか?」


博記「あぁ、時間やな。」


そして立ち上がって博記と凪兎は店を出て行く。

終夜は、最後まで博記達に気づく事無く、その数人の男女を睨んでいた。

その数人の男女は、そんな終夜の視線に気づく事も無く、また騒いでいた。

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