第40話『音魂』

この日、SoundSoulsは、スタジオに入って、その後、全員でファミレスに晩御飯を食べに来たようだ。

コレはワリと珍しいパターンである。

大体は、スタジオで解散、というのがイツモのパターンだ。


慎司「あっぶねぇ…。存在自体無かった事にされたのかと思ってたぜ…。」


博記「何どっかのマフィアがヘタこいたみたいな事を言ってんだよ真夜中の大都会さんよ。」


慎司は、久しぶりの登場に安堵しているようだ。


慎司「トコロで、今日はミンナに話しというか、提案があるんだ。」


琴羽「ソレが狙いね。珍しいと思ったんよね。」


菜々子「オッちゃんが『オゴるぜ掛け替えの無い地球(ホシ)達。』って言うけんね。」


慎司「奢るは言ったが、ソレは言ってない…。」


慎司は、久しぶりに登場したのに、イジりがキツくて戸惑っている。


凪兎「で、その提案とは?」


慎司「失礼。オレは、キミタチのバンドの歴史を詳しくは知らない。その上で、新参者だという認識もあっての提案だ。」


凪兎「大丈夫だよ、オレらは、オッちゃんをもう認めてる。」


慎司「ちょっと泣きそう。」


慎司は、凪兎の言葉が心底嬉しかったようだ。

博記は既に興味を無くしたようで、ビールを注文している。


琴羽「オッちゃん、ハナシが全然進まんけん。」


慎司「失礼。キミタチのバンド名、SoundSoulsについてなんだが、Soundは『音』、Soulsは、複数形だが『魂』だよな。」


凪兎「確認するまでもなく、そうやし、変に違う意味も込めてないけん。」


慎司「和訳すると、音魂(おとだましい)、音は、おん、とも読めるし、魂は、たま、とも読める。だから、SoundSouls略して音魂(おんたま)ってのは、どうかな?」


凪兎「ソレは略してると言えるのか…?」


琴羽「でも、可愛くない?」


凪兎「可愛いとか可愛くないとかじゃなくてよ…。」


凪兎はタメ息混じりに呟いた。


慎司「いや、もちろんバンド名を変えようって言ってるんじゃない。略称というか、そういう通称みたいのがあっても良いのかな?と思ってな。」


琴羽「私はイイと思うよ。面白いし。」


博記「くだらねぇ…。何のハナシかと思えば…。」


凪兎「オマエ、奢りで飲んでるクセにクチ悪すぎやぞ。オレは別に音魂でも構わんよ。」


菜々子「何か美味しそうやし、イイんやない?」


琴羽「絶対に温泉卵を連想してるやろ…。」


琴羽は、今にもヨダレを垂らしそうな菜々子を横目で見て…。


琴羽「じゃ、SoundSouls略して音魂ね。」


博記「オレは賛成してねぇが?」


琴羽「まぁまぁ、そのうち慣れるけん。」


慎司「まぁ、そんなにツンツンするなよビールボーイ。」


博記「…。」


博記は、相変わらずの慎司のネーミングセンスに、二の句が継げなくなっている。

その近くでは、霊体のピーチに、何とかしてタピオカミルクティーを飲ませようとしている菜々子が頑張っている。


琴羽「オッちゃん、例の変な昭和の歌詞みたいな例えは、もうしないの?」


琴羽が、イジワルな顔で聞く。


慎司「アレは…キミ達を試していた時のキャラ作りの一環というか…。」


慎司は、琴羽の問いに、オドオドしながら答えた。


慎司「ソレに、今日は、その提案も目的の1つではあったが、たまには、こうしてメンバーでメシっていうのも大切だと思ってな。」


琴羽「まぁ、確かに、ウチのバンドって、スタジオで練習して解散!ってカンジやもんね。」


菜々子「やっぱピーちゃんにタピオカ飲ませるのはムリか。」


博記「つか設定がガバガバなんよな。あのシェアハウスでは普通に見えたり戦えたりするのによ。ココじゃ、姿はオレらには見えるけど、物理的接触はムリ、みたいなよ。」


琴羽「ソレも、この物語の醍醐味やけん。」


琴羽のもとに、注文した肉ごぼ天うどんが到着すると、博記が箸入れから割り箸を出して、琴羽に差し出した。


琴羽「ありがとう。」


琴羽は博記から受け取って、食べ始める。

当の博記は、フライドポテトをツマミに呑んでいるようで、他に食べ物を注文している形跡はない。


凪兎「でも、本当に今日はオッちゃんがこの場を設けてくれたけん、何か新鮮やな。」


琴羽「集まりはするんやけどね…。幽霊と戦ったり、夜深さんと戦ったり、人斬りと戦ったりしてたけんね。」


博記「これ、バンド物語じゃねぇのかよ…。」


凪兎が注文していた、ロースカツ定食が到着したついでに、博記が、2杯目のビールを注文した。


慎司「バンド物語さ。キミ達4人と、サポートするオレの、な。」


凪兎「ところでよ、チコ。」


琴羽「ん?」


凪兎「あの、終夜ってヤツ、何者なんだ?友人みたいなもの、とは言ってたが、オレらへの馴染み方の速度がハンパなかったんだが。」


琴羽「悪いヤツじゃないんだけどね。ナギは、前に、お父さんが警察官だから、小さい頃から色々と鍛えられるって言ってたやろ?」


凪兎「あぁ。」


琴羽「シュウちゃんも、体は鍛えててね。主にジムに通ってるみたいやけど。でも、何て言えばイイんやろ?詳しい素性は言えないんよ。あのコミュニケーション能力の異常な高さも、育った環境が原因なんやけどね。」


慎司「まぁ、どうしても知りたければ、本人から聞くのが一番確かな情報ってワケだな。」


そう話していると、菜々子が注文していた親子丼と味噌汁セットが届く。

そのまま、手をつける事もなく、何かを待っている顔をしている菜々子。


琴羽「ゴメンね。でも、コレからも、何かとチカラにはなってくれると思うけん、仲良くしてやってね。」


凪兎「ソレはモチロンだがよ…。」


博記は、運ばれてきた2杯目のビールを飲み始めた。

菜々子は、少し寂しそうな顔をした後、自分で割り箸を取って、食べ始めた。


慎司「ヒロ。」


博記「ん?」


慎司「ヒロは、もう少し、自分が興味ある事以外にも、意識を向けた方が良いな。」


博記「???」


慎司「そうしないと、いずれ自分に返ってきて、後悔する事になる。」


博記「含んだ言い方しねぇで、ハッキリ言ってくれよ。」


慎司「ハッキリ言えば、素直に受け取るか?」


博記「………。」


琴羽「さすが、オッちゃんやね。もうヒロの事を理解してる。」


博記「くだらねぇ…。」


博記は、2杯目は一気に飲み干して、更にビールを注文する。


琴羽「だけんこそ、ヒロも、オッちゃんを信頼してるけんこそ、そういうクチの悪さも、惜しみなく出せてるのよね。」


慎司「マジで泣きそう…。」


その慎司の気持ちを汲んだのか、外では雨がパラつき始め、程なくして雨脚が強まり、道行く人は、慌てて傘を出したり、軒先に駆け込んだりしている。


琴羽「オッちゃんが泣く前に、空が泣きだしちゃったね。」


凪兎「そういや、雨と言えばよ…Rainyって知ってるか?」


慎司「レイニー?」


凪兎「何でも、わざわざ雨が降る日に路上で歌ってる女が居るらしくてよ。ソイツの事を、Rainyって呼ぶようになったらしいんやが…。コレが、めちゃくちゃ歌が上手いらしくてよ。」


琴羽「聞いたことある。最近出てきたらしいよね?」


琴羽は、うどんを食べ終えて、デザートのアイスを注文している。

博記は、3杯目のビールにクチをつけようとしたが、何かを考えている。


琴羽「スイちゃんでは、無いと思うよ。」


琴羽は、その博記の考えを見透かしたかのように言う。

その琴羽の言葉に、ギクッとした顔をした博記。


博記「べっ…別にそんな事考えてねぇよ。」


慌ててビールを喉に流しこむ博記。


凪兎「そのRainyってのも、勝手にギャラリーが付けた呼び名でよ。ソイツの素性は分からないらしいんやが…。」


慎司「目的が分からないな…。何故、わざわざ雨の日に限って…。天気なんて、予報は出るにしても、確実では無いだろうし。」


凪兎「フード付きのレインコートを身にまとい、そのフードも深く被ってるから、顔も見えない。今日みたいな土砂降りの日にも歌ってる事もあるらしいんやけど、わざわざ土砂降りの日に足を止めて聞くヤツも少ないやろ?」


慎司「ソレでも話題になるくらいだから、歌唱力は、確かだ、と。」


菜々子「今日も歌ってるんかな?」


凪兎「ココ!って場所は決まってないらしいんだよ。駅前だったり、デカい公園だったり…。」


琴羽「でも、雨の日限定ってのはちょっと理解出来ないけど、歌が好きなんやろね。」


博記はもう眠そうな顔で、更にビールを注文している。


慎司「でも、音楽好きな人が増えるのは、喜ばしい事だ。」


琴羽「やね!」


こうして、音魂という新たな呼び名を得たSoundSoulsは、新たな脅威?と対峙する事になるのだが、ソレはまた少し先のハナシである。

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