第31話『奪還編② 鬼ごっこ』

引き続き疾走しているジンは、走りながら額の汗を拭うと、周囲に鋭い視線を投げている。

その少し後を、凪兎が走って追いかけてくる。


凪兎「ひとまず発見、と。しっかし、どう取り返すか…。男ならまだしも、相手が女じゃ、猶更よなぁ…。」


凪兎は、見失わないように、後を追っている。

ソコに、菜々子から着信が…。


凪兎「もしもし?」


菜々子『どう?ナギ、見つけた?』


凪兎「あぁ。追い付いたわ。裏路地抜けて、ひとまずは、そのまま追いかけてるトコや。」


菜々子『これ片付いたらマック一年分おごるけん!』


凪兎「マック一年分とか、初めて聞いたわ(笑)、ヨロシクな。」


そして電話を切る凪兎。

その、走ってる凪兎の目に、新築のマックが飛び込んできた。

さきほど、別なマックから出てきたにも関わらず、思わず足を止める凪兎。


凪兎「なんやコレ…。『オープン記念 マッスルパワー 激熱祭…?』今ならポテト全品半額…?セットメニューもお得…?コレ、ちょっと…。」


と言いつつ、フラフラ~っとマックの入り口に向かう凪兎。


凪兎「ハッ!!イカンイカン…。まずは刀を…。」


と言って、走って行く予定だった方向に目をやる凪兎。


凪兎「…。……。」


ソコには、凪兎が走ってきた場所から、6方向に道が分かれていた。


凪兎「マック一年分を見失った!!!」


そして、6つに分かれた道の一本を進むジン。

依然として走るスピードは落ちていない。


ジン「マスターの家遠いアル!!」


そして、コチラは、残念ながらジンとは違う道に入った凪兎。

背後から声がかけられる。


菜々子「ナギ!」


菜々子は、凪兎に追いついて、並走しながら話しかけた。


凪兎「悪いナナ…見失ってしまった…。」


菜々子「えっ?そんなに足が速いと?ソイツ。」


凪兎「いや…何ていうか…。」


凪兎の目は泳いでいる。


菜々子「じゃあ、この道じゃないかも知れんと?」


凪兎「すまん。」


菜々子「分かった!じゃぁアタイは違う道に行くけん、ナギも、引き続きお願い!」


そう言うと、凪兎の返事を待たず、菜々子は違う道に入っていった。

その菜々子は…。


菜々子「ジロちゃんが全然追い付いてこない…。あっ!もしかして…。」


菜々子は、いったん足を止め、立ち止まった。


菜々子「こい!ジロちゃん!!」


次の瞬間、博記の体を抜け出たジロちゃんが、体寄せにより、菜々子の体に入る。


菜々子「………。なるほど…。やっぱヒロの体力がゴミで、全然早く走れなかった、と。」


菜々子は目を閉じ、体に入っているジロちゃんと対話しているようだ。


菜々子「よっしゃ、いこっか!ジロちゃん!!」


そう言うと、モンちゃんの身体能力を憑依させた菜々子は、先程までとは桁違いのスピードで走り始めた。

ちなみに、博記には、単純に憑依させただけなので、ジロちゃんは、博記の身体能力の範囲内でしか動けないが、体寄せを行う事により、菜々子はジロちゃんの身体能力を引き出して動く事が出来るようになる。

もちろん、術者自身の基礎体力も関係してくるが、これは、菜々子自身も、コッソリと修行をしていたので、問題ない。


そして、場所は変わり、公園付近の広い歩道。

ソコに博記が倒れており、その横に琴羽がしゃがみこんでいる。


琴羽「おーいヒロー。なにやってんのー?」


琴羽は、木の枝で博記をツンツンしている。


博記は、気絶はしていないようであるが、全身でゼェゼェと息をしており、汗だくで、とてもじゃないが動けないようだ。

先程まで、ジロちゃんに体を酷使されていたので、無理もない。


博記「ゴ………ゴミで………悪かったな………。」


琴羽「なに言ってんの?ヨッパラララライじゃないみたいやね。」


琴羽は、依然として博記をツンツンしている。

そうこうしていると、博記のスマホが着信を告げる。


琴羽「おっ、誰かしら?」


琴羽は、無遠慮に博記のズボンのポケットに手を突っ込み、スマホを取り出す。


琴羽「あり?ナギからや。」


そう言うと、琴羽は電話に出た。


琴羽「もしもーし、チコちゃんでっす。」


凪兎『チコ?ヒロと一緒に居るんか?』


凪兎は、予想外の相手が出て戸惑っているようだ。


琴羽「一緒に居るってか、見つけたって感じかな?たぶんヒロは暫く動けんと思う。」


琴羽は再び博記をツンツンしている。


凪兎『そうか…。』


凪兎は、迷っているかのような声を出している。


琴羽「私も、鬼ごっこに参加しちゃおっかなー。」


その、凪兎の迷いを見透かしたように琴羽が言う。


凪兎『ナナに事情を聞いたのか?』


琴羽「んにゃ。ナナちゃんとは直接は話してない。で、ヒロは、たぶん暫く喋れんと思う。」


凪兎『一体どういう状況なんだ…。』


凪兎は、走り続けているため、流石に息が荒くなっている。


琴羽「とりあえずヒロを安全な場所に移して、私も参加するけん。」


凪兎『相変わらず…情報が早いな。じゃ、ヨロシク。』


そう言うと、通話は終了した。

こうして、博記を安全な場所に移した琴羽も、ギャル正宗奪還鬼ごっこに参加した。


そして、コチラは、ジロちゃんを憑依させた菜々子。

菜々子自身も、暫く走りっぱなしにも関わらず、驚異的なスピードで走り続けている。

と、前方を終夜が走ってるのが目に入る。


菜々子「シュウちゃん!?」


菜々子は、終夜に追い付いて声をかけて、いったん立ち止まる。

同じく足を止める終夜。


終夜「………ってワケで、ナギから頼まれてよ。」


菜々子「ありがとう、本当に…。」


菜々子は、さすがに両ひざに手をついて、ゼェゼェと肩で息をしている。

顔つきも、普段とは違い、青ざめているようにも見える。

そんな菜々子の様子を見ている終夜。


終夜「オマエの大事な友達なんやもんな。」


菜々子「?」


終夜「普段、フザけ倒して、本心隠しがちなオマエが、ソコまで本気で必死に探してんやもんな。」


菜々子「ソレ褒めてんの?」


終夜「絶対見つけるぞ。んで盗んだヤツをボコボコにする。」


菜々子「ありがとう、シュウちゃん。じゃあ、この道は任せて、アタイは違う道に入るけん。」


終夜「おう。」


そして分かれて再び走り出す菜々子と終夜。

一方コチラはまた違う道を走る凪兎。


凪兎「オレは何をやってるんだ!友の一大事だというのに新築のマックなんぞに現を抜かして…イヤでもアソコは後でチェックを…。」


等と、ワリと大きな声で独り言を呟く凪兎の目に、コンビニの駐車場に数台停められている、レンタル自転車が飛び込んできた。


凪兎「コレや!!」


そう叫ぶと、周囲の通行人の不審な目を気にもとめず、コンビニの駐車場に向かい、レンタル手続きをする凪兎。

コンビニからも、店員が出てきて凪兎を不審そうに見ている。


凪兎「待ってろよマック一年分!!」


こんなキャラだったか?というツッコミはさて置いて、ペダルに足をかけ、凄い勢いで自転車を漕ぐ凪兎。


凪兎「稽古場でも、脚力を鍛えてるオレをナメるなよ窃盗犯!」


ちなみに、凪兎の名誉のために言っておくが、凪兎はマック一年分が欲しいワケではなく、マックを奢ると言ってくれた菜々子の気持ちが嬉しいだけだ。

その気持ちを、そのマック自体に気を取られた事で、無にしかけた事を悔やんで、暴走しかけている、という状態である。


そして、鬼ごっこは、まだ続くようだ…。

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