第30話『奪還編① 一本のチンコ』
とある冬の、空気が澄んだ晴れた日の午後。
とある公園に、博記と菜々子の姿があった。
菜々子「なんなん?ハナシって。」
菜々子は、ガラにもなく、多少緊張した面持ちで博記が座ってるベンチの隣に腰を下ろす。
腰に携えていたギャル正宗を、外してベンチに立てかけて。
博記「覚えてるか?」
博記は、菜々子が隣に座ったのを確認すると、真っ直ぐ前を見て話し始めた。
菜々子「?」
博記「まだオレらがバンド組みたての頃さ、よく夜にブラブラと、アテもなくウロウロしてたやん。」
菜々子「ヒロ?」
博記「あの頃ってさ、何も考えてなかったよな。今、思えば。」
菜々子は、博記の意図が分からず困惑した表情を浮かべている。
そんな菜々子を意に介さず、博記は続ける。
博記「なぁんか、追い付けないままだったな、って思ってよ。」
菜々子「アンタ酔ってる?」
博記「オレ、あの頃は小説家、ってか、脚本家?とにかく言葉を紡ぐ仕事に就きたいなって思っててよ。」
博記はクチは悪いが読書が好きで、よく小説を読んでは、自分で解釈したり、そこから自分で物語を考えたりするのが好きらしい。
菜々子「…。」
博記「オレな、あの頃、あまりにもヒマだったんで、脳内で『一本のチンコ』って戦争映画を作り上げた事があってよ。」
菜々子「!!!」
突然の下ネタに戸惑う菜々子。
博記「あれを、どうしてその時に文字に残しておかなかったんやろって、スゲェ後悔しててよ。」
こちらは、変わらず大真面目な調子で続ける博記。
菜々子「え?ちょっ…なんコレ?新手のセクハラ?」
博記「今でもたまに思い出しては、悔やんでも悔やみきれない気持ちになってよ。」
博記は相変わらず菜々子の方を見ず、遠くを真っ直ぐ見つめている。
菜々子「何でアタイにそんなハナシするん!?」
博記「いや、ウチのバンドで、こういうハナシ出来るのナナだけやん?」
菜々子「バカにすんなぁ!!」
遂にブチギレた菜々子は立ち上がり、博記の脇腹に重い右フックを放った。
博記「ぐぼあぁぅ!!」
博記はベンチからフッ飛んで近くにあった砂場に叩きつけられた。
菜々子「オマエよぉ、あんまナメてっと、その砂ナメさすぞ?あぁん?」
菜々子は砂場にダイブしている博記の頭をワシ掴みにして、そのまま砂に押し当てた。
博記「もがっ!!!ふがががっ!!!」
菜々子「アタイがどんな気持ちでココまで来たか分かってんのか?乙女の心を踏みにじりやがって!」
何度も頭を砂に叩きつけられる博記は必死で菜々子の手を振り払い、顔を上げた。
博記「ぶっはぁ!!殺す気か!!」
菜々子「オマエのチンコなんかどうでも良いんじゃ!」
博記「オレのチンコのハナシじゃねぇよ!ってかオマエも普通にチンコって言ってんじゃん!!」
博記は、ペッペッと砂を吐き出しながら、顔についてる砂も払っている。
菜々子「オマエをアタイの刀のサビにしてくれるわ!」
博記「つぅかオマエ、そんなモン(ギャル正宗)持ち歩いてたら捕まんぞ!」
菜々子「お母さんの、ナンヤカンヤで帯刀許可は降りとるんじゃい!」
そう言って、菜々子がギャル正宗を取ろうと、ベンチに向き直る。
菜々子「あれ?」
博記「んだよ。」
博記は立ち上がって、服についている砂も払っている。
菜々子「無い…。」
博記「あ?」
菜々子「ギャル正宗が無い!!」
菜々子が慌てて周囲を見回すが、ドコにも見当たらないギャル正宗。
博記も半信半疑ではあるが、周囲に視線を走らせている。
博記「えっ?ちょっ…。」
菜々子「ちょっとヒロ体を貸して!」
博記「えっ?どういう…?」
博記の返答を待たず、菜々子は…。
菜々子「降りてきて!ジロちゃん!!」
博記の体が一瞬、痙攣したように見えた。
一瞬の間をおいて、博記がクチを開く。
博記「久しぶりだな。お嬢。」
どうやら、菜々子が友人のジロちゃんを、博記に憑依させたようだ。
切羽詰った時の菜々子の能力は、母親以上かもしれない。
菜々子「ゴメン、誰かがギャル正宗を盗んでったん。ちょっと協力して欲しいと。」
博記「御意。まだ盗まれてから間もない。まだ盗人は近くに居るハズ。」
菜々子「手分けして探そう!」
博記「お嬢の大切な友を盗むとは不届き千万!」
そして、菜々子とジロちゃんは二手に分かれて捜索を開始した。
一方、コチラは、公園から少し離れた場所にある裏路地。
ソコを、一人の外国人女性が全力でダッシュしている。
この外国人の名はジン。
見た目、10代後半のようだ。
長く綺麗な銀髪を腰まで伸ばし、目鼻立ちがハッキリしていて、瞳の色も髪に近い色をしており、目もクリッとしている。
ジン「早くマスターのもとに届けるアル!」
この女性の国籍は定かではないが、手には何やら刀らしきものを持っている。
そう、このジンこそが、ギャル正宗を盗んだ犯人だ。
一方、コチラは、公園周辺を捜索している菜々子。
その菜々子のスマホが着信を告げる。
表示されている名前は凪兎だ。
菜々子は仕方なく電話に出る。
菜々子「なん?今取り込んどるけん、急用じゃないなら切るよ?」
凪兎『いや、急用というか何と言うか…。ナナが持ってた刀あるよな?アレって、確か鞘がピンクで、柄も似たような色やったよな?鍔は確か花の形してたよな?女の子!って感じのデザインで。』
ココで、初めてギャル正宗の外観の紹介が挟まれた。
菜々子「そうやけど、ソレが何?今そのギャル正宗盗まれて探しとるとこなん。」
菜々子は、少しイライラした様子で返す。
凪兎『あれ、パッと見、オモチャに見えるけん、通行人は大して気にしてないようやったけど、そのピンクの鞘の刀を持って猛ダッシュしてる女が居たぞ?』
菜々子「なっ!ナギ今ドコ?そんでその女追いかけて!!」
菜々子は立ち止まり、ゼェゼェと荒い息を落ち着ける。
凪兎『やっぱアレ、そうやったか。オレは、神崎商店街の近くのマックから出てきたトコだ。その女は商店街を抜けて裏路地に入ってったわ。』
菜々子「了解。ありがとうナギ。」
菜々子は電話を切って、夜空を見上げた。
菜々子「ジロちゃん!神崎商店街の裏路地に向かって!」
ソレだけ叫ぶと、菜々子も神崎商店街に向かって走り始めた。
そしてその凪兎は…。
何かを思いついたようにスマホを取り出し、電話をかける。
終夜『もしもし?久しぶり。』
どうやら終夜に電話したようだ。
凪兎「ワルい終夜。ちょっと協力して欲しい。」
終夜『どうしたん?何かヤバいんか?』
終夜は、凪兎のただ事ではない様子を感じているようだ。
凪兎「ナナの刀が盗まれた。犯人は女で、今追いかけてるんやが…。」
終夜『マジか…。分かった。で、ドコに行けば良い?』
凪兎は、終夜に詳細を告げて電話を切った。
かくして、鬼ごっこが始まったのであった。
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