第28話『オッちゃん』

もう二度と楽器が弾けない体になってしまったと告白した楼流。


琴羽「と、言うと?」




楼流「オレには、絶望的にリズム感が無かった。そして、破滅的に音痴だったんだ。」




博記「ソレ、二度と…じゃなくて、最初からじゃねぇの?」


凪兎「ヒロ、クチが悪いのは仕方ないとして、敬語くらい使えないのか。」


博記「だってよ…。」


博記も、凪兎に言われて、悪いと思ったのか、バツが悪そうだ。


琴羽「しかし…ソレでもロックが、音楽が好きで、音楽に携わる仕事がしたいと思った…。」


楼流「そう、ロックが好きで、一生ロケンローだと思ってたんだが…輝く季節(トキ)の中の夢で終わってしまうとは…。」


菜々子「その、ちょいちょい挟む昭和の歌詞的なの、なに!?」


楼流「ロックだろ?」


楼流は、ニヤリと笑って菜々子を見る。


琴羽「で、この、楼流さんをマネージャーとして迎え入れるかどうかなんだけど…。」


琴羽は、諦めたような表情でメンバーに問いかける。


凪兎「あぁ。良いと思うぞ。」


菜々子「アタイも。」


博記「あぁ、何か楽しくなりそうだしよ。」


琴羽「えっ?マジで?」


予想外の反応に、文字通り目を丸くする琴羽。


楼流「チェケラチョウ!!合格だ迷えるホーリーナイト達。」


凪兎「だからソレはラップ…。」


博記「ちょっと待て。情報量が多すぎる発言やけど、合格って何スか?」


楼流「悪いが、キミタチを試させてもらった。」


琴羽「…。」


琴羽も、状況を知っているようで、困ったような顔をしている。


凪兎「どういう事ですか?」


楼流「キミタチが、見た目で人を判断するようなヤツラかどうかを、試させてもらったんだ。」


菜々子「見た目というか、発言にもだいぶ問題が…。」


楼流「ソコも含めてだよ、アタイガール。」


菜々子「ヘンなアダ名つけんで!!」


博記「オレなんかウォーターボーイやぞ。」


博記は、引き続き水を飲んでいる。


楼流「セン子さんに言われて、ね。まぁ、少し遊び心もあったワケだが。」


琴羽「そういう事なの。てっきりミンナは、怒ると思ってたんだけど…。案外軽く受け入れてたけん…。」


凪兎「だって、ヘンな人やが、悪い人じゃねぇってのは、何か感じたしよ。」


博記「文字の変換には、難があるが、祖父との写真を大切に持ち歩いてるの、何か良いしな。」


菜々子「アダ名の付け方も、安直やけどね、モサエのファンクラブ第1号ってのも、何か可愛いし。」


楼流「ソレは褒めてくれてるのかい?」


楼流は、サングラスを外して胸ポケットに入れた。

その表情は困惑している。


琴羽「では、改めて、マネージャーをお願いします。」


楼流「ガリッ!!」


凪兎「がり…?」


琴羽「英語で『Got it!』、つまり、了解って言いたいんだと思う。」


楼流「キミタチには、本場の発音は難しかったようだ。」


琴羽「そしてもう1つ…。」


琴羽が言おうとしている事を遮って…。


楼流「オレの露燻 楼流って名前はニセモノだ。」


凪兎「まぁ…ある意味ホッとした…。」


菜々子「それもあのババアの遊び心か…。セバスの件で礼をしなきゃと思ってたんやが、違う意味で礼が必要やな…。」


琴羽「本当の名前は、音瀬 慎司(おとせ しんじ)さんって言うの。」


慎司「改めて、シクヨロ。あと、敬語もナシでイイぜ。」


菜々子「ヘンなアダ名付けられたお返しに…。」


菜々子は、クチの端を釣り上げて、ニヤアッと笑う。


琴羽「ナナちゃん顔わるっ!」


菜々子「苗字は音瀬やし、年齢も年齢という事で、親しみを込めて『オッちゃん』と呼ぼうや。」


凪兎「おっ、それイイな。」


博記「おっちゃんやし。」


琴羽「決まり、ね。どう?オッちゃん。」


慎司「もう決まりって言ってるじゃないか…。」


女将「じゃぁ、新しい仲間って事で、何か飲む?オッちゃん(笑)」


慎司「ロックンロールと言えば、やはりスプライトだろう?」


予想外過ぎる答えが返ってきたため、女将は二の句が継げなくなっている。


凪兎「スプライトには悪いが、絶対に違うと思う。」


女将「ピンポイントで来たわねぇ…。生憎置いてないけん、炭酸水にレモンを入れたものでどう?」


何とか気を取り直した女将が言う。


慎司「じゃあ、ソレを頼む。」


琴羽「私は…。」


と琴羽が言いかけると、既に焼酎のロックが差し出される。


琴羽「さすが、女将さん。」


女将は、ドヤ顔で炭酸レモンを作り始めた。


菜々子「アタイは、レモンサワー、濃いめのヤツ。」


凪兎「オレはコーラで。」


博記「…。」


大人しく水を飲み続けている博記。


凪兎「………飲めよ。」


博記「あ?」


凪兎「こういう時は、飲めよ何エンリョしてんだよ気持ちワリィ。」


博記「えっイイの!?オバ…………女将さんビール!」


女将「今何て言おうとしたんだよクソガキ。さっきは美人なお姉さんとか媚び売っときながら…。」


女将は、拳を握りしめながら言った。


琴羽「こういうトコは素直なんよねヒロ…。」


そして、全員に飲み物が行きわたる。


琴羽「女将さんも、一緒に。」


女将「アラ嬉しい事言ってくれるじゃないの。」


そして、女将も小さなグラスにビールを注ぐ。


琴羽「では、マネージャーから一言お願いします。」


慎司「まぁ、ちょっとした遊び心からキミタチを試させてもらったワケだが、オレとしても、キミタチと一緒に音楽をやっていきたいと思えた。そんな真夜中の大都会な気持ちだ。」


菜々子「これツッコんだ方がイイとかいな…。」


困惑した表情を浮かべる菜々子を気にもとめず…。


慎司「コレから、それぞれ目標とするものに向かい、バンドとしても、一丸となってやって行く手伝いをさせてもらいたいと思う。あまり長く喋っても冗長なだけだから、一言。これから、宜しく頼む。じゃあ、キャンパウィ!!」


慎司は、笑顔でグラスを高々と上げた。。


一同「カンパ~~~イ!!」


菜々子「よろしくね、オッちゃん。」


凪兎「二次会はマックな。」


博記「二次会マックて意味わかんねぇよ。」


博記は嬉しそうにビールを飲みながらも、凪兎にツッコんだ。


慎司「本当に、楽しみだ。」


凪兎「しかし、オレ達の演奏も聞かずに、オッちゃん的にはOKなんか?」


慎司「いつぞやの心霊ライブの映像を、セン子さんに見せてもらったよ。画面を通してだったけど、それだけで十分だった。」


菜々子「アタイら、この物語が始まってまだ一度も直接演奏してないけどね。」


琴羽「ナナちゃん…。」


ひとしきり騒いだ後、おひらきになり、一同は店を出る。

店を出たところに、翡翠がニコニコしながら立っていた。

翡翠は、店を出てきた博記の方に歩み寄る。


翡翠「やぁ、シマ。」


博記「ん?誰だアンタ。シマ…………?ってオマエ!」


翡翠「スイだよ。白神 翡翠。久しぶりだね。」


琴羽「知り合い?」


翡翠「あぁ、ごめんなさい。お友達が居るのに、不躾だったわ。白神 翡翠と言います。シマとは幼馴染で。」


琴羽「そうだったの。私は千歳屋 琴羽。チコちゃんって呼んでね。」


凪兎「和久 凪兎。よろしく。」


菜々子「山神 菜々子。」


菜々子は、何となく敵対心を感じているようで、心なしか睨むように翡翠を見ている。


慎司「なっ…なんという事だ…。」


慎司だけが、翡翠を驚愕の表情で見ている。


琴羽「どうしたの?」


慎司「知らないのか?歌ってみた動画が超バズってる、シラスイチャンネルの、世界的にも大人気のユーチューバーだ。」


菜々子「アタイはチコの歌にしか興味ないけん。」


凪兎「ヒロ、オマエ心霊ユーチューブ大好きだろ?ユーチューブ好きなら知ってたのか?しかも幼馴染って…。」


博記「いや…それは知らなかった…。」


博記は、心なしか後ずさりしているように見える。


琴羽「でも…。目の前にそんな大人気ユーチューバーが居るとは…信じられない…。」


翡翠「どんなに凄い人だって、神じゃないんだ。存在しているよ。」


菜々子「アタイは神やけどな。」


琴羽「ちょっとナナちゃん、ヘンなトコで張り合わんの。それでいうと、白神さんも神じゃないの。」


菜々子「…。」


SoundSoulsの目の前に現れた大人気ユーチューバー、白神 翡翠。

彼女の目的は…?

ちなみに、菜々子が神と言いたかったのは、名前が山神だったから、だそうだ。

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