第25話『ヨミとヤミ⑨ 再会とプレゼント』

それから暫く時が流れた。

夜深の骨折も、医者も驚く程早く完治した。


夜深「日頃の修行の賜物ですわ。」


夜深も退院し、山神家へと帰ってきた。

その夜深は、もう八巳が体に宿っていないため、会得した術が使えないかに思えたが、八巳のチカラはキッカケに過ぎず、夜深も体寄せは引き続き使えるようだった。


夜深「これも日頃、ドコかのダレかとは違い、真剣に修行してた私の努力の結果です。」


ちょいちょい独り言が挟まれるが、物語を進めよう。

暫く休業していた、ムンムン熟女系イタコの稼業も、再開し、相変わらず好調のようだ。

そんな中、菜々子の部屋に、セバスが呼ばれたようである。


セバス「失礼します。」


菜々子「早速だけど、セバス。」


セバス「はい。」


菜々子「アナタ、これからも、山神家の執事を続ける?」


セバス「と、言いますと?」


菜々子「これまで、超ブラック企業並みに働いて、仕えてくれたでしょ?それこそ、休みなく。嫌気がさしていない?これを機に、思うところがあれば、打ち明けてくれない?」


セバス「先日も申しましたが、私は、山神家に仕える執事。それだけです。」


菜々子「じゃあ、何か心残りとかは?」


セバス「そうですね………。強いて言うなら、母の死に目に会えなかった事でしょうか…。」


菜々子「セバスのお母さん?」


セバス「えぇ。数年前、夜深様に同行して、全国ツアーを行っていた折に、母が突然体調を崩して、そのまま…。」


菜々子「………。」


菜々子は、暫く何かを考えていたが、突如スマホを取り出し、電話をかけた。

琴羽に電話しているようで、暫く話して、納得がいったようで、電話を切った。


菜々子「セバス。」


セバス「はい。」


菜々子「ちょっとアタイとデートしない?」


セバス「デート…ですか?」


菜々子「うん。心スポデート♪」


セバス「…?」


そして、菜々子がセバスと共にやってきたのは、無限地獄シェアハウスである。

門の前に2人が立っていると、セン子が出てきた。


菜々子「よっ。ババァ。」(片手を上げてウインクしながら)


セン子「相変わらずね。チコちゃんからハナシは聞いたけど。」


セン子は、そう言うと門を開けた。


セバス「まったくハナシが見えないのですが…。」


菜々子「歩きながら話そう?」


セン子に引き続き、菜々子とセバスは、シェアハウスへ続く、相変わらず膝の高さくらいの雑草が生えてる道を進んだ。


菜々子「アナタの名前は、セバス・チャンでしょ?なんか、どうも引っかかってて。」


セバス「私の名前が、ですか?」


菜々子「えぇ。アナタの名前は、私が生まれた頃から既に山神家に仕えてくれてるけん、がってん承知の助やったんやけどね。」


セン子「使い方間違ってるわよ。」


菜々子「どうも、どっかで聞いたような気がしてて…。」


そして、3人はシェアハウスの前に到着した。


セン子「このドアの向こうに待たせているわ。」


そしてセン子はシェアハウスのドアを開けた。

ソコに立っていたのは、オバア・チャンだった。


チャン「おや、セン子ゥ様に呼ばれたから来てみれば…。」


セバス「なっ………。」


セバスは目を見開いて、今の状況が呑み込めていないようだ。


チャン「セバスじゃないか。」


セバス「は…母上様…。」


一瞬で、セバスの目から涙か溢れ出た。


セバス「そんな…確かに母上は…数年前…。」


菜々子「幽霊ってヤツ。ココで、何人かの友人と、一緒に暮らしてるそうよ。」


チャン「セバス、悪かったねぇ…。」


セバス「そんな!母上は何も悪くない。私が仕事仕事で、母上の事を蔑ろにしてたのが悪いんです。」


チャン「オマエは何も悪くないさ。ただ、最期に声が聴きたかった。それだけが心残りでのぅ…。」


セバス「母上…。」


チャン「だからワラワは女帝地縛霊となってしもうたのじゃ。」


菜々子「いや女帝は要らんやろ。」


チャン「でも、だからこうして、セバスの声をまた聴く事が出来て、嬉しい。」


セバス「私も、またこうしてお会い出来て嬉しいです!」


チャン「おいで、セバス。」


そう言うと、チャンは両手を広げた。


セバス「母上…。」


セバスはチャンに歩み寄り、チャンは、しっかりと、セバスを抱きしめた。


チャン「またこうして、オマエを抱きしめられる日が来ようとは…。声が聴けただけでも本望じゃというに…。」


セバス(ただ涙を流している)


チャン「無理はしていないかい?」


セバス「はい。私は大丈夫です。」


チャン「そうかそうか。」


そう言いつつ、チャンはセバスの頭を優しく撫でている。


セン子「ふっぐ…。えっぐ…。うっ………うぐっ…。」


そんな2人を見ているセン子は嗚咽していた。


菜々子「オマエも泣くのかよ。いや泣き方汚いわ。」


チャン「では…。」(セバスを離して)


セバス「…。」


チャン「もう思い残す事は何も無いな。」


菜々子「ちょっと待って、もう成仏しちゃうの?」




チャン「えっ?いやマリカ大会するから成仏はムリ。」




菜々子「しねぇのかよ!流れ的に、成仏する流れやったやん!いや成仏して欲しいワケやないけど!!」


セバス「菜々子お嬢様、何とお礼を言ったら良いか…。」


セバスは、ハンカチで涙を拭いて、菜々子に笑顔を向けた。


菜々子「その顔、良いやん!まぁ、そこの女帝も成仏はしないみたいやし、今日はココでユックリしてきなさい。」


セバス「しかし…。」


菜々子「これは命令よ。」


セバス「かしこまりました。心からお礼を申し上げます。」


チャン「ほっほっほ。ワラワは強いぞえ?」


菜々子「セバスも、体を鍛えてるけん強いんやぞ。」


チャン「いやマリカの話し。」


菜々子「…。」


そして、奥の扉から顔をのぞかせたのは…。


モエミ「もう顔出して良いめしや?」


ワルオ「もう出してるでゅくし。」


モエミ「だってぇ…。」


菜々子「お、キュンキュン娘。土産や。」


そう言うと、菜々子はプリンが入った袋を差し出した。


モエミ「プリンめしや!!ありがとう!!!」


ワルオ「小生にも分けて欲しいでゅくし。」


モエミ「ふーんだ!コレは、セン子ゥ様と、オバアと食べるめしや!」


ワルオ「そんな…。」


セバス「母上も、楽しんでおられるようで、良かった…。」


チャン「さ、上がりなさいセバス。ところでセン子ゥ様…。」


セン子「モチロン、今日は、アナタの心行くまで、もてなして差し上げなさい。」


チャン「ありがとうございますじゃ。」


モエミ「マリカするめしや!!」


菜々子「じゃ、セバス。アタイは先に屋敷に帰ってるけん。」


セバス「菜々子お嬢様、本当に有り難うございます。」(モエミに引っ張られながら、深々と頭を下げる)


そして、場所は再び山神家へと移る。

シェアハウスから帰ってきた菜々子は、夜深の部屋に呼ばれた。


菜々子「どうかした?セバスは、今日、ちょっと休暇を与えたけん。」


夜深「セバスの件ではないわ。菜々子に渡したいものがあって。」


菜々子「?」


夜深「これを。」


夜深は、山神家の家紋がついた、立派な布に包まれた物を差し出した。


菜々子は、それを受け取り、布を解いた。


菜々子「!!!」


夜深「アナタに必要なモノでしょう?」


布から出てきたのは、頑丈そうな木で作られた、青で漆塗り仕上げされたドラムスティックだった。


菜々子「これ…。」


夜深「山神家を、遙か昔から守ってくれている、ご神木から作ったものよ。」


菜々子「お母さん…。」


夜深「使ってくれると、嬉しいわ。」(ニッコリ笑って)


菜々子「ありがとう…。大切に使うけん。」


こうして、菜々子の一連の自宅謹慎を巡る騒動は幕を閉じる。

そして…次回からPARTYは、果たしてバンド活動が出来るのか?

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