第23話『ヨミとヤミ⑦ チョコミント』
一方、コチラは、仕置き部屋へと向かうセバス、凪兎。
セバス「コチラです。」
室内には、端末で見たのと同じく、博記が血だらけで磔にされている。
凪兎「ヒロ!!」
慌てて博記に駆け寄る2人。
凪兎「こりゃあ…。」
セバス「血まみれに見えたのは、血のりですね。ケガも、されていないようだ。」
凪兎「眠らされてるだけ…か。」
そして博記の磔を解いてやり、横にする。
セバス「何にせよ、夜深様のやり方は間違っておられました。」
セバスは、ドコからか取り出したタオルで、博記の血のりを拭いている。
凪兎「確かに…。結果的にヒロには何もケガさせてなくても、自分自身が、逆上したナナにボコボコにされとるんやもんな…。」
セバス「人を傷つける覚悟のあるニンゲンは、傷つけられる覚悟も、すべし、という事ですな。」
凪兎「コイツどうする?」
セバス「客室の布団に移動させましょう。」
そう言うと、セバスは軽々と博記を肩に担いだ。
凪兎「すげぇ…。」
再び羨望の眼差しでセバスを見る凪兎。
そのまま、仕置き部屋を出る2人と1人。
そして再び舞台は道場へと移動する。
菜々子「う…ん…。」
気を取り戻した菜々子が、ユックリと目を開ける。
琴羽「ナナちゃん、気が付いた?」
菜々子は、ゆっくりと上半身を起こす。
菜々子「あれ?アイツは…?アタイ確か…。」
琴羽「夜深さん、大怪我してたから、救急車呼んで病院に運んでもらった。たぶん、何か所か骨折もしてるみたいやし。」
琴羽は、自分のスマホをトントン指さして言った。
菜々子「八巳は?まだアイツん中に居るん?」
琴羽「ミンナが揃ってから話そうか。」
そうやって、少し待っていると、博記を客間に寝かせ、2人が道場に戻ってきた。
菜々子「ヒロは!?ヒロはどうしたん!?」
凪兎「気が付いたか。まぁ落ち着け。アイツはケガなんかしてなかった。血のり塗られて、眠らされてただけだったよ。」
セバス「客間に寝かせておきました。」
菜々子「ありがとうセバス…。じゃぁ…アタイはアイツに…。」
菜々子は、改めて自分が夜深にした事を思い返した。
琴羽「言ったやろ?『目には目を、じゃ、報復の連鎖しか呼ばない。』って。」
菜々子「…。ごめん…。」
琴羽「その言葉は、夜深さんに言ってあげて?もちろん、ナナちゃんだけが悪いワケじゃないけど。」
菜々子「それで、八巳はどうなったん?まだアイツの中に?」
琴羽「成仏してもらった。」
一同「へ?」
一同は呆気にとられた。
琴羽「あ、また霊じゃねぇよって怒られそう。正しくは、夜深さんの体から出てってもらったの。もともと、八巳様は別に人間に恨みもないし、宿され続けなきゃいけない理由も無いからって。むしろ、山神家の当主の方が恩恵を受けるために、宿してたって感じだったかな。」
菜々子「じゃあアタイは…。」
琴羽「うん。八巳を宿す必要もないし、そのための修行をする必要もない。」
琴羽はキッパリと言った。
セバス「修行どころか、既に菜々子お嬢様は、八巳を宿す事無く、体寄せを体現しておられますし。」
セバスは、ツラそうな菜々子の体を支えている。
菜々子「アレは、小さい頃から一緒に居たジロちゃんだからこそ、出来たのかも知れん。」
凪兎「でも、ソイツ除霊されちまったぞ?」
琴羽「除霊とは、あくまで、体に取り憑いてる霊を、取り除く事。成仏させる事ではないの。」
凪兎「じゃあ…。」
琴羽「そのうち、またフラッと現れるでしょ。」
菜々子も、安堵の表情を浮かべている。
凪兎「でさ、ウチのエロについてなんだが…。」
琴羽「この一連の事は伝えなくて良いと思う。ただ、ヒロが拉致された状況が、どうだったかによって変わるけど…。」
菜々子「アタイ、没収されてるスマホ取ってくる。」
ツラそうに立ち上がろうとする菜々子を制止して、セバスはスマホを差し出した。
セバス「ココに。私が持っているよう、夜深様に指示されておりましたので。」
菜々子「ありがとう。」
そしてまた座り込んでスマホの電源を入れる菜々子。
菜々子「うわっ…。」
凪兎「どうした?」
菜々子「ヒロから、さっき着信が20件も…。」
そう話していると、また菜々子のスマホが博記からの着信を告げる。
菜々子「もっ…もしもし…。」
博記『おいナナ!おまえ無事か!?』
菜々子「イキナリなんなん?」
博記『すっげぇエロい恰好した女の人に、『菜々子の事で話があります。』って言われたから、ついて来たんだけどよ、何かイイ匂いのするハンカチ嗅がされた辺りから記憶なくて…。イヤ違うぞ?別にエロい雰囲気だったから、付いてったワケじゃなくてよ?別にドコの誰か知らないけどよ、エロいからじゃなくて、オマエが心配で…。』
菜々子「…。」
菜々子は無言で電話を切った。
菜々子「セバス。」
セバス「連れて参ります。」
そう言うと、セバスは道場を出て行った。
程なくして、セバスと、何故かまた肩に抱えられた博記が入ってくる。
博記「…。」
セバス「屋敷の中で迷子になっておられました。」
博記「なんだよこのウサンくせぇオッサンは!」
セバス「菜々子お嬢様の元へお連れすると申しておりますのに、暴れて話しを聞こうとしないもので…。」
菜々子「上出来よ。セバス。」
凪兎「ナナとの電話、オマエの声が漏れてたけん聞いてたけどよ、相変わらずやな、オマエ。」
凪兎は博記を睨むように見て言った。
博記「うるせぇ。」
博記は、流石にバツが悪そうに、凪兎から目をそらす。
琴羽「で、そのエロい恰好した女の人に、ハンカチ嗅がされてから、さっき目覚めるまで全く記憶が無いのね?」
博記「あぁ…。」
琴羽「そのエロい恰好した女の人って、青い髪だった?」
博記「そうやけど?」
琴羽「ナナちゃんのお母さんの、夜深さんよ。」
博記「あれが…ナナの母親…?」
菜々子「ヒロ以外のミンナ…本当に、ありがとう。」
菜々子は、セバスを含む3人に頭を下げた。
博記「えっ?何でズタボロなオマエがお礼言うんだよ?それに何でズタボロなん?」
ワケが分からないという顔の博記に向かって吐き捨てるように凪兎が言う。
凪兎「聞いての通りだよ。エロを期待してただけの、オマエにゃ関係ねぇ。」
セバス「こちらこそ、山神家の古いしきたりを、叩き斬ってくださいまして、有り難うございました。菜々子お嬢様。」
凪兎「うっし。」
琴羽「お礼を言うのは、全部片付いてからよ。ちゃんと、夜深さんと話してから。」
菜々子「そやね。」
琴羽「夜深さんは問答無用で病院送りだったけど、ナナちゃんも、病院行こっか。」
菜々子「アタイは大丈夫。」
琴羽「立つことすら出来ないのに、何が大丈夫ね。セバス、お願いできる?」
セバス「御意。」
そう言うと、セバスは菜々子を抱き上げた。
博記「なぁ、あのオッサンって、チコの執事なんか?」
凪兎「もう、そんなモンだな。」
そして、琴羽、凪兎、博記も、セバスと共に、菜々子の病院に付き添った。
夜深が先に運ばれ、手当てを受け、移動させられた病室は2人部屋だった。
そして、遅れて運ばれた菜々子も手当を受け、夜深と同じ病室に移動させられた。
菜々子「図ったな…チコ…。」
琴羽「親子なんやし、別に問題ないでしょ?」
夜深は、まだ意識が無いようで、機械に繋がれたまま、眠っている。
琴羽「夜深さんも、命には別条ないみたいやし。」
菜々子「アタイが、木刀で滅多打ちにしたけん…。」
琴羽「終わった事は、いくら悔やんでも変わらない。これから、どう向き合っていくかを、考えよ?」
菜々子「もうチコ好きすぎる。アタイが元気やったらシャンパンタワーやわ。」
凪兎「相変わらずオッサンやな。」
凪兎も、少しイツモの調子に戻ってきた菜々子を見て安心している。
琴羽「で、完治したら、バンドしよ?」
凪兎「そうや。コレで、夜深さんも認めてくれるやろ。」
菜々子「結局、ミンナ…ヒロ以外に助けられちゃったね。」
博記「何でさっきからそんなにオレをディスるん?」
琴羽「でも、ナナちゃん自身が、何とかしたいと思わなければ、変わらなかったと思う。」
博記「ハナシが全然見えねぇ…。」
凪兎「帰って酒でも飲んでろよ。」
博記「そりゃ帰ったら飲むけどよ。」
凪兎「飲むんかい。」
サスガに、凪兎も呆れているようだ。
琴羽「じゃあ、私達は帰るけんね?セバスは、付けとくけん。」
セバス「お傍におります。」
凪兎「じゃ、また明日、来るけん、しっかり体を休めとくんやぞ?」
琴羽「ピーちゃんの事も心配せんで良いけんね?」
博記「もう知るか。帰って飲む。」
そう言いながら、3人は出ていく。
セバス「良いご友人を持たれましたな。」
菜々子「うん。チコに出会えて、本当に良かったと思う。」
セバス「友は、一生の宝でございます。」
菜々子「ね、セバス。」
セバス「はい。」
菜々子「アイツの好物って何?」
セバス「夜深様ですか?チョコミントのアイスクリームが、お好きでございます。」
菜々子「それ、買ってきてくれない?」
セバスは、把握したようで、ニコッと笑った。
セバス「承知しました。」
そうして病室を出て行くセバス。
菜々子は、複雑な表情で、夜深を見ていた。
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