第21話『ヨミとヤミ⑤ キッカケ』
夜深は目を閉じてブツブツと何かを唱えている。
春彦「しかし…結局オレらは何も出来てねぇな…。」
壱馬「ココまで来たは良いものの、結局はナナ自身が何とかしようとしてるワケだしな。」
琴羽「そんな事ない。少なくとも、私達はキッカケを与えてるけん。」
春彦「キッカケ?」
琴羽「ナナちゃんが、ちゃんと山神家と、夜深さんと、向き合って何とかしようとするキッカケ。あのまま放置していれば、ナナちゃんはきっと諦めて3年の謹慎を受け入れてると思う。」
壱馬「オレらが来た事が、ナナの決心に繋がったってワケか。」
春彦「しかし、ほんとチコって前向きよな。」
琴羽「そんな事ない。私は、私の言葉に責任を持って話してるだけ。」
壱馬「そのピーチ相手に、さっきも同じような事を言ってたが…。」
琴羽「ほら、話してないで、この戦いの行方を見守るの。私達にも手助け出来るかも知れないし。」
菜々子自身は、ツラそうな表情を浮かべ、木刀を構えている。
夜深「服部半蔵正成。」
春彦「それって…。」
琴羽「えぇ。誰もがご存知、最強の忍者ね。」
菜々子「こい!モンちゃん!!」
琴羽「アダ名で体寄せすんな。」
次の瞬間、菜々子は木刀を横に構え、畳を蹴ったかと思うと、一瞬で夜深の目の前に飛び込んだ。
壱馬「なんてスピードだ…。」
そのまま木刀を横に一閃し、確実に夜深の体を捉えたハズだったが、夜深の体がユラめいて消えた。
菜々子「せからしか!」
そのまま着地と同時に更に壁に向かって跳躍した菜々子。
道場の壁を蹴り、今度は上に向かって跳躍した。
夜深「よく分かったな。」
夜深は、天井に張り付いて菜々子を見下ろし、ニヤリと笑った。
そして菜々子は再び天井の夜深に向かって木刀を振るが、またも夜深の姿はユラめいて消えた。
春彦「残像効果、みたいなヤツか…。」
そのまま菜々子は、振りぬいた木刀を持つ手を放した。
木刀は、振りぬかれた反動で、菜々子の手を離れ、反対方向の壁に剣先から激突し、畳に落ちた。
菜々子「…。」
着地した菜々子は、その木刀が激突した壁を見据えている。
夜深「グッ…。なかなか…やりますわね…。」
その壁から、夜深が腹部を手で押さえつつ姿を現した。
琴羽「隠形術ね…。」
壱馬「あれか、あの、姿を隠す、みたいな?」
菜々子「チョコマカと…。これやけん忍者は。」
琴羽「あの、トコロで、モンちゃんって?」
菜々子「宮本武蔵。通称モンちゃん。」
春彦「イヤ友達かよ。」
菜々子「アタイが小さい頃から遊んでくれてたんやもん。」
夜深「有り得ない…。そんな幼い頃から視えるなんて…。」
菜々子は、夜深の傍に落ちている木刀を拾った。
菜々子「分かったやろ?」
夜深「クッ…。分身の術!」
壱馬「これまたメジャーな術だな。」
次の瞬間、夜深が5人程に分身した。
夜深「コレが本気の術ですわよ。菜々子、泣いて謝っても許さないから、覚悟なさい。」
菜々子「せからしかって言いよるやろがぃ!!」
菜々子が夜深に木刀で斬りかかるが、夜深はソレを両手で受け止めた。
夜深「やはり、体術では私には及ばないようですわね。」
琴羽「真剣白刃取り。完全なパフォーマンスね。」
菜々子「でもアンタが本物や!」
菜々子がそのまま木刀から手を離し、夜深に蹴りを叩き込もうとするが、次の瞬間、横から衝撃を受けてフッ飛んだ。
菜々子「ぐぁっ…!」
菜々子は道場の壁に激突し、そのまま倒れこむ。
木刀を真剣白刃取りした夜深の横に、別な夜深が不敵な笑みを浮かべて立っている。
どうやらこの夜深が、菜々子を攻撃し、フッ飛ばしたようだ。
春彦「ちょっと待て…。分身の術って、1体だけが本物で、後は残像というか、偽物というか…。」
夜深「誰がそんな事を決めたんですの?」
菜々子「ウゥ…。クソ…。だけん本気の術か…。」
夜深「私の分身の術は、全て本物の私ですことよ。」
夜深の1人が、木刀を手に持つ。
そして別な夜深は、菜々子の頭を掴み、無理やり立たせた。
夜深「忍者でも、剣術は優れていますのよ。」
そう言うと、夜深は木刀を下に構え、菜々子に向かって突進した。
春彦「待っ…。」
そのまま夜深は、下から斬りあげるように、木刀を菜々子の脇腹に叩き込んだ。
菜々子「ッ!!」
菜々子は声をあげる暇もなくフッ飛び、畳に崩れ落ちた。
夜深は再び両手で不思議な印を組み…。
夜深「解除。」
その言葉を合図に、分身していた夜深は1人に戻った。
体寄せ自体も、解除したようだ。
菜々子「ぐっ………。」
依然として立ち上がれない菜々子に向かって木刀を放り投げる夜深。
夜深「いくら私が熟練熟女のイタコとは言え、あまり長時間の体寄せは、やはり負担というもの。この美を維持していくためにも、ですわ。」
琴羽「もう1つ良いでしょうか?夜深さん。」
夜深「なんでしょう。」
琴羽「その、両手で組む不思議な印が、体寄せのスイッチのようなものですか?」
夜深「その通りですわ。こういう形式ばったモノも必要ですの。己の精神統一にも繋がりますし。」
琴羽「確かにナナちゃんは、修行してなかったのか、修行してないように見えてただけで実は陰で修行していたのかは分かりません。夜深さんが仰るように、体術では、ナナちゃんは『まだ』夜深さんには及んでいないかもしれない。」
夜深「何が言いたいですの?」
琴羽「ナナちゃんは『こい!』の一言で体寄せしていました。」
夜深「!!!」
壱馬「また動揺したな。」
琴羽「八巳を体に宿す事もなく、です。」
夜深「有り得ない…。」
春彦「徐々に絶対的自信が崩れてきたな。」
次の瞬間、再び一瞬で間合いを詰めてきた菜々子の横殴りの一太刀が、見事に夜深の腹部を捉え、夜深をフッ飛ばして道場の壁に叩きつけた。
夜深も動揺して油断していたのか、全く防御出来なかったようだ。
菜々子「ハァ…ハァ…。」
菜々子は虚ろな目で夜深を睨みつけている。
春彦「オイ…ナナ…ヤバくねぇか?」
セバス「積年の…というものでしょうか。」
壱馬「イツの間にオレらの近くに…。」
琴羽「積もり積もったモノが溢れ出て、歯止めがきかなくなってると?」
セバス「菜々子お嬢様は、私のようなサンドバッグの事も、大変気にかけてくださる、そんなお優しいお嬢様です。」
春彦「もはや自分でサンドバッグ言ってるし…。」
琴羽「ナナちゃん…セバスの事も、ずっと気にしてたのね。」
壱馬「もはや呼び捨てかよ…。」
夜深「ぐっ…ガハッ…。」
夜深は、ヨロヨロと立ち上がった。
菜々子「まだ………まだぁッ!!!」
菜々子は、木刀を上に構え、夜深に向かって跳躍し、夜深の頭部から真下に叩きつけるように振り下ろした。
それは見事に夜深を捉え、夜深は頭から畳の床をエグるように叩きつけられた。
そして、菜々子は、木刀を突き刺すように垂直に構え、夜深に向かって跳躍した。
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