第17話『ヨミとヤミ① 自宅謹慎』
例の飲み会の日は、結局全員、博記の家に泊まって、解散となった。
その翌日の夜、マクドナルドでハンバーガーをパクついてる凪兎に、背後から琴羽が声をかける。
琴羽「お待たせー。」
凪兎「おー、チコ。」
琴羽「ここ、座ってもイイ?」(凪兎の向かいのイスに座って)
凪兎「もう座ってるじゃねぇか。」
琴羽「ナナちゃん、朝帰りしたやん?」
凪兎のポテトを口に放り込みながら言う琴羽。
凪兎「朝帰りってか、オレら全員そうだったじゃん。」
凪兎は、大して気にする素振りもなく、コーラを飲んでいる。
琴羽「ナナちゃん、前日に、家に連絡してなかったらしいんよ。」
凪兎「え?まぁ、だいぶ飲んで荒れてたからなぁ…。」
琴羽「ナナちゃんの家、厳しいやん?」
凪兎「まぁ、そう聞いてたけどよ。」
琴羽「しかも、泊まったのが男の家だって事もバレてて。」
凪兎「えっ?なんで?」
琴羽「アレじゃない?位置情報を把握されてるとか。」
凪兎「こわっ…。」
琴羽「ソレで、謹慎を言い渡されたらしいんよね。」
琴羽は、心なしか神妙な面持ちで言った。
凪兎「あぁ、なるほどな。で、何日?」
琴羽「3年。」
凪兎「………。」
凪兎は、予想外の答えに、クチに入れようとしてたポテトをトレイに落とす。
凪兎「シャレになってねぇ。」
琴羽「だけんさ、私たちで、ワケを説明して、何とか許してもらおうかなって思って。」
引き続き、凪兎のポテトを食べ続ける琴羽。
凪兎「ったく…。あんな思いしてまでナナのバンド活動を許可してもらったばっかなのに…。」
琴羽「それ食べたら行こっか。」
凪兎「で?もう1人見当たらないみたいやが。」
モグモグしていたハンバーガーをコーラで流し込みながら、呆れた顔で言う凪兎。
琴羽「連絡つかんのよ。家に行っても留守っぽいし。」
琴羽は、自分のスマホをトントン叩いている。
凪兎「まぁイイか。ナナが困ってんなら、助けてやるのが仲間ってモンよな。」
琴羽「特にナナちゃんは、イタコの末裔とかで、結構イヤな想いもしてきたみたいやし…。」
凪兎「言ってたよな。『チコがバンドに誘ってくれて救われた。』って。珍しくシリアスモードの時に。」
そして食べ終わった凪兎は…。
凪兎「うっし。ガソリン満タン。」
そう言って立ち上がり、トレイを返却する凪兎。
琴羽「こっからナナちゃん家までは、そう遠くないし。」
琴羽も立ち上がる。
そして、2人は、徒歩で移動し、山神家へとやってきた。
大きな木製の塀が続き、立派な門の前で足を止める2人。
凪兎「ウワサには聞いてたが、デケェな…。」
凪兎は感心したような顔で呟く。
琴羽「さて、行くわよ。」
琴羽は、門についているノッカーを打ち付けた。
程なくして、使用人らしき女性が出てきた。
使用人「何か御用でしょうか?」
2人を、無遠慮にジロジロ見ている使用人。
琴羽「あ、私たち、菜々子さんの友人で、千歳屋 琴羽と言います。こっちは和久 凪兎です。」
凪兎「ども。」
琴羽「菜々子さんのお母様と、お話しさせていただけないでしょうか?」
使用人「どういった理由で?」
使用人は、明らかに不信感を露わにしている。
琴羽「菜々子さんが自宅謹慎を言い渡されたと聞いて、誤解を解きたくて。」
使用人「ヘンですね。自宅謹慎が言い渡された時点で、お嬢様はスマートフォンも没収されていて、ご友人と連絡を取る事は不可能だったはずですが。どうしてその事をご存じで?」
琴羽「チコちゃんだからです。」
凪兎「オイオイ…。」
使用人「………。少々そのままお待ち下さい。」
そう言うと、使用人は再び門を閉めた。
凪兎「オマエまた非公開情報握ってたのかよ。」
呆れたように言う凪兎に、琴羽は…。
琴羽「だって、チコちゃんには何でもお見通しだお。」
凪兎「…。」
呆れてモノが言えない凪兎。
琴羽「何かツッコんでよね。」
凪兎「その言葉を探すのに手間取ってるんよ。」
暫く話しながら待っていると、再び門が開き、使用人が姿を現した。
使用人「ヨミ様が、お会いになるそうです。」
凪兎「ヨミ様?」
琴羽「ナナちゃんのお母さん。山神 夜深さんって名前なの。」
使用人「コチラへ。」
使用人に促され、中へと歩を進める2人。
庭も見事に手入れされており、様々な木や植物が植えられ、整えられている。
そして家の中に通され、客間と思われる広い部屋に通され、座って待つよう言われる3人。
凪兎「あのさ、図書館とか行くと、お腹痛くならねぇ?オレ、今ちょうどそんな感じなんやが。」
琴羽「客間だけでこの広さ…。」
琴羽は、広い割りに物が置かれていない室内を見回しながら言う。
琴羽「イタコって、そんな儲かんのかな。」
凪兎「バカチコ!オマエ軽はずみにそんな事言ってると、ドコでダレが聞いてるか分かんねぇぞ。」
凪兎の方が焦って室内をキョロキョロ見回す。
琴羽「ナギだってヘンな事言ってたやん。」
凪兎「今ソコに触れんのかよ。」
そう話していると、ドアが開き、1人の女性が入ってくる。
肩より少し上まで伸びた青い髪、切れ長の目、通った鼻筋、そして分厚く赤い唇が、どこか妖艶な雰囲気を醸し出している。
そして、衣装も露出度が高めのものを着用しており、更にその雰囲気を助長している。
この女性こそが、菜々子の母の、山神 夜深である。
夜深「初めまして。山神 夜深です。」
琴羽達の向かいに腰を下ろす夜深。
琴羽「千歳屋 琴羽と申します。チコちゃんって呼んでください。」
凪兎「和久 凪兎っす。」
夜深「それで、菜々子について話しがあるとか。」
琴羽「今、菜々子さんは自宅謹慎中らしいですね。」
夜深「えぇ。3年の刑に処している所ですの。」
夜深は、手を口元に持って行き、クスリと笑った。
凪兎(小声で)「ヒロ…いやエロが居たら、落ちてたな絶対に。」
琴羽「どうして、そんなに長い謹慎を?」
夜深「私の言いつけを守らなかった罰ですわ。」
夜深は、屈託なくニコニコとしている。
琴羽「失礼を承知で単刀直入にお聞きしても?」
夜深「どうぞ。」
琴羽「どうしてそんなエロい恰好をしてるんですか?」
琴羽は、真面目そのものという表情で聞いた。
凪兎「おいチコ!!ヒロでもそんなストレートに聞かねぇぞ!!」
夜深「私は、ムンムン熟女系イタコで通っておりますの。」
琴羽「ちょっと待って、この人なに言ってるの?」
聞いてみたは良いが、夜深が何を言ってるのか分からずに困惑する琴羽。
要するに熟女特融の色気もウリにしているという意味のようではあるが…。
夜深「最も、そんな表面上の要素だけで名を上げたワケではありませんのよ。もちろん、イタコとしての実力もお墨付きですことよ。」
凪兎「………。」
凪兎は『うさんくせぇ…。』と言わんばかりの顔をしている。
夜深「口寄せって、ご存じ?」
琴羽「えぇ。霊を自分に憑依させて、その言葉を伝える、とされる術ですよね?」
夜深「そう。それに私は、言葉だけでなく、その霊の身体能力まで憑依させる事が出来ますの。」
凪兎「ウソだろ…?」
琴羽「それ武蔵刑事のマネ?」
凪兎「違うわ!って誰だよソレ!」
琴羽「今、新空港占拠やってるもんね。」
よく分からないボケをかます琴羽。
夜深「だから、体も鍛えておりますの。」
そう言うと、夜深は立ち上がり、近くにあった花瓶を手に取り、そのまま右手で握りつぶして破壊した。
凪兎「終夜が居たら何て言ってたか想像つくわ。」
琴羽「きっとキラキラした目で夜深さんを見てるわね。」
夜深「そこに、熟女系の色気が上乗せされれば…もう、ほっとけないでしょう!?ってワケですのよ。」
妖艶に微笑む夜深。
琴羽「でも確か、あの時、ナナちゃんも霊に体を乗っ取られたけど、確かに傷だらけってのもあったけど、霊が体を上手く使いきれなかったみたいやし。」
夜深「まだまだ、あのコは修行と色気が足りませんの。」
夜深は、羽織っていた上着を一枚脱ぐ。
更に肌が露出し、ムンムン度が増す。
凪兎「でもよ、例の幽霊騒動の時に、ナナ、あのシェアハウスのババア見ながら『母上様は、こんなにハレンチじゃないもの。』って言ってたけどよ…。」
琴羽「ナナちゃんにとっては、産まれた頃から見てるワケだし、コレがナナちゃんにとっての、母親のデフォルトだったんやないかな…。」
凪兎「あのババアに比べたら、コッチが、よっぽどハレンチやと思うんやけどな。」
凪兎は、夜深をマジマジと見ながら言う。
琴羽「それで本題ですが、菜々子さんは、連絡を怠ったのは悪いと思います。ただ、異性の家に無断外泊したとは言え、ココに居る私たち全員と飲み会をして、そのまま泊まっていましたので、不純異性交遊的な事は一切ありませんでした。」
凪兎「だから、3年とかいう自宅謹慎は、勘弁してやってもらえませんか?やっとバンドとして活動を許可して貰った矢先の出来事で、オレ達も、何とかしたくて。」
琴羽、凪兎は、座ったままではあるが、夜深に頭を下げる。
夜深「良いでしょう。あのコも、良い友人を持ったものですわね。ただし、私が出す条件をクリアしたら、ですけど。」
琴羽「やっぱスンナリとは行かないね。」
待っていましたとばかりに、不敵な笑みを浮かべる琴羽。
こうして、またもや見切り発車となった本編。
果たして菜々子は3年の自宅謹慎を逃れる事が出来るのだろうか?
そして、ムンムン熟女系イタコとの条件とは!?
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