第13話『幽霊屋敷⑫ チカラを持つ言葉』

時を少し戻し、シェアハウス中に響き渡ったセン子の1度目の咆哮。

終夜は、少し離れた場所に蹴り飛ばされ、ピクリとも動かない。

そして、少し時が経ち、シェアハウス入り口から、数人の影が出てくるのが見えた。


セン子「そう、集まりなさい。私の大切なシモベ達。」


セン子は、大きく息を吐くと、化け物じみた見た目から、元の人型の姿に戻った。


チャン「お久しぶりです。プリンセス・セン子ゥ様。」


セン子「久しぶりね。チャン。変わりない?」


チャン「えぇ、お陰様で、快適に過ごさせていただいております。」


セン子「ワルオと、モエミも、相変わらずそうね。」


モエミ「うん!!モエミンガーZ楽しかっためしや!」


ワルオ「ちょっ…モエミたん!相変わらずの破天荒ぶりでゅくしが、このお方は、小生達の、言わば神でゅくし。」


セン子「ん?ピーチの姿が見えないようね。」


セン子自身も、登場した時に、入り口付近に居たのがピーチだとは気づいていない。


モエミ「さっきココに来るときに見かけたけど、何かニンゲンの女と刀で戦ってためしや。」


セン子「そう…。じゃぁ、じきにカタをつけて来るわね。」


チャン「そう言えば、最近ココに越してきた、あの緑の髪の若者の姿が見えんのぅ…。」


ワルオ「確か名前は、ジーとか何とか言ってたでゅくしな。」


チャン「セン子ゥ様にお初にお目にかかれるチャンスだと言うに…。何をやっとるんじゃあの若者は…。」


そのジー自身は、セン子の手によって消滅させられたとは、夢にも思っていないようだ。

セン子自身は、全く意に介していないようで、興味もなさそうだ。


モエミ「このニンゲン、やっつけためしやか?」


モエミは終夜を指さして問いかけた。


セン子「えぇ。クチほどにも無いゴミだったわ。」


モエミ「またモエミンガーZで戦いたいめしや!」


そして、暫く待つが、ピーチは一向に姿を見せない。


セン子「何をしているのあのコは…。」


セン子は、腕組みをして、不快そうに眉を寄せている。


モエミ「放送で呼び出すめしや!放送したい!!」


ワルオ「では、小生はサポートというカタチで。」


そう言いながら、モエミとワルオは、シェアハウス内にある管理人室へと姿を消した。


チャン「セン子ゥ様。」


セン子「なに?」


明らかにイライラした口ぶりで答えるセン子。

腕組みした指先が、せわしなく動いている。


チャン「今回は、どうも胸騒ぎがしてなりません。」


セン子「たかがニンゲンよ。ソコに転がってるヤツ然り、私達の前には、成す術なんかない。」


チャン「セン子ゥ様お気に入りの、例のピーチも、なかなかに意地っ張りですからな。」


そうこう話していると、元気なモエミの声で放送が始まる。


セン子「まさかあのコ、苦戦してるって事は無いわよね?」


チャン「例のイタコの末裔とかいうコムスメと戦っておりますじゃ。残りのニンゲン2名は、ワラワらが、再起不能にしておきました。」


セン子「私の可愛いピーチ…。」


チャン「…。」


そして、少し経ち、再びシェアハウスからワルオと、そのワルオの頭に乗っかっているモエミが戻ってきた。


モエミ「さぁ、早くプリン買ってくるめしや!!」


ワルオ「ちょっ…。この件が片付くまで待つでゅくし!」


モエミ「おまえウソついたな!」


ワルオ「ちがっ…。」


怒ったモエミに首を締められ、更にボコボコにされているワルオだが、何故かニヤニヤしている。


セン子「この場所は、誰にも渡さない。」


その3人を、愛おしそうに見つめるセン子。

そしてまた暫く待つが、一向にピーチが出てくる気配は無い。


セン子「私は待たされるのが一番キライなんだよっ!!!」


そう言うと、再び巨大化したセン子が、終夜に向かって突進し、大きく右足を振り上げ、そのまま振り抜いた。




ドンッ!!という音と共に、終夜はシェアハウスに向かってフッ飛び、窓を突き破って消えた。




そしてセン子は、再びクチを大きく開き、咆哮を轟かせた。


セン子「行くわよ。」


チャン「秒で息の根を止めて差し上げましょうぞ。」


ワルオ「小生達の生活を脅かすニンゲンに天罰を下すでゅくし。」


モエミ「おまえ終わったら絶対プリン買ってくるめしや!」


そう言いながらシェアハウスに向かって歩を進めた4人の耳に、シェアハウス内から声が聞こえてきた。

突然の出来事に、4人は足を止める。


チャン「これは…歌声…?」


モエミ「キレイな声めしや!」


ワルオ「しかしコレはピーチの声じゃないでゅくし…。」


セン子「現れたわね…。」


チャン「現れた…とは?」


セン子「私たちの、久しぶりの強敵が。」


セン子は、ニヤリと笑みを浮かべつつ言った。


チャン「ですが、先ほど、セン子ゥ様は、ニンゲンには、成す術は無いと…。」


セン子「ソイツがニンゲンなら、のハナシよ。」


チャン「…。」


そして再び舞台は琴羽サイドに移る。


菜々子「相変わらずホレボレする歌声です…。」


琴羽「さぁ!負けんな!上げてけボルテージ!!」


その琴羽の掛け声をキッカケに、凪兎、博記、終夜は目を覚ました。


凪兎「クッ…ソ…。」


終夜「ぜっ…てぇに…勝ぁつ…。」


博記「キュンキュン!」


菜々子「エロは一生気絶してろ。」


琴羽「あ、そう言えば…。」


菜々子「?」


琴羽「ナナちゃんのバナナは、マッスルマーケットやけど、ヒロのビールは、安売王のマルミエールで、ナギのは、マック黄泉坂店やけん。」


凪兎「黄泉坂店!?超有名店舗やんか!めちゃ人が多かったやろ?」


琴羽「そうなのよ。マルミエールも、安売王と銘打つだけあって、人が多くて駐車場に車を停めるだけでスンゴい待ったし。そのマック黄泉坂店も、来る途中で見かけて寄ったら、人だらけで、思わずムスカになるトコだったわ。」


菜々子「思わずムスカになるって…どういう状況…。」


琴羽は、心底疲れたという表情だ。

男ども3人も、完治とまでは行かないが、問題なく動けるまで回復している。


琴羽「だけんココに来るのが遅れたん。」


博記「なんでオレは全身ビショビショなんや?」


琴羽「さぁ?雨でも降ったんじゃないと?」


博記「こんな酒臭い雨があるか!!」


菜々子「てかマックにも有名店舗とかあんの?」


凪兎「あるわ!なかなか手に入らないレアアイテムが置いてある店とか。」


菜々子「マックでレアアイテムって何!?」


琴羽「さて、依頼を完遂するよ?」


その、琴羽の言葉を合図に歩き出す5人だが、菜々子が何かに気づいて足を止めた。


琴羽「どしたん?ナナちゃん。」


菜々子の視線の先には、ピーチが使っていた、自称ギャル正宗が転がっている。

そのギャル正宗を手に取り、鞘に納める菜々子。


菜々子「…。」


琴羽「刀泥棒?」


菜々子「違うわ!!もう、さっきからアタイがずっとツッコミに徹してるんやけど!!」


琴羽「だって他人の刀を…。」


菜々子「アタイのせいで消滅させてしまったけん。責めて供養を…ってね。」


菜々子が、沈痛な面持ちでそう言うと…。


ピーチ「余計なお世話よ!!」


菜々子「えっ?」


菜々子が辺りを見回すが、ピーチの姿は見えない。


琴羽「ナナちゃん、そこ、そこ。」


琴羽が指さしている、ギャル正宗の鍔付近に、ユラユラと、小さな人魂のようなモノが見えており、それから声が聞こえてきている。

その人魂の中心付近に、ボンヤリとピーチらしき顔が浮かんでいる。


ピーチ「あのヤロウは絶対にウチがブチ倒す!」


菜々子「いやぁぁ~~~~ん!なにこれーーーー!?キャッワウィィィイイイィィィィ~~~~!!!!」


その人魂ピーチに瞬殺され、メロメロになっている菜々子。

そんな菜々子を尻目に、その人魂ピーチに近寄る琴羽。


琴羽「初めまして。私は千歳屋 琴羽。チコちゃんって呼んでね。」


ピーチ「ウチは山姥ピーチ。君の名は?」


琴羽「だけんチコちゃんやって。アナタ、見たとこ、もう消滅する寸前といった感じね。」


そのピーチらしき人魂を、目をハートにして、捕まえようとしている菜々子。

どうしても捕まえて持ち帰りたいようだ。


ピーチ「だから何?ウチは、あのお方の元に行かなきゃならないの。」


ピーチは、そのままの状態で、フワフワと浮遊しながら遠ざかっていく。


琴羽「無理やと思うけどなぁ…。」


その琴羽の言葉通り、10メートルも離れないウチに、ピーチの姿がフッと消え、再び刀の鍔付近に現れる。


ピーチ「なっ…。」


菜々子「キャッ………キャワウィィィ~~~~!!!!欲しい!!コレ欲しい!!!」


琴羽「恐らく今のアナタは、その刀を媒体として、やっと自身を保っていられる状態なのよ。だから、何日か何年か何十年か先、徐々に回復したら、また前のアナタに戻れると思うわ。」


ピーチ「そんな…。」


ピーチは、驚愕の表情を浮かべたあと、悲しそうに目を伏せた。


琴羽「でも、こうしてカタチを保ってられたのはラッキーだったわね。」


ピーチ「アンタ達のせいでウチはッ…!!」


そのピーチの言葉を、琴羽の指が遮った。


琴羽「自分の弱さを、他人のせいにしない事ね。ソレはナナちゃんにも言える事やけど、ナナちゃんも、死にかけてて、自分の体を最悪級の霊に乗っ取られてしまった。」


ピーチ「あんなヤツに勝てるワケ…。」


そう喋るピーチの言葉を、再び琴羽の指が遮った。


琴羽「そこから先は言わない事よ。言葉にすると、その言葉はチカラを持つけん。ソレに、ソイツを倒せば、あるいは早く元に戻れる『かも』知れない。」


凪兎「それさ、本来はイタコの末裔であるアイツが言うべきセリフよな?」


様子を見ていた凪兎が、至極当然といった表情で言う。


終夜「ありゃダメだ。目をハートにして叫びまくってる。」


終夜は、当たり前の顔をして馴染んでいる。

博記は、酒の影響か、眠そうな顔で、大してこの会話には興味なさそうにしている。


ピーチ「それに今は、あのお方の元に行かなきゃ…。ウチは、この場所を失ってしまう…。」


琴羽「ナナちゃん。」


菜々子(ハッとして)「ん。」


その琴羽の一言で、菜々子は正気に戻ったようだ。

さっきまでのデレデレとは違い、引き締まった表情になる。


琴羽「行こっか。」


菜々子「そやね。」(ギャル正宗を手に取って)


ピーチ「どうするツモリや!離せ!!」


琴羽「丁度コッチも、用があってね。」


菜々子「電気代の取り立てといきますか。」


凪兎「サンザン殴ったり蹴ったりしてくれた礼をしなきゃな。」


終夜「しかし、あのババア強すぎやろ。」


博記「…。」


5人は、シェアハウスの外へと向かって歩き始めた。

そして、SoundSouls+1人と、無限地獄シェアハウスの、最終決戦が始まる。

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