第12話『幽霊屋敷⑪ 荒療治』

ゼェゼェと、肩で息をしている菜々子。


ピーチ「そんな折れた刀で何が出来るって言うのよ。」


菜々子「心は折れとらん!!」


ピーチ「お上手。」


と、言うや否や、ピーチは今度は刀を下に構え、菜々子に向かって突進する。


菜々子「せからしかぁ!!」


菜々子は刀を横に一閃するが、ピーチは読んでいたかのように体勢を低くし、その攻撃をかわし、菜々子に向かって刀を勢いよく振り上げた。

その攻撃は、確実に菜々子を捕らえたかに見えたが、その前に菜々子が突然体勢を崩し、空振りに終わってしまう。




そのまま、菜々子は今度こそ白目を剥き、気を失った。




ピーチ「とっくに限界は超えてたか。分かってたけど。」


ピーチは、菜々子を一瞥し、菜々子に背を向けた。

確かに気を失って、倒れるかに見えた菜々子が、突如、ドンッ!という音と共に踏ん張り、体勢を立て直す。


ピーチ「!!!」


菜々子『あァ…。久しぶりの生身だ。』


ピーチ「なっ…。」


菜々子『オメェがコイツを弱らせてくれたお陰で、オレがコイツの体を乗っ取る事が出来たよ。感謝するぜ。』


ピーチ「どういう事…?」


菜々子『オレがまた人を斬れるってこった。』


ニヤリと不敵な笑みを浮かべた菜々子が、折れた刀を横に構え、ピーチに向かって有り得ないスピードで突進してきた。


ピーチ「ドコにそんな体力が…ッ!!」


ピーチは、その一撃を受けようと、両足を踏ん張り、刀を構えた。




ギィンッ!!という耳障りな金属音が響いた時には、既にピーチの体は遥か後方に吹っ飛ばされ、太い柱に叩きつけられ、広範囲に渡ってその柱をエグった後だった。




菜々子『有難く思えや。音速を越える剣の餌食になれただけでも、冥土の土産にはなっただろ。』


ピーチ「ガッ………ハァ………。」


菜々子『ってか、オマエも、人間じゃねぇな?』


ピーチ「うぐっ…。」


ピーチは、かろうじて呼吸出来ているという状況のようだ。


菜々子『ま、関係ネェか。こっからまたオレの人斬りライフの始まりだ。』


そのまま、菜々子は刀を逆に構え、ピーチに向かって突進し、峰打ちによる連撃を叩き込む。


ピーチは、為す術もなくその連撃の餌食となった。


ピーチ「………ッ…。」


菜々子『敢えて峰で打ち込んでやってんだ。も少し楽しませてくれや?ネーチャン。』


もはやタコ殴りにされるだけの状態のピーチ。

だが、次の瞬間、菜々子の胸部から、血が噴き出す。


菜々子『チッ…。いくら乗っ取れても、体がナマクラじゃ意味ネェか…。』


と、そこに、♪ピンポンパンポーン♪という、何ともこの場には似つかわしくない、間の抜けた音とともに、シェアハウスのスピーカーからモエミの声が聞こえてきた。


モエミ「ピーチめしや!ピーチめしや!」


菜々子『???』


モエミ「えっと…なんだっけ…。」


ワルオ「(小声で)プリンセスでゅくし。」


モエミ「プリンが呼んでるめしや!!」


ワルオ「(小声で)惜しいでござる。プリンセスでゅくし。」


モエミ「プリン呼んでる!早く来るめしや!!」


ワルオ「(小声で)いやだから…。」


モエミ「おまえ声小さいめしや!!」


ワルオ「(小声で)小生は、モエミたんが、放送したいって言うから…サポートを…。」


モエミ「プリン食べたい…。」


ワルオ「(小声で)後で買ってくるデュクシから、今はピーチを呼ぶデュクシ。」


モエミ「ピーチ!!早く来るめしや!!」


ワルオ「(小声で)シンプル・イズ・ベスト。」


そして、再び♪ピンポンパンポーン♪という、間の抜けた音と共に放送は終了した。


ピーチ「い…いィイい…行かナきゃ…。」(ガクガクと体を痙攣させながら)


菜々子『興覚めだな。もうイイ。』


ピーチは、刀を支えに、ズルズルと、体を引きずって歩いていく。


菜々子『だが…。』


ニヤリと不気味な笑みを浮かべた菜々子が、再びピーチに向かって突進し、そのまま上から叩きつけるように刀を振り下ろした。


ピーチ「…!!」


ピーチは声を上げる暇もなく昏倒し、かろうじて形を保っていた姿が、爆散した。


菜々子(折れた刀を、肩に乗せトントン叩きながら)『立つ鳥跡を濁さずってな。もう縁も無ぇだろうけどよ。さて…もっと役に立つ体を探すとするか。』


そして、一瞬の間をおいて、菜々子は、体を大きく震わせた後、憑き物が落ちたかのように脱力し、そのまま倒れようとするが…。




琴羽(菜々子を受け止めて)「ごめんナナちゃん。」




琴羽は、走ってきたのか、荒い呼吸を落ち着け、大きな手荷物を下ろしながら、菜々子の付近の虚空を睨むように言った。


琴羽「無理させちゃったね。」


菜々子は、安心したのか、脱力しきった体を琴羽に預けながら、涙を流した。


琴羽「もう大丈夫やけん。ナナちゃんが守ろうとした大切なモノは、ナナちゃんに代わって私が守る。」


菜々子「だ………め………。」


菜々子は、かろうじて声を絞り出した。


琴羽「そう来ると思った。じゃぁ、一緒に守ろう。」


そして、琴羽は、優しく菜々子の体を横たえた。

菜々子の胸からは容赦なく血が流れ続けている。


琴羽「こんなになるまで…。痛かったやろ、辛かったやろ…。」


琴羽は、大きな手荷物に手を突っ込み、ゴソゴソと何かを探している。


琴羽「最後の最後で、ナナちゃんに無理させた『アイツ』も許せないけど、今はまだ、すべきじゃない。」


琴羽は、手荷物からバナナを一房取り出した。


琴羽「高級スーパー、マッスルマーケットの、ちょっとお高いバナナやけんね。」


琴羽は、おもむろにバナナの皮を剥き、菜々子のクチに突っ込んだ。


琴羽「ちょっと荒療治になるけん、覚悟しとってよ。」


そのまま、次々と、バナナを菜々子のクチに突っ込み続ける琴羽。


琴羽「♪かぁ~…さんがぁ~…夜なべぇ~…をして~…てぶくぅ~ろ編んで~…アイラービュー~♪」


独特な歌を口ずさみながら、事務的な作業のように続ける琴羽。

そして、少し時間が経過すると、ソコには一房ぶんのバナナの皮が残った。


琴羽「さて、と。」


琴羽は、再び手荷物に手を突っ込むと、更に、二房のバナナを取り出した。


菜々子(ガバッと飛び起きて)「殺す気なんか!!」


琴羽「あら、もう元気になっちゃったん?」


菜々子「人が動けんのを良いコトに、次から次へとアタイの可愛いオチョボ口を!!」


琴羽「やっぱ、ナナちゃんにはバナナが一番やね。」


菜々子「ばってん、傷も癒えたのは確かや。チコの歌声か…それとも…。」


菜々子は、そばに転がっているバナナの皮を見つめた。


琴羽「私の歌声は、心も体も癒す、天使の歌声やけんね。」


菜々子「天使じゃなか。」


琴羽「えっ?だって、ナナちゃんが好きなアーティストナンバーワンは、私やろ?」


菜々子「神の歌声や。」


琴羽「ちょっ…。新手の告白なん?」(顔を真っ赤にして)


菜々子「間違いなか。」


菜々子は、虚空を睨みつけながら立ち上がった。


琴羽「ナナちゃんてば…。じゃ、他に行きますかね。」


そう言って、琴羽も立ち上がる。


琴羽「この壊れ具合からして、この部屋が怪しいね。」


琴羽は、そう言って近くの一室に入っていった。

ソコには、いまだに目を覚まさない春彦と博記が倒れていた。


琴羽「ちょうど2人やけん、ナナちゃんも協力してね。」


琴羽は、再び手荷物を置き、手を突っ込むと、ビール(ロング缶)の6缶パックを取り出した。


菜々子「えっ?ちょっ…それ気絶してる人間にヤルんですかい?オヤビン。」


琴羽「誰が銀ギツネのフォクシーや。」


菜々子「えっ!?そっち!?ってアタイがツッコミに回ってるやん!アタイ、爆乳美人ボケキャラなんやけど!」


琴羽「ばく…にゅう…?」(キョトンとした顔で)


菜々子「あぁもう!!こうなるけんイヤやったんや!このボケ潰しが!!」


琴羽「ビールは、あと3パックあるけんヒロも復活するやろ。」


菜々子「逆にある意味死ぬ。」


琴羽「ナナちゃんは、ハルお願いね。」


そう言うと、琴羽は再び手荷物に手を突っ込み、ビールを3パック出した後、大きなマックの紙袋を取り出した。


琴羽「♪お~お~きなマックの紙袋ぉ~…おじい~ちゃんのぉ~袋ぉ~♪」


菜々子「袋の方かい!!ソコは、おじいちゃんのマックでしょうが!」


琴羽「じゃ、お願いね。」


と、言うや否や、琴羽はプシュッという景気の良い音と共に缶ビールを開け、ヒロの鼻をつまみ、口に思い切り注ぎ込んだ。


菜々子「それ更にヤバいヤツやん…。チコ、ヒロの息の根を止めるツモリかいな…。」


と言いながら、仕方なく菜々子もポテトを春彦のクチに押し込んでいく。

そしてコチラも少し時間が経過した。


菜々子(テリヤキバーガーを春彦のクチに押し込みながら)「ふぅ…。チコ、そっちはどう?」


琴羽(全ての缶ビールがカラになって転がってる)「まぁ、こんなモンでしょ。」


菜々子「ヒロ…全身ビールでビショビショになってるんですけど…。」


琴羽「だって、なかなか入らんのやもん。」


菜々子「あの、気絶してるってのは、分かってる?」


琴羽「さて、ナナちゃんの時は私の美声で復活が早まったけど、この2人はもう少しかかるやろ。」


そう言って、おもむろに部屋を出て廊下に出る琴羽。

慌てて後を追う菜々子。


菜々子「ね、チコ。」


琴羽「ん?」


菜々子「事態は把握してるん?」


琴羽「大体…ね。」


菜々子「アンタ、何者なん?」


琴羽「チコちゃんです♪」


菜々子が、更に何か言おうとクチを開くが、次の瞬間、廊下の窓を突き破り、壱馬が飛び込んでくる。

と、同時に再びセン子の咆哮が響き渡る。


琴羽「あぁ…だいぶ待ってるけんイライラしとるかな?」


菜々子「アイツをね…。でも、消滅したやろ?」


琴羽「さぁね。でも、好都合やったわ。」


琴羽は、飛んできたボロボロの壱馬の横に座り、例の手荷物からプロテインを取り出し、壱馬のクチに流し込んだ。


菜々子「四次元ポケットかい…。」


琴羽「惜しい。マッスルマーケットの、抽選会で当たった四次元エコバッグなんやけどね。」


菜々子「その名前つけた店員を呼んで欲しい。めっちゃ入るやん。」


琴羽は、壱馬にプロテインを注ぎ終わり、立ち上がった。


琴羽「さて…。」


菜々子「PARTYの始まりと、いきますか?」


琴羽「やね。」


琴羽は深く息を吸い込み………。

そして時は少し戻り、セン子サイドへと移る…。

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