第6話『幽霊屋敷⑤ 緑のアイツ』

意を決して、建物へと歩を進める凪兎。

その背中に、菜々子が声をかける。


菜々子「ナギ…。」


凪兎「大丈夫だ。アイツはオレが助ける。」


凪兎は、菜々子に背を向けたまま、片手を上げて答えた。


菜々子「いやエロはどうでもよくて、アタイ、この幽霊屋敷編を、感動巨編にしたいんよね。」


凪兎「えっ!?オマエ、今のこのアリサマ見て言ってんの?どう考えてもムリだろ。」


菜々子「えっ!?なんで!?」


凪兎「もうカバー出来ねぇ程の雑なボケばっかやし、逆に、どういう根拠があって感動巨編に出来ると思ったんや。」


菜々子「だって、せっかくアタイが主役なんやし。」


凪兎「つかもう一人称はアタイでイイんやな?」


菜々子「この感動巨編は、チコには渡さへんで!!」


凪兎「好きにしろよ。」


呆れてタメ息をつき、凪兎は鉄パイプを肩にかつぎ、建物内へと入っていった。

その後ろ姿を見送った後で、菜々子は気づいてしまった。


菜々子「やっべぇ…1人になっちゃった…。」


慌ててキョロキョロと周囲を見回す菜々子。


菜々子「あのババアだけでも残しておくべきだった…。」


オドオドしている菜々子の背後から…。


セン子「どのババアよ。」


菜々子「うわぁオバケェ!!」


菜々子は思わず飛びのいて、セン子から距離を取った。


セン子「ちゃんと美脚が二本あるでしょ?」


菜々子「あ、ホントや。大根も真っ青のブッといのが二本あるわ。」


セン子「コレでも、近所のゲンさんには『キレイな足じゃのぉ。その足を見てると、戸愚呂弟を思い出してテンション上がるわぁ。』って言われてるのよ。」


菜々子「それ絶対にホメられてない。女相手のホメ言葉じゃない。」


セン子「それにしても、ヤッてくれたわね。」


菜々子「だから間違えたんやって。」


セン子「この建物に居るのは、あのギャルだけじゃないのよ。」


菜々子「他にも居るとは思ってたわよ。アイツにチカラを貸してるヤツが。」


セン子「あの子がラスボス、じゃないわよ?」


意味ありげな発言をするセン子をよそに、菜々子は、忌々しげにピーチがフッ飛んで消えた窓を睨んでいる。


菜々子「アタイは、SoundSoulsを守る。」


セン子「何をワケの分からない事を…。」


と、セン子が言いかけたところで、二人のすぐ傍に、ズドン!!という音と共に何かが落下してきた。


ソコには、緑色の髪をリーゼントにし、鋭い黒のサングラスをかけ、紺色の短ラン(分かるかな?)を身にまとい、ワイルドスギちゃんのように、肩で袖を引きちぎって、ボンタン(分かるかな?)を履いている、ゴリゴリのマッチョな男が立っていた。


ただ…。


菜々子「ちっさ…。」


身長がカナリ低めの男だった。


緑髪「テメェか…。ウチのピーチを痛めつけてるヤツぁ…。」


菜々子「違います!このババアです!!」


セン子「もうさ、普通にババアって言うのヤメて?」


セン子は、ウンザリした様子だ。


緑髪「オレは、このシェアハウスに類似したマンションからやって来て、今はココの住人の、ミドリー・ルイ・ジーだ。」


菜々子「類似マンション…。」


ジー「今んトコ、その類似のマンションは3棟ある。」


菜々子「それ、3まで出てるもんね。」


セン子「なに納得してんのよ。」


ジー「ブッ潰してくんで、ヨロシクゥ。」


ジーは、懐からクシを取り出して、リーゼントをとかしている。


菜々子「これ、ヤンキーってヤツ?」


セン子「懐かしいわぁ…。80年代かしら?」


菜々子「やっぱババアじゃん。」


ジー「大正だ。」


菜々子「オマエもかい!」


ジー「この学生鞄には、鉄板が入っている。」


おもむろに学生鞄を取り出すジー。


セン子「あぁもう懐かしすぎて逆に新しいわぁ…。」


ジー「ルイージブーメラン!!」


ジーがそう叫び、カバンを、ブーメランのように菜々子の方にブン投げた。


菜々子「ルイージ言ってるし!!」


菜々子は、例の太い棒状のモノで、そのカバンをハジいた。


ジー「リバース!!」


ジーが、腕を引く素振りを見せると、ハジかれたカバンが、再び菜々子の方に向かって飛んできた。


菜々子「なっ!!」


突然の事に反応出来ない菜々子だったが、突然横から突き飛ばされて、カバンの軌道からは逸れた。


菜々子「いった!」


突き飛ばされてコケた菜々子の目の前に立ってたのは…。


謎の男「危ないトコだった…。」


菜々子「だっ……誰ぇ……?」


謎の男「失礼。自己紹介よりも先に緊急事態だったもので。オレの名は春風 終夜(はるかぜ しゅうや)。チコに頼まれて助太刀に来た。」


菜々子「チコの知り合い?」


終夜「あぁ。まぁ、友人といった所だな。シュウちゃんって呼んでね♪」


春風終夜と名乗ったその男は、菜々子にウインクして見せた。


菜々子「…。」


ジー(カバンを回収して)「おーおー。何か図体だけのヤツが現れたな。」


低身長なジーに対し、終夜は高身長だ。

終夜を見上げるように睨み付けるジーに対し…。


終夜「あ?どっから声がするんだ?」


ジー「テメェ…。」


終夜(視線を落として)「あぁソコか。あまりにもチビなんで見えんかったわスマンな。」


菜々子「シュウちゃん、コイツ人間じゃないよ。」


菜々子は、柔軟に対応している。


終夜「え?こんなにハッキリ見えるのに?じゃぁ、ソコのババアも?」


セン子「もう帰ろうかな…。」


菜々子「そのババアは人間よ。」


ジー「ナメんのも大概にしとけやデクノボウが。」


ジーが地面を蹴って終夜に向かって突進した。

一瞬の出来事に反応出来なかった終夜の腹部に、ジーの拳がメリこんだ。


終夜「がっ…。」


その勢いのまま、終夜はフッ飛び、建物の壁に叩きつけられた。


ジー「的がデカいと当てやすいな。」


そのまま再び終夜に向かって突進し、今度は終夜の腹部に膝を叩きこむジー。


終夜「………ッ!!」


声を上げる暇もなく、そのまま壁を突き破って奥へとフッ飛ばされた終夜。


ジー「リーゼントが乱れちまったぜ。」(再びクシでリーゼントをとかす)


菜々子「………。」


ジー「オイそこの女。」


セン子「はい!!」


ジー「オマエじゃねぇよババア。」


ジーがそう言い放った瞬間、セン子を纏う雰囲気が変わった。


セン子「ドイツもコイツも…。」


セン子は、後ろで縛っていた髪を、ほどく。


セン子「ババアババアと、よくも言ってくれたわね。」


菜々子「なに…?何か空気が冷たく…。」


セン子「私が何も言い返さないからって、ババア、ババア、ババア…。」


長い黒髪がザワザワと蠢き、体は小刻みに震えている。

その、うつむき加減の顔からは表情は読み取れない。


セン子「……リンの…ことか…。」


菜々子「えっ?なんて?」




セン子「クリリンの事かぁああああぁぁぁーーーーっ!!!」




次の瞬間、セン子の筋力が何十倍にも膨れ上がり、上着は肩から手首にかけてハジけ飛び、ズボンも、太ももあたりから下がハジけ飛んだ。

ちょうど、なかやまきんに君のような出で立ちになったセン子。

長い黒髪が、セン子が発する衝撃波でザワザワと蠢いている。


セン子「パワーーーーッ!!!」


ドンッ!という音と共に地面を蹴ってジーに向かって突進したセン子。


ジー「なっ…。」


セン子「喰らえ!ババアタック!!!」


菜々子「自分でもババア言っとるやん…。」


右腕を大きく振りかぶり、ジーに向かって叩きつけるように放ったセン子。


ジー「ヤベェ!!!」


咄嗟に避ける事が出来ないジーは、仕方なく顔の前で両腕をクロスさせて受け止めるツモリのようだ。


だが、次の瞬間、セン子は、横から衝撃を受けてフッ飛んだ。


セン子「ぐっ…。」


地面に叩きつけられたセン子の目には、先ほど建物の壁を突き破ってフッ飛んだ終夜の姿があった。


終夜「ワリィなババア。ソイツぁオレが倒すからよ。」


どうやら、終夜がセン子に飛び蹴りを放ったようだ。


セン子「オノレ…クソガキが…。」


終夜「テメェも悪霊なんじゃないのか?なんだそのフォルムの変化はよ。」


終夜は、ジーを警戒しつつ、セン子とも距離を取った。


菜々子「ヤバい。。。このままじゃ、確実にチコも登場する…。」


そんな3人の様子を伺いつつ、菜々子は、違った意味で額に汗を浮かべていた。

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