第6話『幽霊屋敷⑤ 緑のアイツ』

意を決して、建物へと歩を進める春彦。

その背中に、菜々子が声をかける。


菜々子「ハル…。」


春彦「大丈夫だ。アイツはオレが助ける。」


菜々子「いやヒロはどうでもよくて、アタイ、この幽霊屋敷編を、感動巨編にしたいんよね。」


春彦「えっ!?オマエ、今のこのアリサマ見て言ってんの?どう考えてもムリだろ。」


菜々子「えっ!?なんで!?」


春彦「もうカバー出来ねぇ程の雑なボケばっかやし、逆に、どういう根拠があって感動巨編に出来ると思ったんや。」


菜々子「だって、せっかくアタイが主役なんやし。」


春彦「つかもう一人称はアタイでイイんやな?」


菜々子「この感動巨編は、チコには渡さへんで!!」


春彦「好きにしろよ。」


呆れてタメ息をつき、春彦は鉄パイプを肩にかつぎ、建物内へと入っていった。


菜々子「やっべぇ…一人になっちゃった…。」


慌ててキョロキョロと周囲を見回す菜々子。


菜々子「あのババアだけでも残しておくべきだった…。」


セン子「どのババアよ。」


菜々子「うわぁオバケェ!!」


セン子「ちゃんと美脚が二本あるでしょ?」


菜々子「あ、ホントや。大根も真っ青のブッといのが二本あるわ。」


セン子「コレでも、近所のゲンさんには『キレイな足じゃのぉ。その足を見てると、戸愚呂弟を思い出してテンション上がるわぁ。』って言われてるのよ。」


菜々子「それ絶対にホメられてない。女相手のホメ言葉じゃない。」


セン子「それにしても、ヤッてくれたわね。」


菜々子「だから間違えたんやって。」


セン子「この建物に居るのは、あのギャルだけじゃないのよ。」


菜々子「他にも居るとは思ってたわよ。アイツにチカラを貸してるヤツが。」


セン子「あなたの母上様は、凄くやり手のイタコだって聞いてたからお願いしに行ったのに…。」


菜々子「イタコに、やり手とかあんの?」


セン子「実際に様子を見に来たら、何とも頼りない小娘が居るんだもの。」


菜々子「アタイは、PARTYを守る。」


セン子「何をワケの分からない事を…。」


と、セン子が言いかけたところで、二人のすぐ傍に、ズドン!!という音と共に何かが落下してきた。


ソコには、緑色の髪をリーゼントにし、鋭い黒のサングラスをかけ、紺色の短ラン(分かるかな?)を身にまとい、ワイルドスギちゃんのように、肩で袖を引きちぎって、ボンタン(分かるかな?)を履いている、ゴリゴリのマッチョな男が立っていた。


ただ…。


菜々子「ちっさ…。」


身長がカナリ低めの男だった。


緑髪「テメェか…。ウチのピーチを痛めつけてるヤツぁ…。」


菜々子「違います!このババアです!!」


セン子「もうさ、普通にババアって言うのヤメて?」


緑髪「オレは、このシェアハウスに類似したマンションからやって来て、今はココの住人の、ミドリー・ルイ・ジーだ。」


菜々子「類似マンション…。」


ジー「今んトコ、その類似のマンションは三棟ある。」


菜々子「ルイージマンション3まで出てるもんね。」


セン子「なに納得してんのよ。」


ジー「ブッ潰してくんで、ヨロシクゥ。」


ジーは、懐からクシを取り出して、リーゼントをとかしている。


菜々子「これ、ヤンキーってヤツ?」


セン子「懐かしいわぁ…。80年代かしら?」


菜々子「やっぱババアじゃん。」


ジー「大正だ。」


菜々子「オマエもかい!」


ジー「この学生鞄には、鉄板が入っている。」


おもむろに学生鞄を取り出すジー。


セン子「あぁもう懐かしすぎて逆に新しいわぁ…。」


ジー「ルイージカッター!!」


ジーがそう叫び、カバンを、ブーメランのように菜々子の方に投げた。


菜々子「ルイージ言ってるし!!」


菜々子は、例の太いペンで、そのカバンをハジいた。


ジー「リバース!!」


ジーが、腕を引く素振りを見せると、ハジかれたカバンが、再び菜々子の方に向かって飛んできた。


菜々子「なっ!!」


突然の事に反応出来ない菜々子だったが、突然横から突き飛ばされて、カバンの軌道からは逸れた。


菜々子「いった!」


壱馬「ワリィ遅くなって。」


菜々子「イッちゃん!ハレンチな夜のトレーニングは?」


壱馬「なんか胸騒ぎがしてな。」


ジー(カバンを回収して)「おーおー。何か図体だけのヤツが現れたな。」


壱馬「あ?どっから声がするんだ?」


ジー「テメェ…。」


壱馬(視線を落として)「あぁソコか。あまりにもチビなんで見えんかったわスマンな。」


菜々子「イッちゃん、コイツ人間じゃないよ。」


壱馬「え?こんなにハッキリ見えるのに?じゃぁ、ソコのババアも?」


セン子「もう帰ろうかな…。」


菜々子「そのババアは人間よ。」


ジー「ナメんのも大概にしとけやデクノボウが。」


ジーが地面を蹴って壱馬に向かって突進した。

一瞬の出来事に反応出来なかった壱馬の腹部に、ジーの拳がメリこんだ。


壱馬「がっ…。」


その勢いのまま、壱馬はフッ飛び、建物の壁に叩きつけられた。


ジー「的がデカいと当てやすいな。」


そのまま再び壱馬に向かって突進し、今度は壱馬の腹部に膝を叩きこむジー。


壱馬「………ッ!!」


声を上げる暇もなく、そのまま壁を突き破って奥へとフッ飛ばされた壱馬。


ジー「リーゼントが乱れちまったぜ。」(再びクシでリーゼントをとかす)


菜々子「………。」


ジー「オイそこの女。」


セン子「はい!!」


ジー「オマエじゃねぇよババア。」


ジーがそう言い放った瞬間、セン子を纏う雰囲気が変わった。


セン子「ドイツもコイツも…。」


セン子は、後ろで縛っていた髪を、ほどく。


セン子「ババアババアと、よくも言ってくれたわね。」


菜々子「なに…?何か空気が冷たく…。」


セン子「私が何も言い返さないからって、ババア、ババア、ババア…。」


長い黒髪がワザワザと蠢き、体は小刻みに震えている。

その、うつむき加減の顔からは表情は読み取れない。


セン子「……リンの…ことか…。」


菜々子「えっ?なんて?」




セン子「クリリンの事かぁああああぁぁぁーーーーっ!!!」




次の瞬間、セン子の筋力が何十倍にも膨れ上がり、上着は肩から手首にかけてハジけ飛び、ズボンも、太ももあたりから下がハジけ飛んだ。

ちょうど、なかやまきんに君のような出で立ちになったセン子。

長い黒髪が、セン子が発する衝撃波でザワザワと蠢いている。


セン子「パワーーーーッ!!!」


ドンッ!という音と共に地面を蹴ってジーに向かって突進したセン子。


ジー「なっ…。」


セン子「喰らえ!ババアタック!!!」


菜々子「自分でもババア言っとるやん…。」


右腕を大きく振りかぶり、ジーに向かって叩きつけるように放ったセン子。


ジー「ヤベェ!!!」


咄嗟に避ける事が出来ないジーは、仕方なく顔の前で両腕をクロスさせて受け止めるツモリのようだ。


だが、次の瞬間、セン子は、横から衝撃を受けてフッ飛んだ。


セン子「ぐっ…。」


地面に叩きつけられたセン子の目には、先ほど建物の壁を突き破ってフッ飛んだ壱馬の姿があった。


壱馬「ワリィなババア。ソイツぁオレが倒すからよ。」


セン子「オノレ…クソガキが…。」


壱馬「テメェも悪霊なんじゃねぇの?なんだそのフォルムの変化はよ。」


壱馬は、ジーを警戒しつつ、セン子とも距離を取った。


菜々子「ヤバい。。。このままじゃ、確実にチコも登場する…。」


そんな三人の様子を伺いつつ、菜々子は額に汗を浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る