第4話『幽霊屋敷③ ウィークポイント』

刀を抜き、構えたまま、ジリジリと、春彦に近寄っているピーチ。


春彦「おいナナ!大丈夫かよ!?」


ピーチ「こんな時に人の心配か?」


菜々子「ちょっとヤバいかもマリオ…。」


春彦「だからオレは…。」


そう春彦が言いかけてピーチの方に目をやると、ピーチは驚愕の表情を浮かべている。


春彦「ん?」


ピーチ「マ…マママ……マリオ…だと?」


ガクガクと足を震わせ、ピーチは刀を放し、その場にヘタリこんでしまった。


春彦「オイ今度は何だよ…。」


菜々子「デカしたアタイ…。コレがコイツのウィークポイントってヤツね。」(苦痛に表情をユガめたまま)


春彦「ウィークポイント?弱点って事か?」


菜々子「そういう事。コイツ人間じゃないって言ったやろ?何か分からんけど、アタイの力が変化しつつあるのかも…。コイツは幽霊で、ウィークポイントは、マリオ。」


菜々子は立ち上がり、依然として苦しそうな表情のまま、ピーチを見据えている。

どうやら、菜々子のイタコとしての能力が何か変化を遂げようとしているようだ。


春彦「は?」


菜々子「ねぇハル…いやマリオ…。」


春彦「………。なんだよ…。」


菜々子「めっちゃ陽気に『イッツ ミー マリオー!』って叫んで。」


春彦「死んでもゴメンだ。」


菜々子「マジで死ぬんやって!このままだと!!」


春彦「…。」


ピーチ「オノレ…。」


ピーチは額に汗を浮かべながらも、再び刀を手に、立ち上がろうとしている。

その表情は、恐怖から怒りへと変わりつつあるようで、春彦を睨んでいる。


春彦「くっ…こうなりゃヤケだ。イッツ ミー マァァァァリィィィィオォォォォォォウ!!!ヤッフゥゥゥー!!!!」


菜々子「ソコまでは求めてない。」


菜々子は真顔で春彦にツッコんだ。


ピーチ「ぎゃああぁぁぁあああああ!!!!」


耳をつんざくような絶叫の後、苦悶の表情を浮かべたピーチは、一瞬にして姿を消してしまう。


春彦「消えたぞオイ。」


菜々子「まだコレからよ…。」


菜々子は、ポケットから何かを取り出し、クチに含む。

そのままソレを、持参していた飲み物で喉に流し込む。


春彦「こんな時に何を食ってんだよ。」


菜々子「バファリン。」


春彦「え?そういうのが効くタイプの頭痛!?」


菜々子「半分は優しさで出来てるからテヘペロ。」


春彦「まだコレからって、どういう事だよ?」


菜々子「あの部屋だけの電気代で、そんな高額請求が来るワケないやろ?」


ピーチ『おのれマリオォォォ!!!』


そう話していると、ドコからともなく響いてくるピーチの怒声。

シェアハウス自体にスピーカーでもついているかのような絶叫だが、何故かシェアハウスの周りには聞こえていないのか、周囲に変化はない。


ピーチ『ウチの純情を返せえぇぇぇぇぇぇっ!!!』


春彦「何したんだよマリオ。」


賢明な読者なら、もう理解しているとは思うが、マリオとは、例のマリオではないようだ。違うマリオのようだ。


ピーチ『絶対に生きては返さんぞぁ!!』


そうピーチが叫ぶと、全ての部屋に一斉に明かりが灯った。

部屋どころか、玄関、庭、全ての明かりが煌々と輝いている。


春彦「…………。」


菜々子「ね?」


そして乱暴に玄関の扉が開け放たれ、中から再びピーチが飛び出してきた。

先ほどと違うのは、頭に兜をかぶり、靴をローファーからタビに履き替えている。


春彦「やっぱ潰したローファーじゃ動きにくいよなぁ…。」


玄関から猛スピードで春彦達の方へと突進するピーチ。

手にはギャル正宗を下に構えている。


菜々子「悪霊退散!!」


菜々子がそう叫ぶと、菜々子の手に、突如として木製の剣が出現した。


菜々子「名刀、ナナ正宗!」


春彦「なんかもう、ツッコみきれねぇ…。」


菜々子は、一瞬で春彦とピーチの間に移動し、ピーチの渾身の一撃を木製の剣で受け止めた。


ピーチ「なっ…。」


春彦「オマ…。そんな動き出来るのかよ…。」


菜々子「いったんウィークポイントを突かれ、退散したものの、仲間にでもチカラを借りて復活したか?」


ピーチ「くっ!」


ピーチは、大きく後ろに跳躍し、菜々子と距離を取った。


菜々子「あまぁい!」


と言うや否や、菜々子が一瞬でピーチの目の前に移動し、ナナ正宗を下から振り上げた。


ピーチ「チョー太刀筋がミエミエなんですけどぉ!」


ピーチは体をかがめて避けた。

が、次の瞬間、菜々子の膝蹴りがピーチの顔面に食い込んだ。


ピーチ「がっ…。」


そのままフッ飛び、後頭部から地面に叩きつけられるピーチ。

次の瞬間には、菜々子は跳躍し、そのまま着地と共に、ピーチの腹部にナナ正宗を突き立てた。


ピーチ「ぎゃあぁぁああああああああああ!!!!!」


叫び声と共に、大きく仰け反るピーチ。

その突き立てたナナ正宗を引き抜き、すかさずピーチの首へと一閃した菜々子。


菜々子「悪く思うな…。」


ピーチは、そのまま、声にならない叫び声を上げ、消滅してしまった。

辺りを再び静寂が包み込むが、依然として、シェアハウスは輝きを保ったままだ。


菜々子「まだクッパは先に居るんやね。」


春彦「てか、もう意味が分からな過ぎて、全ての感覚がマヒしてるんやが。」


菜々子「あ、アタイは、その状況に応じてクルクルとキャラが変わるけん。」


春彦「いやソコじゃねぇよ。」




ピーチ『マ゛ァ゛ァ゛ァ゛リ゛ィ゛ィ゛ィ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ!!!』




菜々子「…。ナカナカにシツコいみたいね。」


再び、春彦達の前に姿を現したピーチは、更に羽織袴の上に鎧を纏い、特に首には頑丈な防具が備えられている。


菜々子「ねぇコイツ、そのうち金色に輝き始めるんじゃない?」


春彦(無視して)「首を守ってるあたり、後付けやが、学習はしてるみたいやな。」


菜々子「コイツにチカラを与えてるヤツを倒さない限りは、無限にコイツが復活してくるわ。」


春彦「えっと…。」


菜々子「?」




春彦「だけん無限地獄シェアハウス?」




菜々子「!!!!!」


春彦「コイツが無限にパワーアップして、倒しても倒しても襲ってくるってムリゲー?」


謎の女性「その通りよ。」


突如、門の陰から現れた女性。

年齢は、見たところ、20代にも見えるが、40代にも見える。

黒く長い髪を後ろで縛り、整った顔立ちと、凛とした印象を受ける声。

身長は、さほど高くは無いが、妙な圧を感じる。


春彦「誰だオマエ。」


突如として現れた女性。

彼女の正体や如何に!?

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