第3話『幽霊屋敷② ピーチ』
そして、スタジオで練習を終え、そこから無限地獄シェアハウスへと向かったので、時刻は当然のように日が落ちる頃になった。
菜々子「はいっ!というワケで、ワタクシ美人リポーター山神菜々子は、心霊スポットと名高い無限地獄シェアハウスの前に立っております!現場の、和久さーーーん!?」
凪兎「オマエも現場だろうがよ。つか、何でオレとオマエしか居ないんだ?」
菜々子「えっと、ちょっと電波の状況が良くないようで、現場の和久さんが何言ってるか分からないですね。」
現場となっている無限地獄シェアハウスに背を向けるカタチで、入り口の前に立っている菜々子と凪兎。
突然リポーターごっこを始めた菜々子にウンザリした様子で…
凪兎「ヒロはまぁ、見るのは好きだが、こういうのムリってチコが言ってたから無理強いは出来ないがよ。」
菜々子「あんな酒も抜けてない状態でベース弾きに来るヤツなんか、アテになりませんぜ。」
菜々子は、飽きてきたのか、マイクに見立てている木の棒で凪兎をツツいている。
凪兎「チコはチコで、面白そうじゃない?とか言ってたクセによ…。」
菜々子「では、気を取り直して、現場に向かってみたいと思います!」
そう言うと、現場の方に体を向ける菜々子。
意気揚々と歩き出そうとするが…。
凪兎「取り直すな!まずオレの話しを聞け!」
菜々子「げ…げげげ…げげげげげ…現場の…。」(マイクを持っている体の腕をガクガク震わせながら)
凪兎「鬼太郎かよ。ったく、何なんだよ。」
凪兎も同じく、体を建物の方へ向ける。
門に大きく『無限地獄シェアハウス』と記されており、そこから玄関と思しき場所までは、膝の高さくらいの草が生い茂っている。
建物としては、シェアハウスと銘打つだけあり、2階建てで、正面から見ただけで10を超える部屋数があるのが分かる。
しかし、何よりも2人の目を引いたのが…。
凪兎「オイオイ…。2階の左上の部屋…。」
菜々子「どっ…どう見ても電気が点いておりますね…。」
凪兎「原因分かって良かったじゃん電気つけっ放しじゃん消してこいよナナ。」
菜々子「一息で言うな!」
そして、その光に照らされて、人のような影が動いているのも見える。
右に左に、ユラユラと、まるで人ではないかのように滑るように…。
菜々子「…………。」
凪兎「どうすんだよ。」
菜々子「アイツさえ倒せば、アタイのバンドライフが!!」
凪兎「待て待て、アレが何なのかすら分からんのやぞ?」
菜々子「あのクッパ倒せば、アタイはバンド出来るんや!」
意を決して駈け出そうとする菜々子の腕を、とっさに凪兎が掴む。
凪兎「落ち着けナナ。」
菜々子「チコだけだったんだもん。普通に付き合ってくれるの。他の人たちは、イタコの末裔とか、家柄とか、それだけで、よそよそしくなったり…、腫物に触るような態度になったり。」
凪兎「…。」
凪兎は複雑な表情を浮かべ、菜々子の腕を放した。
菜々子は、さっきまでの調子とは打って変わって、泣きだしそうな顔になり、言葉を続けた。
菜々子「チコがバンドに誘ってくれた時、本当に嬉しかった。何か、『木製の剣を振り慣れてるから、ドラムが良いんじゃないか。』とか、良く分からない理由で担当は決まったけど。」
凪兎「…。」
菜々子「そこから、ナギやヒロと知り合って、ミンナ、アタイの事を知っても、変わらず普通に友達で居てくれてるし。」
凪兎「正直、イタコの末裔と言われてもピンと来てないだけだけどな。」
これは、お世辞でもなんでもない、正直な気持ちだった。
琴羽も博記も、そしてモチロン凪兎も、イタコの末裔と友人になったのではなく、菜々子と友人になったのだから。
菜々子「だから、絶対にこのSoundSoulsって、アタイの居場所だけは、掴み取るって決めたの。」
菜々子は、シェアハウスの、明かりが灯る部屋を、何かを決意したような表情で見上げた。
そんな菜々子を見て、思わず凪兎も…。
凪兎「わぁったよ。付き合うよ。」
菜々子「よし!行って来いマリオ!!」
凪兎の方を向き、右手の親指をグッ!と立てて下手くそなウインクする菜々子。
凪兎「ブッ飛ばすぞ!!」
菜々子「え?じゃぁ何かい?か弱い女の子のアタイが、あんなトコに行って、あーんな事や、こーんな事をされても良いと!?」
凪兎「いや…。」
またクネクネと気持ち悪い動きをする菜々子に対し、二の句が継げなくなっている凪兎。
菜々子「さっきアタイの腕をカッコ良く掴んで『チョ待てよ!』とか、イケメン風に言ってたのに!?」
凪兎「ソレは言ってねぇ!」
菜々子「は…はわわわわわ………。」
何かに気づいたように、突如表情を強張らせ、後ずさりを始める菜々子。
この時、菜々子はシェアハウスの方を、凪兎はソレに背を向けるカタチで立っている。
凪兎「今度は何だよ!!」
菜々子「あれ…。」(建物の左上の部屋を指さす)
凪兎「だから、あの部屋が問題だろ…って…。」
再び凪兎が左上の部屋に目をやると、その動いていたと思しき影は、人型になり、窓際に佇み、肩には鎌のような形をした何かを担いでいるのが見える。
それはまるで…。
凪兎「死神…?」
菜々子「しかもコッチ見てる…?」
凪兎「これマジでヤベェんじゃねぇの?」
そう話していると、突然、対象の部屋の明かりが消え、真っ暗になってしまう。
菜々子「………。」
凪兎「………。」
固まったように動けなくなっている2人。
目の前で起こった出来事に、頭が追い付いていないようだ。
その少し後、シェアハウスの玄関の明かりが、点灯した。
菜々子「ちょっ…。」
その直後、玄関のドアが開き、ソコに何者かが立っているのが見て取れる。
体格は、どちらかと言えば小柄で、見ようによっては、女性にも見えるが、逆光になっていて、詳細までは分からない。
凪兎「オイオイオイオイ…。」
凪兎は、咄嗟に、傍に落ちていた細い鉄パイプを掴む。
その何者かが前に進み出て、明かりに照らされ、その姿が確認出来た。
小柄な女性で、金色の髪を腰まで伸ばし毛先はパーマをかけ、前髪は横一文字に切りそろえられ、肌は黒く、羽織袴に身を包み、足にはルーズソックスと、カカトを潰したローファーを履いている。
コレはまるで…。
凪兎「え?まるで?」
コレはまるで…。
凪兎「え?なにコレ?」
ギャルである。
凪兎「オレの知ってるギャルと違う!!」
そのギャルは、日本刀と思しき物を肩に担ぎ、菜々子と凪兎を、睨むように見ている。
先ほど、鎌のように見えたのは、この得物だったようだ。
菜々子「名を名乗れ!!」(凪兎の後ろに隠れて)
ギャル「ウチの名は、山姥ピーチ。君の名は?」
菜々子「美人リポーターの、山神菜々子と、現場の人の、和久凪兎さ。」
凪兎「あの、いったん整理しようか。」
ピーチ「問答無用!!」
と、言うが早いか、ピーチは、刀を鞘に納めたまま、凪兎に向かって突進し、振り下ろした。
凪兎「マジかよ!!」
凪兎は、咄嗟に持っていた鉄パイプを振り上げ、ピーチの一撃を受け止める。
ピーチ「チョミラスパベリグ!!」
凪兎「やっぱオレの知ってるギャルとは違う!!」
ピーチは、後ろに跳躍し、凪兎と距離を取る。
凪兎「チッ…。」
凪兎は、ピーチの一撃を受け止めた、痺れた腕をさすっている。
すかさずピーチは地面を滑るように移動し、鞘に納めたままの刀を、凪兎の腹部をエグるように横に薙ぎ払った。
凪兎「ぐあぁっ!!」
一瞬の出来事に反応出来なかった凪兎。
ピーチが降りぬいた刀は、見事に凪兎の腹部を捉え、凪兎は、フッ飛ばされて門に激突する。
凪兎「カ…カハッ…。」
ピーチ「この程度でオシマイ?チョベリバなんですけどぉー。」
凪兎「少なくともオレの知ってるギャルは、羽織袴ではないし、山姥でもない。ルーズソックスにローファーを潰して履くなんて、イツの時代のギャルだよ。」
何とか呼吸を整えて、激突した門に背中を預けてヨロヨロと立ち上がる凪兎。
ピーチ「大正。」
凪兎「んなワケあるかよ!!」
菜々子「現場のナギさん…。」
凪兎「やっと喋ったな。」
菜々子「コイツ…人間じゃない。」
凪兎「はぁ?こんなにハッキリ見えて、普通にブツかってんやが?」
菜々子「ヤバ…めちゃくちゃ頭痛い…。」
菜々子は顔をユガめ、こめかみに指を当てて苦しそうにしている。
凪兎「オイオイ…。」
ピーチ「この、名刀『ギャル正宗』の餌食にしてくれるわ!!」
そう言うや否や、ピーチは鞘から刀を引き抜いた。
凪兎「ギャルの定義って何?」
メッチャ斬れそうな刀身を目の前に、細い鉄パイプを構える事しか出来ない凪兎。
謎の頭痛に襲われ、うずくまるように座り込む菜々子。
ギャルなのか、そうでないのかも分からない、人なのか、そうでないのかも分からないピーチ。
第3話にして、大丈夫なのか?
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