第2話『幽霊屋敷① マリオとクッパ』

翌日の日曜日。

前日とは打って変わって気持ちの良い晴天になった。

まだ梅雨明けもしていないのに、余裕で30度を上回る気温で、道行く人の顔には気だるさが見える。


菜々子「チコ…。」(ゼェゼェ言いながら)


琴羽「ん?」


菜々子「何でエアコンつけないのよ!暑くて死ぬわ!!」


菜々子は、少しでもヒンヤリしようと、フローリングの床に直接横になっている。

しかも、うつ伏せでだ。


琴羽「だってまだ六月やろ?」


菜々子「その考え方が命取りやぞ!」


琴羽「ナナちゃん汗かきやもんね(笑)」


菜々子「(笑)じゃない!そこ笑うとこじゃない!」


菜々子は、汗だくな体を起こし、キッチンに向かい、水で顔を洗っている。


琴羽「だから自分ちに帰れば良かったんよ。」


琴羽は、菜々子にタオルを差し出しながら言った。


菜々子「だってぇ~…。」


菜々子は受け取り、顔をゴシゴシ拭いている。


琴羽「あんなに立派な御屋敷なのに。」


菜々子「帰ったらまたグチグチグチグチ言われるもん。」


慣れた手つきで、顔を拭き終わったタオルを洗濯機に放り込む菜々子。


琴羽「大変よねぇ…イタコの末裔やっけ?」


菜々子「未だにバンドでドラムやってるん、認めてくれんもんね。」


琴羽「まぁ、気持ちは分からんけどね。」(半笑いで)


菜々子「つめたっ!なんウチのバンドって口悪いヤツしか居ないん!?」


琴羽「だって末裔なんてなったこと無いもん。」


菜々子「得体の知れない、木製の剣を振り回させられる気持ちを分かれ!!振ってみろ!!」


と言いつつ、窓を開ける菜々子。

太陽の光が、容赦なくアスファルトを照らしている。


菜々子「あっつ!!」


琴羽「異常気象やなぁ…最近の暑さは…。」


菜々子「チコちゃんエアコンつけて良い?金なら体で払うから♪」


菜々子は、汗タップリのTシャツを少しまくってクネクネ気持ち悪い動きをしている。

琴羽は、そんな菜々子の方を見ようともせず、扇風機をオンにする。


琴羽「だぁめ。」


菜々子「同じ電気使うんなら、エアコンつけてよー。」


琴羽「とりあえず朝ごはん食べよ。」


菜々子「バナナ買ってきたけん、半分こする?」


琴羽「そんな貧しくありません。」


菜々子「なんかさぁ、あるやん?売れないバンドの下積み時代みたいな。」


菜々子はバナナの皮をむき、パクパク食べ始めた。

どうやら、有名になったバンドが、まだ無名時代に貧しい生活を送っていたエピソードの事を言っているようだ。


琴羽「売れる予定もないけどね。」


菜々子「何がですか!チコちゃんの歌声は、天下一品やんか!」


バナナを食べ終えて、ゴミ箱に放り込む菜々子。


琴羽「そう言ってくれるんは、ナナちゃんだけやけどね。」


菜々子「じゃあエアコンを…。」


琴羽「しつこい。」


と言いつつキッチンに向かい、朝ごはんの用意をする琴羽。


場所は変わって、とある大きな公園。

ジョギングをしている男が居た。


凪兎「ふぅ…朝から流す汗は気持ちいいな。」


博記「よお、ナギ。」


そんな凪兎に、後ろから声をかける博記。


凪兎「ヒロか。どうしたん?こんな朝早くから。」


博記「さっきまで呑んでた。」


博記はアクビをしながら言った。


壱馬「オマエ本当に好きやな。」


博記「オマエこそ。既にクソ暑いのに、よく走ってられるな。」


凪兎「どうせ暑いならな。気持ちいいぞ。」


そこに、凪兎のスマホが着信を告げる。

画面には超絶美人チコと表示されている。

コレは、琴羽が勝手に凪兎のスマホの登録名を変えただけで、凪兎は大して気にしていない。


凪兎「おうチコ。どした?」


琴羽『ナギって、確か配管工してたよね?』


凪兎「おう。前に空調関係の仕事をな。それがどうかしたか?」


琴羽『ナナちゃんがエアコンつけろつけろウルサイけん、つけたけど、ウンともスンとも言わんのよ。』


凪兎「またアイツ、チコの家に泊まったんか。どおりでチコの後ろが騒がしいワケや。」


琴羽『私はまだ別に無くても良いんやけどさ、さすがに真夏は使うけん、壊れとらんか心配で。』


凪兎「ちょうど外に出てたし、とりあえずチコん家に行くわ。ヒロも連れてくる。」


博記「ちょっと待て!オレは帰ってシャワー浴びて寝るんやが。」


凪兎「女好きのクセに何言ってんだよ。」


博記「女好き関係ねぇわ!」


凪兎「とりあえず行くわ。」


琴羽「ごめんね、宜しく~。」


博記「マジでオレは無理だからな。」


凪兎(電話を切って)「分かった分かった。じゃあ、後でスタジオでな。」


博記「おう。」


そして、暫くして、凪兎が琴羽の家に到着する。

早速エアコン周りを調べているが…。


琴羽「どう?ナギ…。」


凪兎「これコンセント抜けてるぞ。」


菜々子「なんてこった…。」


そう言いながら、コンセントを差し込み、エアコンをオンにする凪兎。

程なくして、エアコンから冷風が出てきた。


凪兎「問題なさそうやな。」


菜々子「ありがとうございます神様!!」


琴羽「壊れてないなら良かった。」


そう言いながら、エアコンをオフにする琴羽。


菜々子「ウソだろ…せっかく神の吐息が感じられると思ったのに…。」


菜々子は膝から床に崩れ落ちた。

そんな菜々子を気にする事なく…。


琴羽「後でコーヒー奢るわ。」


凪兎「イイよこれくらい。」


その時、菜々子のスマホが着信を告げる。


菜々子「うわお…。」(一瞬で表情が曇る)


凪兎「なんだよ。」


菜々子「母上様からで御座りまする。」


琴羽「怒られるかな?」


そして、少し遠くで電話に出て、「えぇ。」や、「はい。」を繰り返す菜々子。


凪兎「アイツ、家絡みやと、大人しくなるよな(笑)」


菜々子(電話を切って)「ナギちゃま。」


凪兎「何だよ気持ちワリィ。」


真剣なのかフザケているのか分からない表情の菜々子に対して凪兎はウンザりした様子で答える。


菜々子「アンタあれよ?母上様から、マリオって言われてたわよ。」


凪兎「はぁ?」


菜々子「マリオに、調べて欲しい事があるんですって。なんでも、今は使われてない建物でね、毎月電気代が、数万円かかってる物件があるらしいの。」


菜々子自身も、困惑しているのか、母親から言われた事を、そのまま伝えているという感じだ。

それに対し凪兎は…。


凪兎「え?マリオってまさか配管工の事言ってる?しかも、その案件、配管工よりも電気屋の仕事じゃね?」


と、菜々子から視線を外し、琴羽に向かって問いかける。


琴羽「てかブレーカー落とすなり、しとけば良いのに。」


菜々子「よく分かんないんだけどね、そこクリアしてクッパ倒せば、アタイのSoundSoulsでのドラムを認めてくれるって。」


春彦「クッパは居ねぇだろ。」


またもやウンザりした表情を浮かべる春彦。

菜々子は、とあるゲームに例えているようだが…。


琴羽「ちなみに、その建物って?」


凪兎「てかそれ以前にナナの一人称アタイじゃねぇだろ。」


この発言に対して、琴羽は大きくため息をつきながら


琴羽「それは私もツッコんだんやけどね。」


と答える。

菜々子は、意に介していないようで…


菜々子「三丁目にある、無限地獄シェアハウスって建物らしいの。」


と、母親から伝えられた対象の建物名を淡々と答えた。

こんな名前の建物に入居しようとする人は居るのだろうか…。


凪兎「あのさぁ…。」


菜々子「いやマジなんやって!!母上様、マジなトーンで話してたんやって!!」


琴羽「それ、ヒロが言ってたけど、有名な心霊スポットよ。」


凪兎「マジ?」


琴羽「ヒロ、実際に心霊現象とかに遭遇するのはムリなんやけど、映画とか、ユーチューブとか、そういうのは好きらしくて。それ見漁ってるうちに、行きついたらしいけど…。」


そう、博記はホラー好きなのだが、ユーチューブや、本や映画など、そういったものを好むが、自身が遭遇するのは死んでもムリだそうだ。


菜々子「ナギたん、オ・ネ・ガ・イ♡」


再び、Tシャツを少しまくり、クネクネと気持ち悪い動きをする菜々子に対し、


凪兎「オレにメリット、何もネェじゃん。」


何かもう早く帰りてぇ雰囲気を出す凪兎。


菜々子「だからクッパ倒したらアタイ、堂々とドラム出来るんだってば!」


凪兎「…。」


琴羽「でも、何か面白そうじゃない?」


その琴羽の一言で、部屋の中の空気が変わったようだ。


凪兎「じゃぁヒロも呼ぼうぜ。」


菜々子「ナギたん大好き!エアコンの次に!!」


凪兎に抱きつこうとする汗だくの菜々子をヒラリと避けて


凪兎「とりあえずスタジオ入るか。」


と、涼しい顔で言う。


琴羽「そうね、ヒロには、その時に話そうか。」


こうして、SoundSoulsは、地元でも有名な心霊スポットで、『何でこんなに電気代がかかってるのか?』を調べる事になった。


続く。


博記「第二話にして、シリーズに突入すんのかよ。」


果たして、クッパを倒して、菜々子はドラムとして実家に認めてもらう事が出来るのか?

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