SoundSouls
HR
第1話『君に雨を』
これは、とある若者達のバンド物語。
とは言え、あまりバンドバンドしてない感じで展開されていく物語。
博記「バンドバンドしてないって意味分かんねぇよ。アホか。」
早速この口が悪いヤツの名は、原島 博記(はらしま ひろき)。
バンド名SoundSouls(サウンド ソウルズ)で、ベースを担当している。
コイツは主人公では無い。
こんな口が悪いヤツが主人公であってはいけない。
博記「もうイイけん、はよ始めろ。口が悪い口が悪いウルセェよ。」
気を取り直して、物語を始めよう。
とある土曜日の夜。
その日は梅雨入りしたばかりの、雨が降る肌寒い夜だった。
傘を忘れたのか、カバンを頭の上に持ち、足早に建物の軒下に駆け込む一人の女性。
名は、千歳屋 琴羽(ちとせや ことは)と言って、この物語の主人公である。
通称チコ。
SoundSoulsのボーカルを担当している。
琴羽「ちっきしょう…。」
忌々しげに雨が降る夜空を見上げ、ため息と共に毒づいていると、目の前をダッシュで通り過ぎようとして、盛大にコケた女が目に入った。
琴羽「げっ!!だっ...大丈夫ですか??」
突然の事に変な声を出しながら、慌ててその女に駆け寄る琴羽。
そのコケた女が顔を上げる。
琴羽「なっ...ナナちゃんやん!」
ナナちゃんと呼ばれた女の名は、山神 菜々子(やまがみ ななこ)。
SoundSoulsでドラムを担当している。
菜々子「チコ……後は……頼んだ……。」
そう言うと、バチャッと言う音とともに、再び地面に顔を落とす菜々子。
琴羽「ナナちゃあーん!!あっ、やっべ、濡れる。」
そう言って、いったん菜々子から離れる琴羽。
菜々子「……。」
琴羽「……。」
雨に濡れない場所から、チラチラと、横目で菜々子の様子を伺っている琴羽。
菜々子「……。」
琴羽「晩御飯何しようかな…。」
菜々子「チコ…。」
琴羽「はいっ!」
既に菜々子の長いボケに興味を無くしつつある琴羽は、突然声をかけられて驚いた。
菜々子「アタイもう生きてくのがイヤになっちまったよ…。」
琴羽「ナナちゃん、一人称アタイじゃないやろ?気まぐれでそういう事言うと、ナナちゃんの一人称アタイで決定しちゃうよ?」
菜々子「この状況に比べたらどうでもイイわぁ!」
そう言いながらビッショビショの体を起こす菜々子。
コケた時に膝を擦りむいたのか、血が滲んでいる。
琴羽「ナナちゃん、こっち来る?それとももうそれ以上濡れようが無いけん、そこに居る?」
菜々子「そっち行く。」
そう言って、ボタボタと水滴を垂らしながら、琴羽の横に移動する菜々子。
琴羽「濡れるけん、くっつかないでね。」
菜々子「抱きしめてやろうかコラァ!」
ガバッと両手を広げ、琴羽に抱きつこうとする菜々子。
琴羽「うわぁ変態いぃぃぃ!!」
そんな二人を遠巻きに見ていた男が、近づいてきて声をかける。
凪兎「なにやってんだオマエら。」
この男の名は、和久 凪兎(わく なぎと)。
SoundSoulsのギターを担当している。
通称ナギ。
琴羽「助けてナギー!」
琴羽は凪兎の背後に移動し、怯えた目で菜々子を見つめている。
菜々子「まるでスーパーサイヤ人のバーゲンセールだな。」(腕組みをしつつ)
凪兎「意味分かんねぇよナナ。」
菜々子「だって酷くない?年柄にも無く、全力疾走してて、顔から地面にダイブしたのに、この子酷くない?」
凪兎「だって、は、ドコにかかってるんだ?遠巻きに見てたから知ってたけどよ、何で全力疾走してたん?」
菜々子「うるせぇ寂しいと死ぬラビットが!!」
凪兎「何度も言うが、兎が寂しくて死ぬという事はない。都市伝説だ……。」
凪兎は心底呆れたという顔をしている。
琴羽「ナギ、足も速いもんね。」
琴羽は、凪兎の背中をポンポン叩きながら言った。
凪兎「別に話したくないならイイけどよ。興味も無ぇし。」
菜々子「てか何でアンタがココに居るのさ!!」
凪兎「アホ。さっきまで、スタジオで一緒に練習してて、解散したばかりなんやけん、近くに居るのは不思議じゃないやろ。」
琴羽「あーナギークチわるー。ヒロみたいー。」
凪兎「アイツと一緒にすんな。じゃあ俺は帰るわ。」
菜々子「つめたっ!」
凪兎「雨だけにか?じゃあな。」
そう言って、傘をさして離れていく凪兎。
菜々子「え?コレ、座布団あげた方が良い?」
凪兎の後姿を見送りながら、首をかしげる菜々子。
琴羽「何言ってんのナナちゃん…。」
菜々子「ねぇチコ、今晩泊めてくれへん?」
琴羽「ボケが多いわ。何で濡れネズミを泊めなきゃいかんのよ。」
菜々子「一人になりたくない夜もあるのさ。」
琴羽「何であんな凄い勢いで走ってたん?」
菜々子「あの、あれよ。ちょっと、雨を超えてみようと思って。」
以前として降り続く雨。
今度は自ら仰向けで歩道に横たわる菜々子。
琴羽「この流れで行くと、次はヒロかな?」
菜々子「アイツにこんなトコ見られたら…。」
琴羽「何言われるか分からんね。」
菜々子「雨を超えようなんて思わなきゃ良かった…。」
博記「…。」
ウワサの博記は、既に近くに立って見ていた。
どうやら、この男二人は、同じタイミングから琴羽と菜々子を見ていたようだ。
琴羽「あっ、ヒロ。」
菜々子「コッチ見てんじゃねぇよ!!祟るぞ末代まで!!」
博記をガン睨みしながら立ち上がる菜々子。
博記「オレぁ結婚しねぇから、オレが末代だ。」
博記は、琴羽達と目を合わせずに、違う方を睨むように見て言った。
菜々子「うぐっ…。」
琴羽「ナナちゃんのキャラ付けって、もうこんな感じになるんやね。」
博記「別にオマエがコケようが濡れようが知ったこっちゃねぇよ。」
琴羽「そういやヒロ、ベースは?」
博記「明日も入るし、この雨やし、スタジオの人に頼んで、置かせてもらった。」
琴羽「ヒロもナギみたいに防水のケース買えばイイやん。」
博記「そのうち、と思いながらな。雨が降ると買おうと思うんやが。」
博記は、濡れる事を何とも思っていないのか、降り続く雨の中でも平然としている。
博記「じゃあ、オレは帰って呑むわ。」
博記は、琴羽達に背中を向けて、手を振った。
琴羽「あんま飲み過ぎんようにね。」
博記「母ちゃんかよ。」
琴羽「チコちゃんです。」
博記「じゃあ、また明日な。」
琴羽「はーい!」
そして博記は、傘も差さずに雨の中を歩いて行った。
菜々子「ちくしょう…ドイツもコイツも役に立たない男ばかりだ。」
琴羽「……帰ろうか、ナナちゃん。」
菜々子「チコの家に?」
琴羽「……玄関で体を拭くなら考える。」
菜々子「手を打とう。」
こうして、二人は微妙な距離を保ちつつ、雨が降る中を歩き始めた。
これから、この五人と、巻き込まれる人々の物語が始まる。
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