空白の大学生活
「はぁ…………」
思わずため息が漏れる
高校以来感情を喪失した自分は
心から
「笑う」
「怒る」
「泣く」
「楽しむ」
そんなことが出来なくなっていた。
決して辛くはない。
しかし、どうも物足りない。
上辺だけの友達も、日々の生活費を稼ぐためのアルバイト先もある。大学でX君とは別れたせいか、ストレスに感じる事象も特にはなかった。大学の授業も、単位を落とさないくらいには頑張り、それなりに教授とも親しくなった。そのおかげか落第することも無かった。
「うまく行き過ぎている」
悪いことではない。なんなら、周りから見れば成功したキャンパスライフを送る健全な学生とも思われているのかも知れない。
しかし、前述した通り面白くはない。
そのため一つ、自分は夢を作っておくことにした。
「小学校の時に、祖父から奪ったお金を自分の初任給で返す」
という夢だ。
素朴で単純な夢。
それでも、過去に自分の犯した過ちと向き合い、しっかりと自分の犯した罪を償う。ありふれた事だが、そんな事ぐらいはすべきかと思いこんな夢を設定した。
きっと、自分の中で
「これだけは、何としても叶える!」
そんなものがないと、自分の本体がどこかに行ってしまいそうな気がしてならない。
感性豊かな感情というものは、邪魔だが、あって困るものではない。たまには感情的になりたくなる時もある。
せめて、そんな時に、自分に寄り添ってくれる感情が欲しい。そんな心情で、少しずつだが、感情をなくすトリガーとなった出来事、一つ一つと向き合うことにした。
とりあえずこの夢を叶えるために、早く手に職をつけたかった。
何事にも無気力だった自分が、唯一、大学選びだけは妥当な判断をしたということを、ここで気づく。教育学部へ行っていたため、就職先は先生という職業で即決だった。
淡々と大学生活を送り、大学四年生となった自分は、難なく教員採用試験を合格し、晴れて四月からは教員として働ける事となった。
この時、ほんの少しだけ、ほんと、少しだけ嬉しさが込み上げていたのだが、それに気付くのはしばらく後の事となる。
教員としての準備をしている時、とある所から電話がかかってくる。
その電話の内容は……意外なものだった。
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