心の中の葛藤。

 そんな、戦いのようなものが終わり、最適解を見つけた今現在、

 

「毎日が楽だ」


 と明らかに感じるようになった。

 誰に何と言われようと、心を病むことは無くなった。

 物を壊されようが無くされようが、どうでも良くなった。

「親戚の〇〇が危篤らしい」

 ――「だから?」

 昔の自分であれば驚いていたであろう出来事や、腹を立てていたであろう出来事は、今、正直、全てどうでも良いものとなってしまった。

「このままでは大学も厳しいぞ」

 担任はそう語る。

 今までの自分であれば

「もっと努力しよう!」

 と張り切っていたであろう。

 でも、今、頭の中は生命力を失っているのか危機感すらも覚えなくなっていた。

 人並みよりかはある程度勉強ができたせいか、大学へ行くと勝手に思われているが、正直、行かなくても良いかと思い始めてきてしまった。

 いっそのこと、根っからのバカだった方がある意味気楽だったのかも知れない。


「朝日の登らない明日は無い」


 昔、誰かがそんな事を言っていたが、確かに間違いではない。ただ、自分の心の中は永遠に新月の夜のまま。

「こんな無気力の状態で残り一年、高校生活を乗り切るというのは、楽だけど味気なさすぎる!」

 心の中のどこかでは、そんな声が聞こえた気がしたが、今の自分は聞く耳を持っていなかった。

 周りには一応、それなりに頑張っているようには見せている。親にも、同じ対応をしている。推測だが、「大学なんてどうでもいい」と思っていることくらいは隠せているのではないかと勝手に思っている。

 

 月日が流れクラス全体で受けなくてはならないU大学の入試を受けに行った。

 結果は不合格だった。

 クラスの中では、受かったと喜ぶ人や、落ちてしまい少し落胆する人など、様々だったが、やはり自分は何とも感じなかった。

 ある意味、このような心持ちの方が、本命の大学を受ける前に、モチベーションが下がらないため良いのではないかと思いもした。

 しかし、前述した通り、大学に行くことなどどうでも良いと考えているため、モチベーションの観点では他人と大差無いのかも知れない。

 そんな心中だが、一応自分はそれなりに勉強を頑張っている。

 理由は、万が一、感性豊かな心が戻ってきてしまった時、心の闇による無気力な時期によって大学に入れなかったことを、後悔するかもしれないと思ったためだ。

 ――「まぁ、大人になって戻ってこられても困るんだけどな……」

(感性豊かな心よ、戻ってくるのなら今のうちだ。戻ってこないのならば一生戻ってきてくれるな!)


 こんな心情だろうか。


 しかし……どんなに待っても、感性豊かな心は戻ってくる気配すら無かった。


 最終的に、自分は教員の資格が取れる滑り止めの大学へと入学する事ととなった。


 昔、小学校の時に感じた私立中学校の合格した時の喜びなど、今となってはアホらしいと思うくらい、感情を喪失していた。


 嬉しさは無い。


 ただ、面倒な勉強をしばらくしなくて済むという安堵感だけがそこにはあった。

 X君との関係は切れると期待していると、万が一のことがあった時に精神を完全に崩壊させる可能性があるので、その面については期待しなくなった。


 その後、最後の行事である卒業式の日となった。多くの感情が行き交う教室の中で、ぽつんと一人。早く帰ることを望む自分。唯一覚えていることとしたら、卒業証書授与式で名前を呼ばれたことぐらいだろうか。それ以外は全て流れ作業上のようにしか心には映っていなかった。


「それにしても、つまんねーとこだったな」


 そんなワードが高校の門を最後に潜ったときに聞こえた気がした。


 自分が無意識に発していた言葉だったのか

 心の片隅で何かがそう叫んだのか

 心の闇の皮肉な囁きだったのか


 自分には把握する気力など持ち合わせていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る