消滅

「消えた」


 自分の心を照らす唯一の光であった

「夢を叶えたい欲」

 心の闇を抑えていた唯一の光が「今」消滅した。


 時を戻す事数ヶ月、自分は怒りの感情が日に日に増していた。社交的にX君と関わっていたわけだったが、それがもたらした対価は自分が想像していたよりも大きかった。

 自分の感情を押し殺す事で、何とか日々のストレスは免れていた。しかしながら、ストレスを免れる代わりに、イライラはどんどん蓄積されていくばかり……。

 気付けば自分はいつの間にか――


「Xの机を蹴飛ばしていた」


 Xにはバレていないはず……

 しかし、運悪く後ろを歩いていたXにその一部始終をみられていた。


「やっちまった」


 その時すぐに謝れば今頃こんなにひどい状況は生まれなかっただろう。

 ――しかし、イライラの積もりに積もった自分には、そんな事をする余裕など、あるはずがなかった。

 こうして、Xとの関係は最悪となった。

 ここまでは別に耐えられた。


 そう、ここまでは……

 

 自分が、Xの机を蹴った約一ヶ月後の事、Xは交通事故で怪我をした。Xは自分と同じ自転車通学だった。Xが事故で入院した時、どんなに嫌なヤツだったとしても、それなりには心配をした。

 しかし……こんなことも考えてしまった。

「俺が、Xの自転車にイタズラしたせいで事故ったなんて、Xが噂を流すのではないか?」

 ――「まぁ、考えすぎだろう」

 勝手にそう思ってしまった自分の爪の甘さには腹が立つ。

 つまりは、そう、この予期していた事がまさに現実となってしまったのだった。

 自分はXの自転車になど手を触れた事は無かったが、悪い噂は独り歩きする。

 自分は犯人扱いされてしまったのだった。


 ここで、自分は同じ過ちを二度繰り返していた事に気付く。

「なんて愚かなヤツなんだ……俺は」

 と、自責の念に駆られる。

 かつて小学校の時に犯した過ち。

 K君を一時的な感情で殴ってしまったあの過ち。

 高校生という今になってまた犯してしまった一時的な感情での過ち。

「そうか、俺はあの時から、体格も、言葉遣いも、学力も、何もかもが変わった気でいた」


 でも、


「一時的な怒りの感情で過ちを犯す」


 これだけは何一つとして変わっていない。

 幼稚だった頃の自分と何一つとして変わっていない。

 これまで、自分に問い続けてきた感情に対しての疑問。


 (遊びたいと言う気持ちは邪魔者?)

 (怒りという感情は危険?)

 (欲は自我を変え周りを悲しませる?)

 (本心は不必要?)

 (恋愛感情は無くすべき?)


 今、この全ての疑問に対しての最適解を見つけた気がした。

 「もう、何もかも、無くしちゃえばいいじゃん!疑問に思う必要などない!ボクが迫っているだよ?染まっちゃえば良いじゃん!その方が楽だよ!」


  ――「初めて掴んだ夢は……⁇」


 「犯人扱いされて、社会的信用を失った自分に対して、そんな物必要ないじゃん!」


 今、この瞬間、数え切れないほどの葛藤が心の中で繰り広げられた。


 そして自分は、黒にそまった。

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