私の生い立ち後編(高校一年〜二年春)

 高校入学手続きの日、自分は校門で崩れ落ちかけた。


 多くの人が賑わう学校の敷地内で、自分はとある人物を目にしてしまう。

 

「どうして、見たことのある顔がいるんだ⁇」


 心の中はこの唐突な事件を理解しようとしても……し切れないでいる。


 自分の中の理性だけが体をかろうじて支えてくれていたため、周りから見たら何ともないようだったが、心はまるで豪雨による土砂崩れのように崩壊していく真っ最中であった。


 校門をくぐった先で見たとある人物。


「X⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎……………………………………………?」


 声は出なかった。

 心の中は、多くの感情で大渋滞している。

 中学時代の諸悪の根源、X君の存在がそこにはあった。


 ――しかし、クラスが違えば何とかなると考えた。

 幸いにも自分は卒業前に中学時代の担任の先生へ、クラス変更のお願いをしていた。


 受験期というものは複雑なもので、苦手教科がある期間だけ一気に点数が上がることがある。自分の場合、苦手科目は数学だった。

 しかしながらY先生の力添えもあったためか、偶然にも良い点が取れた期間が続く事があった。

 そこで中学時代の担任は、滑り止めの二つの高校のうち、一校は文系、もう一校は理系で受験をするように勧めてきた。そして特待の良い方に入学し、文理が合わなければクラス変更はあとで出来ると言われた。


 自分はそれなら安心だ、と思いその勧めのまま受験をした。

 結果として理系で受験した高校の方が特待のランクが良かったので文系クラスへと変更を頼んでいた。


そう、頼んでいて受理されているはずだった。


しかし、合格証を受付の人に見せて言われた言葉は衝撃的なものだった。


「あ、理系クラスの〇〇君ね!入学おめでとうございます!」


 ………………?何かがおかしい。


 自分は確かに文系クラスへの変更をお願いしていた。それにも関わらず高校にはそれが伝わっていなかった。

 ……しかし、周りはおろか、親でさえ早く返事をしろ!というような目で見つめてくる。

 ただでさえX君に会ってしまったことにより気が動転していた自分は――


「はい!△△中学校から来ました〇〇です!」


 言うしかなかった。


 今思えばこの返事一つが今後の人生を左右するとはこの時全く思っていなかった。

 X君は理系クラスだったため、この時点でX君と過ごす学校生活三年間コースがオプションで付いてくることが確定した。

 自分は今にも泣き崩れそうだった。いや、実際心の中は涙で満たされていた。 


 入学式の日から既に憂鬱だった。

 ただし、X君に嫌われたら周りから見た第一印象は地に落ちることを知っていたため、なんとかしてでもX君の気持ちを害すことだけはしてはいけないと考えた。

 そのため、毎日毎日、永遠にも思えた心の苦痛を耐えに耐えて毎日を過ごし続けた。


 すでに、自分を構成する歯車のほとんどが悲

鳴を上げている。助けを求める力も無かった。しかし、自分の中のある一つの感情だけが、この絶望的な状況をなんとかしてくれた。

 前話で話した通り、自分は数学のY先生に憧れ先生という夢を目指していた。


「夢を叶えたいと思う気持ち」


 その気持ちだけは永遠に続く心の暗闇の中を、まるでぽつんと一本。孤独に存在する蝋燭のように、非力ではあったが確実に照らしてくれていた。


 この気持ちがあったからこそ、自分は辛い学校生活を乗り切ることができた。

 しかし、自分は大切なことを見失っていたことに気付かされる。

 自分は英語の先生になろうとしていた。

 理由は単純で、英語が得意だったためだ。高校入試でも英語の正答率は八割を超えていた。

 そんな英語だったが、高校二年生になってすぐ、急に伸び悩んでしまった。

 どんなに勉強しても目覚ましい結果を得ることが出来なくなった。


この時、自分の夢が大きく揺らいだ……。


「こんなヤツが先生になってしまって大丈夫なのだろうか?生徒に教えるためには自分のスキルが大事なのに、本当に自分は先生になる資格があるのだろうか?」


 心の中はまさに「夢を叶えたい」と思う自分と「先生になる資格などあるのか?」と自分自信を疑う自分。

 その両者がいつも葛藤していた。

 心の闇を照らす唯一の蝋燭の蝋が、残りわずかになり、消えかけているような気がした。

 約一年半、自分の心を照らし続けた蝋燭の光が刻一刻と弱まっていくのがわかる。

 夏の暑さも本番になりかけているというにも関わらず、自分の心は燃え尽きる寸前。


 「誰か助けてくれよ」


 一言呟く。


 皮肉なことに、その言葉の後に待っていたのは替えの蝋燭でなく、むしろ消えかけの光を完全に吹き消す事件が待っているとは、この時予想する事はおろか、考えることすらも出来なかった。

 

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