29 暴力女

「痛っ! ちょっとは手加減しなさいよ!」


「いきなりやれって言われても無理だろ!」


 体育館に集まった生徒たちは常識はずれの手本を見せられ、唐突に組手をしろと指示された。組手の場には直径10メートルほどの結界が張られている。


 約100人の生徒たちのペア、つまり50ペアを収容してもまだ余りがあるほど体育館は広かった。必死になって手を出し、足を出し、形にしようと頑張る生徒たち。


 どうやらマックとマナは互いの了承の上、ペアを組んだようだが、そのやり合いっぷりは組手ではなく殺し合いに見えるほど荒々しいものだった。


 レビンとフレッジのペアは互いに馬鹿をやり合っている。いちいち一挙一動に技名をつけ、その動きをするたびに互いがオーバーリアクションをとる。見ていられるものではない。


 そして司と裕人のペアは他の生徒たちと一線を風靡する程の動きを見せ、実戦レベルの組手をしている。優しそうなあの裕人があそこまで動けるとは……。


「よろしくお願いしまーす!」


 元気な声が体育館にこだまする。


 突然だが、俺は今からこの黒い短髪の女生徒と組手をさせられるらしい。


 なんでローベンじゃないの? と思っただろう。それは今から遡ること数分前……。


「ええー、ではー、誰とでもいいのでペアを見つけてください。男の子と女の子同士でも大丈夫です。いい機会なので出来ればね、他のクラスの子とね、組んでみてください」


 あの手本の後、ネス先生はこう指示した。それによって多くの生徒はあまり顔ぶれを知らない横のクラスの生徒とペアを組んでいった。


「おお! 君がローベン・ハーバーか! 良ければ僕と一緒に組まないか?」

「お前ずるいぞ。な、ローベン。こんな奴より俺と組もう!」


「ええっと……」


 どうやら今まで地味でパッとしないやつだと自分から言っていた俺の友人はこの世界ではめちゃくちゃな人気者になるらしい。数えるのも面倒になりそうな人数がローベンに殺到しているのだ。この集団の中には入れそうになかった。


「誰かいねえかな……」


 周りを見渡す。すでにマックはマナと殴り合ってるし、司も裕人と組んでいる。女子も女子でそれなりに組めているようだが……ん? あれは? 


 生徒たちが次々にペアを組んでいく中、マキナがまだ一人でポツリと立っているのが見えた。マキナは少し怖がった表情で周りの面子をキョロキョロと見回している。


 ……無理もないよな、あんまりこういうことは得意じゃなさそうだし、ましてや男と組ませるなんて決してあってはならないことだ。


「おーい、マキ……」


 そう呼びかけようとしたところで一番近寄ってはならないやつがマキナの前に立ったのを目撃した。


 俺の足に強く力が入る。体育館の床を強く踏んでいく。訝しげな視線は全て無視だ。そんなことよりもアイツを一刻も早くマキナから引き剥がさないと……!


「おい……マキナから離れろ」


「ん? 君はこいつの保護者なのかい? リンドバーグ。いや、君に対してを使うのはあまりにも彼らに対して失礼か」


 吐き気を催すようなニヤけ顔でディライク・アンバーソンは俺の方を向いた。そして理解し難い戯言で俺を煽ってくる。


「……失礼とはどういう意味だ? 俺のことを知っている人間は確かに少ないが、俺はれっきとしたリンドバーグの生き残りだぞ」


 俺は長袖の体操服の袖を捲り、紋章を見せつける。


「へえ……これがあの……。なんて勿体無い力なんだろうねえ。だって君はあの、伝説の、『ゼロユージング』なんだろう? そんな価値のない人間が自分と同じ紋章ものを持っていたら神様だって反吐を吐くだろうさ」


 わざと他の人間に聞こえるようにこいつは俺の素性を暴いてくる。もちろん他の生徒は俺とこいつに嫌でも目線を向け、そして避ける。面倒ごとには首を突っ込みたがらないのが人間ってやつだ。そんなこと、とうの昔に知っている。


「本当はこの女と遊んでやろうかと思ったけど、こっちのが面白そうだ。喜べ、僕が君を鍛えてやる。この時間も、この後もつきっきりでな。価値のないに対して価値のある面倒を見てあげるんだぞ? 涙を流して感謝してもいいところなんじゃないか?」


 嫌味ったらしくディライクは自分のことを強調して言いつけてくる。お前の面倒を見るというのはつまり、「スパーダというな人間を、自分がいいように使って愉しみたい」という意思表示のことだろうが。


「あいにくだけど、俺にはすでに友達がいるんでね。教えてくれる人間は間に合っている。お前の方こそ涙を流しながら俺に頼み込んだ方がいいんじゃねえのか? お前と組もうとするやつなんてこの中には誰一人としていねえだろうよ」


 入学早々に人の首を絞めて懲罰房に入れられるようなやつとペアを組もうなんて人間がどこにいるっていうんだ。俺もクラスから孤立しているかもしれないが、もっと救いがないのはお前の方だ、ディライク。


「……ふん。別にそんなことはないさ。嘘つきの君とは比べ物にならないくらい僕の方が広い人脈を持っている。それにカーマックにグリフィスの息子。君こそ信頼できる相手は考えるべきだな。名のあるやつほど裏がある。そんな奴らと関わっているといつか足元を掬われるぞ」


 強く拳を握りしめてディライクが言った。どうやらこいつは名のある人間に何か思うところがあるようだ。だが、今はそんなことどうでもいい。


「とにかく俺はお前とは組まない。俺は事前にマキナと組む約束をしてたんでな。お前にはその信頼できるお仲間がいるんだろ? だったら嘘つきで人権のない俺なんかに構ってる暇じゃないだろう」


 そう言って強引にディライクを退ける。だが、ディライクはよほど俺のことが気に食わないのか前進して肩を強く掴んできた。


「……なに?」


「俺が組んでやろうって言ってるんだぜ? なぜそんなやつと組むんだよ。それにお前の名はすでに知れ渡っている。そんなと組んでちゃお前の評判はもっと下がることになるだろうさ」


「……あ? なんつったテメェ……」


「だ・か・ら、犯罪者の娘って言ったんだよ。もしお前が本当にリンドバーグだって言うんなら知らないはずがないよなぁ? だってこいつの父親にお前の家は燃やされたんだからよ!! はははは!!」


「……知らねえよ。んなもん。別に俺にゃ関係ねえ。もう滅んだもんは滅んだ。今更ぶり返してもどうにもなんねえだろうが。……忠告しといてやるよ。次にマキナを侮辱したらテメェの顔が潰れるぞ」


マキナの前に俺は立ち、こいつの汚ねえ面が見えないようにする。こんなやつの顔を見るのは底辺の俺だけで十分だ。


「へえ……じゃあ僕の顔が潰れる前に、君の顔を潰してしまえばいいかなっ!?」


 こいつにとっては別に忠告などどうでもいいようだ。俺の顔面めがけて拳が迫る。こいつは気に食わないやつを殴りたいだけのゴミクズらしい。


 だが……殴られてやろう。この場で俺がこいつを殴ってしまったらマキナにどんな顔をされるのか分からない。それは殴られて顔を潰されるよりも怖い。


 しかし……楽しそうだな、こいつ。そんな爽快な笑顔をこんなことのために使うなんて本当にもったいねえ。強く握り込んだ拳を、そのまま顔面に目がけて──


「はい!」


 顔面に──の顔面に向けて叩きつけた。痛みの言葉も出ず、そのまま無様に後ろ向きに倒れてディライクは気を失った。


「せんせーい。この子、気を失ってしまいましたー。どうすればいいですかー」


 女生徒が誰が聞いても分かる棒読みで先生を呼んだ。彼女が俺に殴られるはずであったディライクの拳を押し退けて、そのままディライクは自分で自分の顔を殴りつけたのだ。


「おや、最初の授業で緊張してしまったのかもしれないね。これはいけない。血が出ている。保健室に運ばなければ。おや、スパーダ君じゃないか。それに、おお、マキナちゃん。君も一人なのか。それなら三人でペアを組んで。他のみんなはもう組み終わったみたいだから。葵、任せたよ」


「うん、


……え? パパ?


 どういうことか訊こうとした時にはもう灰色髪の副校長は気を失ったディライクを抱え、星の速さでその髪の残像を残しながら姿を消した。


「いやー、なんだったんだろうね。あの子。ま、いいっか! よろしくね! スパーダ君! それと久しぶりだね! マキナちゃん!」


「……久しぶり、葵ちゃん」


 屈託のないまるで少年のような笑顔を見せる黒髪短髪の少女。彼女はどうやらマキナと面識があるらしい。それに副校長も同じような反応だったな。それに……この女生徒の名前には聞き覚えがあった。


「葵って、小湊葵さんか?」


「あ、もしかして司と裕人から聞いた? うん。僕は小湊葵。君のことは二人から聞いてるよ。スパーダ・君」


 葵は周りに聞こえないように、尊敬を込めたような声で俺の名前を呼んだ。俺は葵が気を利かせ、そして他人を思いやれるいい子なのだろうと思った。……


「うおっ!? ちょ、ちょっと待って!」


「手加減しないでいいよ! ほら、全力で来ーい!」


 いろいろ聞きたいことはあったが、時間が押していることもありさっそく組手をやることになった。マキナは一旦休みということで結界の外で俺と葵の組み手を見ることに。


 そして始まると同時に俺の眼前へとすらっとした褐色肌の脚が迫る。それをギリギリ、ほんとギリッギリで避けた。人間の本能の恐ろしさを垣間見た瞬間だった。


 そして今、こうして俺は手加減も思いやりもない蹴りやパンチを必死になって避けている最中だった。


「君、本当に女か!? ちょっとこう、これは流石に暴力的すぎ──」


 顔の横を拳が通り過ぎる。勢いに押され反撃もできない。隙がなさすぎる打撃の応酬。こんな暴力女の相手をあの二人はやっているのか!?


「れっきとした女の子ですうー!」


 必死に攻撃を捌く中で少しムッとした表情が伺えた。こんなに容赦なく殴り蹴ってくるこの女子は血の気の多い男子なんかよりもよっぽど怖く見える。


「くっ……! この……!」


 繰り出される攻撃の一つ一つを避けているだけではいつか崩される。このまま負けるわけにはいかない……!


「ほらほら、足止まってきてるよ! 余裕ないんじゃない!?」


 挑発的な態度で葵はジリジリと俺を結界の端にまで追い詰めていく。


「くそっ……! まだまだだ!」


 挑発されるだけじゃダメだ。彼女の動きから次の攻撃を予想し、それに対応した体捌きで攻撃を弾く。それでもなお、葵の素早い動きに後退せざるを得ない。右かと思えば左から襲う拳。上かと思えば下から伸びてくる蹴り。一つ捌いたところで追加の二打目に追い込まれる。そして気がつけば俺の背中は結界にピタリとついていた。逃げ場はこれでなくなった。


「さあ、どうするっ!?」


 葵の脚が昇り出す。その狙いは俺の頭部。見事なまでのハイキック。スカートじゃなくてよかったなという感想はさておき、後ろにはもう下がれない。ならば動く方向は必然的に──


「てりゃあッ!」


 前だ。床を蹴ってタックルの体勢でハイキックをかわしながらのカウンター。葵の細い腰を軽く掴み、そのまま床に押し倒す。


「うわっ!?」


 葵の体勢が崩れる。そこで俺の脳裏をある常識よぎった。


 ──あ。このまま倒すとしちまう。そう思った時にはすでに俺の体は動き出していた。


 ドスンという鈍い音が床を伝わる。それと同時にビリビリとした痺れが背中を伝う。


「痛ったた……。って、ええ!?」


 葵は驚いたような声を上げた。恐らく倒されたと思ったのに、なぜか相手である俺が倒れているからだろう。


「僕を庇ったの? あの状況で?」


「痛っ……へへ、だって倒したら怪我するだろ。それよりさ、そろそろ……」


 俺は痛みに耐えつつ笑い、そして葵を突いて状況を訴えた。この状況は……少しまずい。


「わわっ、ごめん!」


 俺の体の上に乗っていることに気がついた葵は慌てて体から離れた。少し頬を赤らめていたがすぐに手を差し出して俺を起こしてくれた。


「大丈夫? 怪我してない?」


 心配そうに声をかける葵。やっぱり根は優しい子なんだろうな。


「大丈夫だ。そっちの方こそ怪我無かったか?」


 俺は服についた埃を払いつつ尋ねる。


「……僕は大丈夫だよ」


 葵は俺と目線が合わないように俺の足元を見ている。もしかして恥ずかしさでも感じているのだろうか? さっきまで一方的に俺が殴られ、蹴られしていたんだから、恥ずかしがるならもっと早くにして力を弱めて欲しかったのだが……。


「でも、すごいな。あそこまで体を自由自在に動かせるなんて。まるで忍者みたいだったぞ」


「君の方こそ、あれだけ追い込まれた中で僕も反応できない速さの突進とはね。恐れ入ったよ」


俺たち二人は互いの技量を称賛し合った。そして周りを見てみるとすでに他の生徒たちの結界は解除されており、目線がこちらに釘付けになっていた。


「あ、マキナ。どうしよ、時間がもう……」


「いいよ、私は。……こういうの怖いし……」


  ……そうだよな。別に無理矢理やらなきゃいけないってわけでもないだろうし、マキナがそういうなら今日のところは組み手はしなくていいだろう。


「でも、いつかは多分やらないといけないぞ? 説教垂れる気はないけど……苦手は克服してかないと……な」


「……うん」


 まあ、本当は俺だってもう人を殴ったらなんかしたくない。あの感覚は結局誰のためにもならないものなんだから。


「いや、すごいね、君たち。初めからね、ここまでね、動ける子はね、あんまりいないからね」


  俺が一息つくとネス先生が拍手しながら近づいてくる。どうやらがむしゃらになって攻撃を避けていたら「良い動き」と見られたようだ。


「ただいま戻りました……ってどうしたんです? ネス先生」


  体育館に戻ってきた副校長が状況の確認のためにネス先生に声をかけた。


「いや、ね、この二人がね、良い動きをしていたからね」


「ほほう、葵の動きについてこられるのか。これは見込みがあるね、スパーダ君」


 吟味するような視線を副校長は俺に向けてくる。よし、訊くなら今だろう。


「あの……葵さんがさっき『パパ』って言ってたんですけど……副校長は父親なんですか?」


  顔を近づけてくるこの副校長から少し体を引きながら尋ねた。すると、ああ、という表情をして副校長は耳を貸せとジェスチャーした。


「ここだけの話なんだけど、僕と葵、それと司と裕人も僕のなんだ」


「え?」


「身寄りがなかった三人を僕が引き取ったんだ。まだこの子達が小さかった頃にね」


そう言うと副校長は身を翻してネス先生と共に最初の集合の位置についた。


「はい! それじゃあね、みんな集合。体育の授業はね、今日のところは終わりだけどね、ラースヒルズ先生からね、お話があるからね」


 集まった生徒たちを眺めてから副校長は全員に聞こえるように少し声を張って話し出す。


「ちょっとしたトラブルがあって最後の方は君たちの様子を見ることはできなかったけど、体育はこういった組手によって実戦でも通用する最低限の体術、技術の向上、他にも体力をつけるための基礎トレーニング、そして出来る子は個別での魔法や能力を合わせた技法の鍛錬もネス先生がしてくれるはずだ。そういった戦いに通ずる技術を磨き、いざという時に生き延びることができるようにする。それが我が校の体育の活動方針だ。そして……我が校にはより実戦的な戦いをする活動団体がある」


副校長は指を天に掲げ、より声を張る。


「それが『闘技会』! 僕が顧問を務める決闘のための活動だ! ぜひ興味のある生徒の諸君は活動を見て、入って欲しい。男子でも女子でも大歓迎だ。戦うことが苦手な子、むしろ苦手な子ほど入って欲しいな。見学場所は学校敷地内だ。各教室にポスターを掲示するのでよかったら見てくれ。入りたい子は闘技会所属の生徒や、顧問である僕に入会する意思を伝えてくれ!! 以上!!」



◆◆◆



「いやー、疲れたな!」


更衣室に戻った俺とローベンは個室に入り、シャワーを浴びながら壁越しに話していた。


「僕は大群のように押し寄せてくるみんなの対処に疲れたよ……」


「お前、すごい人気だったな。俺は全く人気ねえけど。……を除いて、だけどな」


 アイツだけに好かれてるなんて最悪だ。俺はもとから魔法も能力も使えなくてまともに勉強できないだろうに、あんな典型的な嫌なやつに目をつけられたとなっちゃため息が出ても仕方ないだろう。


「まあ、多分今日は戻ってこないんじゃないかな。ラッキーデーだと思ってこれからの授業を受けよう」


「……そうだな。俺、魔法学の授業出る意味あるのか知らねえけど」


 シャワーを止め、体を拭いてから服を着る。俺とローベンは更衣室を出た。


「それにしても君たちの組手は凄かったな。他のみんなも君たちのことを釘付けになってずっと見てたよ」


 教室に戻る道中も俺とローベンは話し合っていた。寮の部屋が違うからローベンと話すのは久しぶりな気がする。


「やめろよ。俺が凄いんじゃねえ。あれは葵の攻撃を必死になって避けてただけのことだ。褒めるなら葵にしてやってくれ」


 俺はただただ葵の攻撃から逃げ回っていただけなのに、それを褒められるのは逃げるのが上手いと言われているようであまり良い気を感じていなかった。


「確かに彼女の動きは凄かったな。でも一番凄かったのは君さ」


 頑なに否定する俺に対してローベンも譲らずに称賛を送る。


「だから何もやってねえぞ? 嘘つくのはやめろよ」


「気づいてないのかい? 僕が褒めているのはあの状況で彼女を庇った時の君さ。あの時の君の反応の速さはなみだったよ」


 光だなんてローベンも大袈裟なことを言うんだな。凡人の俺が光の如き速さで動けるわけないだろうに。


「ま、そういうことにしておくよ。それよりさ、あの葵って子、あの副校長とは親子みたいな関係って聞いたんだけど、知ってたか?」


「ああ、知ってたよ。君が昨日眠っている時に司から聞いた。二組の裕人って子とその葵って子はラースヒルズ副校長の養子らしい」


「俺のいない間でそんなに話してたの?」


 そこそこ衝撃的な話だと思って話を振ったが、ローベンはすでに知っていたようでサラッと返されただけに終わった。


「君が倒れた後、真っ先にあの先生が君を保健室に連れて行ってくれたらしい。司から聞いてね。その時に話されたのさ」


「あの先生が俺を……」


 確かにあの迅速な対応力なら能力発現の儀で気を失った俺をすぐに介抱してくれたのも頷ける。


「あの先生はこの学校でとても頼りになる先生だって噂だ。もしよければ紹介されてた『闘技会』に入るのも良いかもしれないね」


「……ああ、絶対に入る。入らねえと俺はこの力を使いこなせないだろうからな」


 ルーガの再来、授神者、フローラ最強の魔法能力者。様々な異名を持つ副校長ラースヒルズ・ネクト。彼のもとで俺はこの力の使い方を教わる。この力は最悪な力なのかもしれない。それでも俺は剣を取らなきゃ。生き延びるために、闇の王を、倒すために。


「……スパーダ? なんか、今日の君はちょっと変だね。なんていうか……鬼気迫るって感じ?」


「……気のせいじゃないか? まあ、自分の力の無さを知って焦ってるんだろうよ」


 確かに焦ってるんだろう。俺は姉さんと会ってすでにこの学校に黒い影が迫っていることを知ったから。


 さっきの先生同士の戦い。熾烈を極めた戦いはあの戦いを遥かに超えるものになる。そして死を目前にして魔法が使えなかったから、能力が使えなかったからと、そんな言い訳は通用しない。


 「死」が迫った時に何もできないまま死ぬのは嫌だ。そうならないために、言い訳せずに生き延びられるすべを手に入れなければ、俺は繋いだこの命を無駄に捨てることになる。


「ま、次の授業に集中しようぜ。なんだかんだでさっきのが俺の初授業だし」


 俺にとって学校生活は今日が初日みたいなもんだ。昨日の意気込みをもう一度吹き返して頑張るとしよう。



 

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