第7話 第13都市へのお出かけ
「今度、第13都市に出かけてみたいんだが行けるかな?」
エドガーはサキに問いかけた。
「はい、もちろん可能ですわ。
何をお探しに行かれるのですか?」
「いや、何かモノを探しに行くわけではないんだ。」
「では何をなされるのでしょう?」
サキは不思議そうにしている。
「うん。実際に
出来れば彼らがどんな生活をしているか、どんなことを考えているか、
色々話が聞けると嬉しいな。」
エドガー流経営哲学、
『何よりもお客様に寄り添うこと。』
自分だけの考えや、利益・結果最優先で動くと最終的にうまくいかない。
エドガーは第13都市ダンジョンの現状把握後、
彼らがどんな目的でダンジョンを訪れ、
また、どんなことで喜び、満足度が高まるのか、
「ご主人様の深慮は、私などでは考えも及びませんが、
そういうことでしたらできる限りのお手伝いをさせて頂きます。」
大したことは言っていないはずだが、
サキは感服した様子だ。
「第13都市に行かれる際は、お顔をこちらでお隠し下さい。
一応魔界ですので、人間、ましてやダンジョンマスターがいるとなると、
色々ややこしくなるかもしれません。」
「分かった。」
エドガーはサキから渡された漆黒の兜を手にとった。
被るとフルフェイスのように顔全てが覆われる兜だ。
「第13都市へは私が転移魔法でお送りさせて頂きます。
いつご出発なされますか?」
「ありがとう。では明日でお願いできるか?」
「かしこまりました。」
翌日、エドガーとサキは第13都市にいた。
サキの転移魔法であっという間の到着だった。
初めて目にした第13都市は、
なんというか、寂しい印象だ。
都市という割には栄えていない。
第13都市と大きく書かれた看板がある入り口を入ると、
まっすぐ一本の大通りが通っており、
大通りの両脇には露天商やお店が並んでいる。
だが、買い物をしている人は少なく、
大通りを歩く人もまばらだ。
よく見るとお店も閉まっている所が多くある。
サキから聞いた話では、
全盛期はこの大通りがすれ違う人でごった返していたらしい。
ダンジョンから採れるアイテム等がここで売りに出され、
良いものはないか、日々人々が熱気ムンムンで買い漁っていたとのこと。
本当にそんな時代があったのか、
エドガーは疑いの目を持って街並みを見渡しながら、
サキに付いて大通りを進んでいった。
「さあ、着きましたわ。」
サキの歩みが止まったのは大通りの突き当り、
大きくひらけた広場の真北に位置する建物前だ。
建物には『第13都市ギルド』の文字。
木造2階建ての大きな建物だが、
ところどころツギハギされており、
お世辞にも綺麗な建物とは言い難い。
「ここに『
エドガーはサキに尋ねた。
「ええ、ここ『第13都市ギルド』は、
文字通り『第13都市』のダンジョン攻略をメインとした、
『
中には所属する『
ギイィーときしむ木の扉を開けて中に入ると、
外観以上に寂れた雰囲気だった。
受付らしきカウンターと多数の酒場風丸テーブルと椅子が設置されているが、
大きな空間には不釣り合いなほど人気がない。
見渡す限り、受付に一人、
丸テーブルに5人一組がいるだけだった。
「いらっしゃ〜い!」
あたりを見回すエドガーの元へ、
受付にいた一人が声を掛けて近寄ってきた。
ぴょんぴょん走り寄ってきたのは、
うさ耳の背が小さい女の子。
身長は130cmくらいだろうか。
うさ耳と目が赤いこと以外は、
人間の女の子とそんなに違いはない。
「あれは『ウサ族』のミミという、このギルドの受付嬢ですわ。」
サキが小声でエドガーに耳打ちしてくれた。
「こんにちは。」
エドガーは『ミミ』に挨拶を返した。
「こんにちは!このギルドは初めてだよね?
ギルド希望者の『
ぴょんぴょんしながら、
やや早口でミミが問いかけてくる。
「いや、今日はただ街を見て回っているだけなんだ。
それに僕たちは『
そうエドガーがミミに答えた途端、
ミミのぴょんぴょんが止まった。
「な〜んだ。ミミの早とちりか。。」
露骨にしょんぼりした雰囲気になったミミに、
エドガーは尋ねた。
「『
だけど、このギルドには興味があって、
もし良かったら少し様子を教えてくれないかな?」
先程までピンとしていたうさ耳が垂れ下がったミミであったが、
「ふ〜ん。珍しいお客さんだね。
ギルド加入希望の『
どうせ暇だし、ボクの分かる範囲なら良いよ!」
と、ワントーン下がりながらも笑顔で応諾してくれた。
「ありがとう。それじゃあ早速だけど、
この第13都市ギルドの最近の様子を教えてくれるかい?」
「いいよ。その前にキミはギルドについてどこまで知ってるの?」
ミミは愛くるしい赤い目でエドガーを品定めするように見つめている。
「簡単な役割だけかな。
『
ギルドがダンジョン関連のクエストを管理、
『
目的をこなして報酬を受取る。」
「そうだね!それじゃあ、ギルドの基本的な話より、
この第13都市ギルドがどんな所なのかから教えてあげた方が良さそうだ。」
「ああ、頼むよ。」
エドガーは頭の回転が早そうなミミに感謝しながら笑顔で応えた。
「この第13都市ギルドは、
古くは魔王オーナーが居た第13都市ダンジョンのクエストを管理するギルドなんだ。
今はこの寂れた有様だけど、その昔はとっても人気なギルドだったんだせ。」
「なるほど。それがどうしてこんな状況になっているんだい?」
エドガーは単刀直入に質問した。
「単純な話さ。第13都市ダンジョンが
魔王オーナーはとても強くて攻略しがいがあると人気だったんだけど、
誰でも魔王に勝てる訳では無かったし、
採れるアイテムや受注出来るクエスト、ダンジョン構造そのものがシンプル過ぎた。
代わり映えしないダンジョンからは段々人が離れていって、今の有様さ。」
教えてくれているミミはどこか遠い目をしている。
「そうなんだね。
離れていった
エドガーは続けてミミに問いかけた。
「移住して他の都市のダンジョン攻略をしているよ。
この第13都市ダンジョン以外にも、
この魔界ヘルウォールにはダンジョンがあるからね。
キミもここに来るまでに、大通りの人通りの少なさを見ただろ?
あれが今の第13都市ダンジョンの現実、日常の風景さ。」
ダンジョンの人気と、
隣接する都市の活気はリンクしているようだ。
それを求めて集まる人々が都市を活性化する。
移住してしまった
なかなか骨の折れる仕事になりそうだな。
エドガーは仕事の難易度を再確認した。
「
エドガーがミミに尋ねると、
ミミは一組座っている丸テーブルの方を指差しながら、
「
あそこにいるのが、今唯一このギルドに所属している『黒竜の翼』さ。
もっとも第13都市ダンジョンが休業中の今はクエストがないから、
最近はやることもなく、昼間からずっとお酒を飲んで酔い潰れてるだけだけどね……。」
「ありがとう、ミミ。」
エドガーのお礼に対して、
「暇だから全然良いよ!感謝してくれてるなら、
ぜひこの第13都市ギルドに有望な
とミミはぴょんぴょんしながら言った。
飛び跳ねるミミにお礼を言って、
エドガーは『黒竜の翼』とやらがいる丸テーブルへ歩みを進めた。
ドンガラガッシャーン!
エドガーが向かう丸テーブルの方から、
盛大に食器が割れる音が聞こえてきた。
『黒竜の翼』のメンバー同士がつかみ合い、
なにやら口論している。
やれやれ。
これは情報を聞き出すのは一苦労しそうだ。
けれど、他に話を聞ける
あの輪の中に入っていくしかない。
エドガーは苦笑しながらも、そのまま歩みを進めていくのであった……。
人間の俺が魔界のダンジョンを経営することになるなんて! けんしろう @kenshiro876
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