第5話 ダンジョン経営者、基本の『ホ』
………………。
「おはようございます。ご主人様。」
聞き慣れない艶やかな女性の声でエドガーは目を覚ました。
むくりと起き上がったエドガーは、
引き続き『巣穴』にいる自分を確認し、
ふぅとため息を吐きながら、
昨日の出来事は現実だということを再認識した。
「おはよう。サキ。」
「おはようございます。ご主人様。
よく眠れましたか?」
「ああ、よく眠れたよ。」
エドガーは皮肉めいた口調で答えた。
「今日は『
「ええ。左様でございます。
『
「分かった。で、どうするんだ?」
エドガーがすぐに身支度を整えながら動こうとすると、
「ご主人様。まずは腹ごしらえをされてはいかがでしょう?」
と、サキから提案された。
確かに何も食べていない。
「そうだな。メシにしよう。」
逸る気持ちを抑えながらエドガーは提案を承諾した。
「かしこまりました。それではこちらにどうぞ。」
サキはニコリと微笑みながら、
エドガーを案内した。
昨日と同じ真っ茶色な土壁の空間の一角に、
木製のテーブルと椅子が1セット置いてある。
エドガーが椅子に座ると、
サキが食べ物を持ってきた。
とても香ばしい匂いを放っているそれは、
ベーコンのようなカリカリに焼かれた肉と、
黄色い炒り卵のようなものがパンと一緒に木のプレートに盛られている。
「魔鹿のベーコンとコカトリスの卵炒めですわ。
横のパンと一緒にお召し上がり下さい。」
……。
エドガーが聞き慣れない名前にやや躊躇しているのを、
サキが笑顔でじっと見つめてくる。
……。
うん、やっぱり純粋な善意は時として残酷だな。
エドガーは、
例によってエドガー流経営哲学『まずはやってみること』にしたがい、
覚悟して目の前の聞き慣れない食べ物を口に入れた。
「……うまい!」
魔鹿のベーコンは全く臭みがなく、
噛むほどに程良い脂と旨味が混ざり合う。
コカトリスの卵炒めはふんわり加減が絶妙な美味しさ。
一流ホテルでも食べれない味わいだ。
「お気に召したようで良かったですわ。」
落ち着いた口調のサキだったが、
喜びを隠しきれない尻尾がクネクネと小踊りしている。
もぐもぐもぐ……カラン!
出された食べ物はあっという間にエドガーの胃袋に収まった。
「ご馳走様!
それじゃあ、お腹もいっぱいになったことだし、
いよいよダンジョン創りってやつを教えてくれるか?」
「うふふ。お粗末様でございました。ご主人様。
それでは、まずは昨日見て頂いたステータスボードを開いて頂けますか?」
エドガーは昨日を思い出しながら、
右手のドラゴンのような紋章を押した。
目の前には昨日と同じステータスボードが現れる。
――――――――――――――――――――――――――
■経営先名称: 第13都市ダンジョン
■ダンジョンLV: 1
■保有
■ダンジョン経営スキルLV: 1
――――――――――――――――――――――――――
「3番目の『保有
「こうか?」
サキの言うまま、その辺りを押すと、
――――――――――――――――――――――――――
『
――――――――――――――――――――――――――
という表示がステータスボード上に浮かび上がった。
「それでは、『はい』を押しましょう。」
まだ慣れないエドガーを尻目にサキは淡々と進める。
『はい』を押すと、
――――――――――――――――――――――――――
『使用先を選んでください。
①ダンジョンLV: 1 ▲ (LV UP可能)
②ダンジョン経営スキルLV: 1 ▲ (LVUP可能)
③※※※※(使用不可)』
――――――――――――――――――――――――――
という表示が続いて現れた。
一番下の行の『※』は読めない。
「②の『ダンジョン経営スキルLV』横の『▲』を押しましょう。」
「はいはい、ここをポチっとね。」
さすがに慣れてきたエドガーはサキの説明に食い気味で
ステータスボードを操作していく。
『▲』をエドガーが押すと、
ステータスボード上の『ダンジョン経営スキルLV: 1』のLVが『2』に増える。
続けて押すと『5』までは数字を増やせるみたいだ。
「『5』までLVUPすればいいのか?」
エドガーがポチポチ触りながらサキに尋ねると、
「いいえ。LVUPには『
今は『
『ダンジョン経営スキルLV: 2』に一つLVUPするだけに致しておきましょう。」
とサキは頭を振った。
「『▲』を押して『2』にしたら、その『2』をもう一度押していただけますか?」
エドガーが『ダンジョン経営スキルLV』を『2』にしてもう一度そこを押すと、
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
という表示が現れる。
「『はい』でいいんだな?」
「ええ。そのまま『はい』を押して下さいませ。」
『はい』を押すと、
エドガーの右手のドラゴンのような紋章が光り、
エドガーの身体全体を優しく淡い光が包みこんだ。
ほんのり暖かい不思議な感覚だ。
ステータスボードの最初の表示を見てみると、
『ダンジョン経営スキルLV: 2』に変わっている。
同時に『
――――――――――――――――――――――――――
■経営先名称: 第13都市ダンジョン
■ダンジョンLV: 1
■保有
■ダンジョン経営スキルLV: 2
<保有スキル>
・ダンジョンクリエイト(基)
――――――――――――――――――――――――――
ん?
<保有スキル>という欄が増え、
『ダンジョンクリエイト(基)』というものが増えている。
「『ダンジョンクリエイト(基)』って何だ?」
エドガーはサキに尋ねた。
「おめでとうございます。『ダンジョン経営スキル』が『LV2』になられたことで、
新たに習得された『スキル』ですわ。
その『スキル』を使えば、ダンジョンを基礎改変出来ます。」
「ダンジョンの基礎改変?」
「ダンジョン全体を拡張する等、強力な改変は出来ませんが、
ダンジョン内の壁の配置や経路を変えたり出来ますわね。」
なるほどな。
ものは試しだ。何かで実験してみよう。
そんなエドガーの気持ちを察して、
サキから提案がある。
「ご主人様がお休みになられる場所を改変してみてはいかがでしょう?
毎回お休みになられる場所ですから、
失礼ながら、あのような『巣穴』のままではお辛いでしょう。」
「確かにな。よし、やってみよう!」
「かしこまりました。
それでは改変したいものに向かって紋章の入った右手をかざし、
改変後のイメージを思い浮かべながら、
『クリエイト』とお唱え下さい。」
えぇ……、
俺いい大人だよ……。
なんて、一流経営者のエドガーは思わない。
『巣穴』の前に立つと右手をかざし、
改変イメージを持ちながら、
『クリエイト!』
と大きな声で詠唱した。
すると、手をかざしていた『巣穴』が見えなくなるほど真っ白に光り輝き、
光が収まると先程まで『巣穴』だった場所が、
木の扉を備えた小部屋に変わっていた。
木の扉を開けた先はエドガーの改変イメージ通りの仕上がりだ。
元の『巣穴』が人一人やっと寝れるくらいの広さだったのに対し、
6畳程度のひとり暮らし用ワンルームくらいの広さに改変。
部屋の中には木製の机と椅子、
そして質素なベッドが配置されている。
エドガーはまだダンジョン経営者としては駆け出しだ。
自分を戒める為にもあえて質素な作りにした。
だが、まさに『巣穴』から『部屋』に昇格したと言っていいだろう。
手をかざすだけでこんなことが出来るなんて、
これは凄いな……。
エドガーが感心していると、
「さすがご主人様。お見事でございます。
『ダンジョンクリエイト』はダンジョン経営者の基本です。
ダンジョン内の構造をうまく改変して、
『
サキが例によって尻尾をクネらせながら基本を解説してくれる。
「ありがとう。まだまだこれからだけど、
まあこれで疲れた時はゆっくり休めるよ。」
「それとお伝えし忘れましたが、
『ダンジョンクリエイト』も万能ではございません。
当面は気にする必要はありませんが、
今後LVが上がり、強力な改変をする場合、
その内容によって
「分かった。頭に入れておくよ。」
エドガーはサキの解説に相槌を打ちながら今後の方針を思案していた。
まずはこの『ダンジョンクリエイト(基)』で出来ることの洗い出し、
あとは今いるこの第13都市ダンジョンの全体像を把握したい。
『
目指す方向を決めるのは現状をもっと理解してからだな……。
真剣な顔でエドガーが色々と思案に暮れていると、
……グ~
エドガーのお腹が鳴った。
そう言えば結構時間が経ったかもしれない。
「まあ。ご主人様、お腹が空かれましたか?」
クスクスとサキは妖艶に笑っている。
「ああ、お腹が減ったよ。
よし!今日はここまでにして、メシにしよう!」
今日はエドガーが寝落ちすることなく、
二人は再び美味しい食事をとって明日に備えるのであった。
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