第3話 ダンジョン経営者の意味を知る
「で、俺は何をすればいい?」
半ば開き直った態度で、
エドガーは魔王に尋ねた。
「まあ、そう慌てるな。これでも飲みながら話そう。」
魔王がそう言って小さな両の手をパチンと叩くと、
エドガーの目の前に黒い荘厳なテーブルと椅子が現れた。
テーブルの上には、
場違いに華やかな大小のティーカップが置かれており、
その中にはドス黒い液体が湯気を立てている……。
小さな黒い身体の魔王は、
テーブルの上にチョロチョロとよじ登り、
「これがうまいのじゃ!」
と恐らく自分用の小さなティーカップを手に取り、
カプリとそれを飲み干した。
エドガーが渋い顔でそれを見守っていると、
魔王がクリクリとした顔でじっとこちらを見つめてきた。
エドガーの前にも、
ティーカップ入りのドス黒い液体が湯気を立てて置かれている……。
…………純粋な善意は時として残酷だ。
とはいえ、エドガー流経営哲学の一つに、
『まずはやってみること』
がある。
百聞は一見にしかず、
何事もやってみなければ分からない。
使い古された言葉たが、
実践出来ている経営者は意外と少ない。
「ええい!」
思い切ってエドガーは目の前のドス黒い液体を口にした。
「……うまい!」
例えるなら黒糖のような甘さが口に広がり、
それでいて後味はすっきり爽やかハーブティーのよう。
これまでエドガーが飲んだことのない味わいだった。
「ワハハ!どうだ?魔亭茶はうまいだろう!」
魔王はエドガーの様子を見て嬉しそうに笑った。
「魔亭茶は魔界一の喫茶店である魔亭が出しているお茶でな……」
魔王が楽しそうに話している様を見ながら、
ああ、魔界も意外と俺のいた世界と変わらないのかもしれないな、
とエドガーは少し安堵した。
お互い魔亭茶を飲みながら、
場が少し和んだところで、
エドガーは改めて切り出した。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
「ふむ。そうじゃったな。
お主には第13都市のダンジョンを経営してもらいたいんじゃ。」
「第13都市?」
「そうじゃ。この世界はヘルウォールといってな、
13の都市とダンジョンで成り立っておる。
各ダンジョンを中心にして、各都市が栄えておると言えばいいかの。
お主にはその中の第13都市ダンジョンを経営して欲しい。」
第13都市ダンジョンの経営者。
これが俺の置かれる立場か。
「俺の任される立場は分かったが、
そもそもダンジョン経営って何をするんだ?
俺には全く経験が無いぞ。」
「『
ダンジョン経営者の使命じゃな。
『探索者』が沢山来てくれるダンジョンを創りあげるのじゃ。」
「『
焦らず一つ一つ理解していこう。
努めて冷静にエドガーは尋ねた。
「そうじゃ。ダンジョンからは、
マモノからの戦利品やアイテムがとれるんじゃが、
それらを狙ってダンジョンを探索する魔族のことを『
『
それを生業にしておる者は沢山おるぞ。」
「生業ってことは、マモノからの戦利品やアイテムは価値があるのか?」
「価値があるのう。
ダンジョンでとれた戦利品やアイテムは、
『
それらを資源として都市は成り立っておると言っても過言ではない。
例えば、灯りを灯す為に使う灯石、魔車を走らせる為の走石、
貴重なタンパク源のゴブ肉、
魔界の定番おやつであるウマ苔なんかも全てダンジョン産じゃ!」
ゴブ肉やウマ苔を想像しているのか、
魔王の小さなトカゲ口からはキラリと光るヨダレが垂れている。
なるほど。
各ダンジョンを取り囲むように都市が栄えているのはそういう訳か。
ここではダンジョンが生活の基盤なんだな。
「もう一つ教えてくれ。
ダンジョンを『創りあげる』ってのはどういうことなんだ?」
「ふむ。ダンジョン経営者になると、
『
自由に扱えるようになるんじゃ。
『
ダンジョン内での満足度に応じて貯まり、
貯まった『
生息するマモノや採れるアイテム等を開発・管理することが出来る。
『
ダンジョン経営者の腕の見せ所と言えるじゃろうな。」
先程のヨダレ顔から一転して、
魔王は物知り顔で解説を続けてくれた。
全くもって異世界な話で仕組みは未だに理解出来ないが、
とにかく『
魔界で人気のダンジョンを創り上げろってことらしい。
人気ダンジョンになって『
使える『
ダンジョンをより良いものに出来る。
良いダンジョンからとれる良い資源が、
この世界の住人達の生活をより良くさせる……。
……こう考えると俺の経営観を活かせる道もあるかもしれない。
エドガーは少しだけ希望を持ちつつも、
肝心のゴール、
つまり元いた世界にどうすれば戻してくれるのかを明確すべく質問を続けた。
「ダンジョン経営ってのが何なのか、なんとなくはイメージ出来た。
だけど、連れてこられる時に言われた、
『魔界の頂点、魔界一のダンジョン経営者になれ』ってのは、
どういうことなんだ?」
「ふむ。色々聞きたい気持ちは分かるが、
まずは第13都市のダンジョン経営をうまくこなしてみせよ。
お主に真にやってもらいたいことはその後の話じゃ。」
魔王はエドガーを試すかのようなトーンで、
目を細めながら答えた。
うまく扱われている感じもするが、
こうなるとエドガーも性分上引けない。
絶対に第13都市ダンジョンをうまく経営して、
魔王の信頼を勝ち取ってみせる。
「分かった。
納得はいかないが、こちらは連れてこられた身だ。
言われたことをするよ。
でも、少なくとも、
『第13都市のダンジョン経営をうまくこなす』って所だけもう少し教えてくれ。
具体的にはどうなれば条件クリアになるんだ?」
「『
それでまずは条件クリアじゃ。」
『
全く想像がつかない……。
エドガーが悩ましげにしていると、
突然重低音のアラームめいた音が辺りに鳴り響いた。
「いかん!デビちゃんとの待ち合わせの時間じゃ!」
魔王は舌をチロチロと出しながら、
急に慌て出した。
デビちゃん?
とエドガーが問いかけるよりも早く、
「いきなり『5億
さすがのお主も分からんじゃろ!
そこの後ろの扉を出れば、
第13都市ダンジョン内部に直接行ける。
扉の先にワシの配下をお主の秘書役として遣わしてあるから、
あとはその者と実際にダンジョン経営しながら理解していってくれ!」
と魔王は早口でまくしたてた。
え、とっても急な展開。
「ちょっと待て!ダンジョン経営のコツとか、
もっと予め教えておくことはないのか!?」
「コツ……?ガハハ!
実は少し前までワシが直々に第13都市ダンジョンを経営しておったんじゃが、
ちっともうまくいかんかった!ワシに経営センスは無いらしい。
だから、お主を呼ぶことにしたんじゃよ。
そこはほれ、同じ経営じゃ。お主の優秀な経営スキルで頼む!」
……丸投げ感がすごい!
エドガーが絶句している間に、
魔王はチョロチョロとテーブルから降り、
「では、また『5億
というセリフを残して、
颯爽と居なくなってしまった。
残されたエドガーの後ろには、
『第13』と書かれた重厚な黒い扉があった。
さっき魔王が言っていた第13都市ダンジョンへの扉はこれだろう。
………………。
エドガー流経営哲学、
『まずはやってみること』。
ギィ〜、バタン。
エドガーは無言で第13都市ダンジョンへ向かうのであった……。
<話末のおまけ>
◆ここまででエドガーが理解したこと◆
①この世界はヘルウォールという魔界
②ヘルウォールには13の都市とダンジョンがある
③ダンジョン経営者は『
④『
都市で売りさばく
⑤都市はダンジョンからの戦利品やアイテムを生活の基盤としている
⑥ダンジョン経営者は『
ダンジョンエネルギーを扱える
⑦『
ダンジョン内での満足度に応じて貯まる
⑧ダンジョン経営者は『
マモノ、アイテム等を開発・管理することが出来る
⑨エドガーが元いた世界に戻る第一歩は第13都市ダンジョンを経営して、
『5億
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