第2話 魔王に挨拶。のち、ダンジョン経営者へ。
ひんやりとした床の感触で、
エドガーは目を覚ました。
辺りには誰もいない。
そして、非常に残念なことに、
辺りの景色は引き続き魔界のそれだ。
ただ、先程までの外にいた感じから、
室内に移されたようだ。
エドガーが見渡す先には黒塗りの壁が確かに有り、
立派な柱とドクロに刺さるロウソクの光が、
何やら荘厳な雰囲気を醸し出している。
「おい!」
聞いたことのあるハスキーボイスに、
エドガーは飛び上がるように声のする方を見た。
「やっと目を覚ましたのか。
これだから人間は....。」
出ました。ガーゴイル。
こうなってくると、地獄に仏、、いや、、
魔界にガーゴイルだ。
見知った相手がいるだけでありがたい。
「ここはどこだ?」
エドガーはガーゴイルに尋ねた。
「魔王城。さっきも言っただろう。
これから魔王様に会わせると。」
ガーゴイルは、「先程のこれだから人間は...。」
のトーンのまま応えた。
どうやらこのガーゴイル、あまり人間好きではないらしい。魔物だから当然か。
「さあ、もたもたせず俺に付いて来い。」
ハスキーボイスと共に、
ガーゴイルは部屋の奥へと歩き出した。
慌ててエドガーも後を歩く。
思ったよりも部屋は広く、
向かう先は闇に包まれたままだ。
時折聞こえるギャーギャーという正体不明な鳴き声が、不気味さを一層リアルにしている。
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どれくらい歩いただろうか。
軽く汗をかいてきたぐらいのタイミングで、
ガーゴイルの歩みが止まった。
目の前には、これまでエドガーが見た扉という扉のどれよりも巨大な扉があった。
ガーゴイルが呪文のような言葉を唱えると、
地鳴りを伴い、扉が勝手に開きだした。
立ちすくむエドガーを他所に、
ガーゴイルは扉の中へと歩みを進めていく。
意を決して、エドガーも扉の中へと入った。
扉の中は、辺り一面真っ白だった。
これまでの不気味な道中とはがらりと変わり、
どこまでも真っ白でどれ程の広さなのか、
皆目検討もつかなかった。
ふと、エドガーは遠くになにやら動く点を見た。
目を凝らして見ていると、その点は徐々に大きさを増し、最終的にはエドガーの前まで届く、赤い一直線の絨毯の道となった。
ガーゴイルは、
何事も無かったようにその赤い絨毯の上を恭しく歩いていく。
エドガーは黙ってその後ろを付いていった。
「…よく来た、人間!」
腹の底に響く、
この世のものとは思えない声が突然響いた。
先程まで先が見えなかった赤い絨毯の先に、
いつの間にか大きな玉座が出現している。
「魔王様、仰せの通り人間を連れてきました。」
ガーゴイルは床に手をつき、恭しく報告をする。
「人間!お前も頭を下げろ!」
魔王の姿が見当たらないが、
ガーゴイルからの厳かな注意を受け、
エドガーも床に手をつき、頭を下げた。
「うむ。ガーゴよ、ご苦労だった。
お前は下がってよいぞ。」
ガーゴイルのやつ、ガーゴって呼ばれてるのか笑
「人間よ、粗相のないようにな」
ハスキーボイスと共に、
ガーゴイル改めガーゴは元来た赤い絨毯を下がっていった。
エドガーは頭を上げて玉座を見たが、
魔王の姿は見当たらなかった。
エドガーが魔王を探してキョロキョロしていると、
「どこを見ている!」
と再び玉座の方から魔王の声が聞こえた。
魔王らしき姿はやはり無い......。
エドガーが玉座に近づくと、
その上をチョロチョロと小さな黒いトカゲが駆け回っていた。
......まさか。
トカゲの首根っこをつかまえて、
エドガーはその顔を覗き込んだ。
「もしかしてお前が魔王か?」
トカゲに問うと、
「いかにも!わしが魔王である。」
と可愛らしいクリクリとした表情からは想像もつかない重低音が響いた。
エドガーは、
魔王のイメージとのギャップに驚きつつも、
「魔王よ、俺を元の世界に返してくれ!俺はなんで連れてこられたんだ?」
と魔王にせっついて質問した。
魔王が小さなトカゲということよりも、
自分が魔界に連れ去られていることの方が問題だ。
「まあ慌てるな。」
トカゲの魔王は、
ドラゴンの咆哮にも似た咳払いを一つ挟んで、
話を続けた。
「ヴォホン...。改めて名乗らせてもらおう。
ワシがこの魔界のトップ、魔王オーナーである。
お主を連れて来させたのはワシだ。
そちには頼みたいことがある。」
「頼み?普通の人間だぞ、俺は!」
エドガーには、
魔王に頼られる心当たりなんてない。
「お主は優秀な経営者なのだろう?」
魔王オーナーは、
試すような口調で続けた。
「元の世界に帰りたければ、
ダンジョンを経営して欲しい。」
「は?」
エドガーは耳を疑った。
ダンジョンって、あのダンジョン?
魔物が出てきて危険な、あのダンジョンを経営?
エドガーの頭に次から次へと疑問符が飛び交う。
「出来ぬか。優秀な経営者と聞いて連れて来させたが、やはり無理か。。」
魔王オーナーは、エドガーの困惑した様子を見て、
やや落胆したように小さく呟いた。
(......優秀な経営者?............無理?)
エドガーにはどんな状況下であっても譲れない、
経営者としての自負があった。
「俺は優秀な経営者だ!
俺に出来ない経営は無い!」
頭のグルグルを尻目に、
条件反射的にエドガーは叫んだ。
「おお!では、やってくれるな!」
落胆していた魔王オーナーの瞳が輝く。
「いや、、えっと、、、」
エドガーが思わず発してしまった自分の言葉を取り下げる間もなく、
「では、今からお主はダンジョン経営者じゃ!」
魔王オーナーが高らかに吼え叫んだ。
(うん、雰囲気的にこれもう断れないやつだ。)
エドガーは遠くを見つめて、
静かに覚悟を決めた......。
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