人間の俺が魔界のダンジョンを経営することになるなんて!

けんしろう

第1話 魔界デビュー

時を遡ること数時間前。

エドガーは、自社の年頭式でスピーチをしていた。

目の前には数百人の従業員達。

自然と熱を帯びた口調となる。


「今年は飛躍の年となります。

いや、飛躍せねばなりません!

それには皆さん一人一人の…」


エドガーが会社を継いだ直後は、

このスピーチを聴く従業員もわずか5人だった。


感慨深いものを胸に抱き、スピーチを続けながら、

従業員一人一人の顔を見渡す。


人数が増えても、

一人一人の従業員に思い入れがある。


エリー、ハンス、マイケル、

ガーゴイル、、、ん?ガーゴイル?

たしかにいる 。。


翼と角が生えたあの黒いフォルムは、

間違いなくガーゴイルだ。


ガーゴイルと目が合った瞬間、

エドガーの意識は飛んだ。





どれくらいの時間、気絶していたのだろうか。

目を覚ますと、多分魔界と言って間違いない、

あの暗くて重たい異様な世界の中にエドガーはいた。


勘弁してくれ!

夢を見ている暇は無い。

これから俺は忙しいんだ!


頬をつねりながら、

ひとしきりウロウロしてみたが、

いっこうに夢から覚める気配はない。


どうやら今起きているのは現実らしい。 

どうすれば元の世界に戻れるのだろうか。

皆目検討も付かない。


「バサバサバサ!」


途方にくれたエドガーの前に、

件のガーゴイルが舞い降りた。


「俺を帰してくれ!」

エドガーはガーゴイルに訴えた。


「ダメだ。わざわざ連れてきたんだから帰す訳がない。」

ガーゴイルは、思ったよりもハスキーボイスで受け答えし、

首を横に振った。


「どうすれば帰れる!?何が目的だ!?」

エドガーはガーゴイルに掴みかかる勢いで尋ねた。


そりゃそうだ!

さっきまで自分の会社でスピーチしていたのに、

気づいたらこんな訳の分からない展開になっているのだから。


ガーゴイルは咳払いを一つし、

またハスキーボイスで応えた。


「お前が帰れる方法はただ一つ。

魔界の頂点に立つことだ。」


「魔界の頂点?」


ただの人間の俺が、マモノだらけの魔界で頂点に立てる訳がない。

ガーゴイルはエドガーの気持ちを見透かしたように話を続けた。


「そうだ。魔界の頂点に立てば、

きっと魔王様がお前を元の世界へ帰してくれる。

......と言っても、力で頂点に立つ訳ではないぞ。」


「何で頂点に立てばいいというのだ?」


エドガーが尋ねると、

ガーゴイルは黒い翼を一度羽ばたき、


「ダンジョン経営。」

とだけ言った。


「ダンジョン経営?」


なんだかイメージしてた感じと違う。

エドガーは展開に違和感を覚えながら、

ガーゴイルに質問を続けた。


「そうだ。ダンジョン経営で一番になれ。魔王様はそれをお望みだ。」


ガーゴイルはそう言うと、

黒い翼を広げ、鋭い爪の付いた二本の腕でエドガーを掴みあげた。


「これからお前を魔王様の所に連れて行く。詳しくはそこで教えてもらえ。」


ガーゴイルは喋りながら、

エドガーを掴んだまま、魔界の黒い空へ舞い上がった。




もうどうにでもなれ............。




バサバサと不安定な揺れを感じながら、

エドガーは言葉を発する前に再び気絶した。。

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