第4話 謎の少女

 生み出された篝火によって照らされたのは、豊満な双丘を隠すことなく、いや、隠しておかなければならい場所をすべてさらけ出して現れたのは一人の少女だった。

 彼女は身長は僕と変わらないくらいで、金髪赤眼、髪を腰の高さまで垂らした少女だった。そして、誰が見ても有無を言わせない程の整った容姿。

 それは、豊満な二つの山が屹立していなかったら、まず最初に焦点があてられ、数秒は見入ってしまっていただろう。

「そういえば、先ほどの問いに答えていませんでしたね」

 そう、先ほどした問いに対して沈黙を貫いていた彼女はようやく口を開いたのだ。

「それよりもです、まずは服を着てください」

 身に着けていた燕尾服の上着をうつむき加減に差し出すと、彼女は謝辞を述べた後、その妖艶な裸体を隠した。

「服ありがとうございます。

 話を戻しますが、私には記憶がないのです」

「記憶がない?」

「はい、記憶がないと言っても一部なんですけどね」

 そう言うと彼女は少し乾いたような笑みを漏らした。

 記憶がないということは、この場所の情報を得ることはできなさそうだな。

「ならこれなら、先程のあの化け物を薙ぎ払ったあれはなに?」

 松明持った反対の手の人差し指を軽く突き出して先ほどの閃光を出し、おもむろに解説し始めた。

「之は『慈悲深き光』と言う熱線を出す能力です」

「能力?能力とは一体何なんだ」

「能力とは人間の可能性であり、人間の限界。能力は基本的に一人に一つ必ず備わっているというものです」

「じゃあ、僕にもあなたみたいにああいうの出せるんですか」

「能力は備わっているといっても、必ず発言するものではない」

「どうやったら発現させることができるんだ?」

 記憶喪失である彼女は僕の問いに対してずばずばと答える。

「出来事。そう、その人に対して衝撃的で意味の深い事件、事柄が覚醒へ至らしめてくれる」

 僕は衝撃的だけど意味の深いかどうかはわからないけど、あの昨晩のあれでもしくは、なんていう希望を思い浮かべていると、彼女は僕の右手を彼女の左手に包まれる。

「な、何をしてるんですか。初対面の人にぃぃ」

「何をって、手を握っただけです。あなたは何か自分を責めている感じがしたから」

 この時、思わず謝辞の言葉を述べ、その手を振り払おうとはしなかった。

 そのままの状態で話を転換する。

「そんなことよりも、僕はゼノンです」

「ゼノンですかぁ、私の名前はミサキです」

「いい名前ですね、ちなみに僕はこの名前をティア様に名付けてもらったんです。

 ミサキさんはどうなんですか」

「ミサキさんだなんて、ミサキでいいですよ」

 先ほどまで立ち話をしていた二人もさすがに、立ち続けているのがきつかったのかいつの間にか篝火を挟んで座っていた。

 照らされた顔はミサキの表情に悲しみの色を載せていた。

 なんて僕は不謹慎なんだ。他人の思い出にずかずかと入り込んで。

「ごめん、話したくないないなら言わなくていいよ」

「わからない、わからない、なぜミサキなのか」

 篝火が薪を燃やす音だけが反響し、二人の間に静寂が走った。

 この静寂のせいで、ミサキに聞こうと思っていたことを言うタイミングを失ってしまった。

(気まずい、これがティア様が言っていた修羅場というやつか)

 「「あ、あの」」

 口を開いたときは全く同時だった。

 二人の間譲り合いが起き、再び静寂がを静寂が支配してしまった。

 その間も目で譲り合い、それを繰り返すこと3度先に口を開いたのはゼノンだった。

「手伝ってください」

「何をだい?」

「ここから出るのをです」

「それは、いやです」

「はぁ、なぜこんな暗くて湿気でじめじめして、まして怪物すら出てくるところに居座ろうと思うんだ?」

「それは、私はあなたに興味がないからです」

 手を貸すことに確信までしていたのに、まさかの理由の拒否で開いた口がふさがらなくなっていた。そして場は静まり返った。

 それは、その場と鏡写しになるように鳴った。

『ぐぅぅぅぅぅ』

 音は洞窟がより一層にサウンド上げていった。

「お腹すいてるんですか」

「ハイ、もうペコペコで」

 篝火越しに宝石のような紅の目が下から何かあるのかと訴えてくる。

 僕は自身のパンツのポッケットやワイシャツの胸ポッケットを手当たりしだいに弄った。

 しかし、自分が身につけているものにはそれはなかった。

 ならあそこしかない。

「あのー、上着返してもらっていいですか」

「貴方は使えないって思ったら捨てるんだぁ。うあぁ、ひどいひどい」

「いや、そうじゃなくって」

「そうじゃなくって何なのさぁ」

「返してもらうのはいいですから、その上着の内ポケットに何か入ってませんか」

「仕方ないなぁ」

 ミサキは言われた通りに内ポケットを探すと、何か硬いものが入っていた。それを取り出して火に照らしてみると、人肌と同じ色をした長方形のブロックが入っていた。

「これなんですか」ミサキは不思議そうに尋ねてきた。

「これは携帯食です」

 上目遣いをして、食べていいのかを訴えてくる。

「条件です。それをしてくれるのならその携帯食をあげます」

「条件は何だい?」

「ここから出るのを手伝うことが条件です」

「いいですよ」

 ミサキは即答し、即座に携帯食にがっついた。

「どうですか?」

「美味しい。なんでこんな美味しいもの持ってるの」

「おいしい?それあんまり味しなくないかな」

「するじゃないか、こんなにも」

「人それぞれってやつか」

 携帯食をおいしそうに頬張るのを見てこっちも少しお腹がすいてしまった。

 だけど、何かおかしいだよなこの子。

 あまり味のしない携帯食をおいしいって言ったり、記憶喪失だとか、この環境下で興味がないから脱出を手伝わないとかずれてるというか、変わってるというか。

 そも、彼女はいったいどこから現れたのか。さっきはどこから松明を生み出した。

 疑問で脳内の収容能力キャパシティーがパンクしようとしていた。

 だから、ゼノンは納得して考えないようにした。

「どうしたの、ぼおっと炎なんて眺めて」

「いえ、何でもないんです」

「何かあるんだったら、早く言葉に出したほうがいいよ。言葉は魂の叫びなんだから」

「そうですか」

 やっぱり変わってるな。 

 そんなことよりもと、首を二度三度振ってこれからの事を考えようとする。

 しかし、どうやってここから脱出するのか。

 そうだな、言葉に発してみるのもいいのかな。

「ここから脱出するためにはどうしたらいいでしょうか」

「そうだねー・・・わかんない」

「なんだったんですか、さっきの溜めは」

 ミサキはちょっと考えたのさと言わんばかりのどや顔を見せつけてくる。

 そんなとき、ひゅうっと、風が突き抜けた。

「わかりました、わかりましたよ」

 ひらめいた拍子に立ち上がる。

「いったい、何が、わかったんだよ」

 あれを感じ取れれば、その先に光明は見える。

 だけど、あれ?

 たちあっがっていた体は急激に力が抜けていき、後ろへドサッと倒れ込んだ。

「大丈夫、ゼノン」

 

 ゼノンはいったい何を思いついたのか。

 そして、なぜ突飛にも倒れ込んだのか。

 そして、ミサキと呼ばれる少女の目的は何なのか。

 

 

 


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