第3話 生存

「うあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」

 風を切る音が聴覚を制限し、暗黒が視覚を遮断する。 

 こんな高さから落ちたら確実に死ぬ。どうすれば・・・。

 体をひろげて胸を下にして落下している僕にできることは殆ど無い。

 そも、今の状況がわからないのに、どうやって。

 思考を巡らせる中出した結論は、僕にできること何もできることがない。

 いつもそうだ、決心や決意を固めた矢先にすべてそれが破綻する、自分の能力以上の壁が立ちはだかる。

「もう諦めていいでしょうか、ティア様」

 ゆっくり瞼を閉じようとする。

 が、自分の決意が無力に対しての抑止力になる。

「ごめんなさい、あなたにもう一度会うまでは僕は死ねない」

 とりあえずどうにかして、落下時の衝撃を消さなければ・・・

 今もなお下降中の体に神経を張り巡らせる。

 なんでもいい、少しでも変化を感じろ。空気の流れ、音の変化、何かの気配を。

(何だこの音)

 刹那、緊張感を孕んでいた神経が微々たる音を聞きのがさなかった。

 地面はすぐそこだ、どうにかしてこの落下時の衝撃を殺さなければ・・・。

 正直こればかりは、運任せでしかない。

 次の瞬間、とてつもない衝撃が僕の腹部から全身に渡るまで走った。

(終わった、だめだったようだ)

 臓物やらなんやがあたりに飛び散り、肉体が死を宣告を受けた。

 そして、意識が持っていかれるような感覚が襲い、その途端に体中の感覚が失われた。そして、目の前が深淵に包まれた。

 

 僕は死んだ。

 確実に死んだ。

 なんとも無惨に、きれいに、呆気なく終わったのだ。

 死後はどうしようかティア様を末永く見守ろうか、それとも、どうしようかというような、そんな惚気に襲われている時だった。

 真っ白い部屋ルームの地面から闇が現れる。

 それは部屋ルーム内に浮かんでいた僕の身体を覆うように触手が伸びてくる。

 そして、それは徐々に闇の中に引きずり込んでくる。

 それは、ゼノンの何もかもを奪っていくような気がした。

 —意識、記憶、そして魂、思い出。

 闇が身体を侵食し、ほとんどを闇が埋め尽くさんとしていた時だった、光明が頭上に現れたのだ。

 その光は闇を拒絶し身体から引きはがす。

 そして、あっという間に消えていった。

 

 ハッと、現実に戻される。

 まず最初にしたのは、自分の体の隅から隅まで視線を送るが、照明一つない闇の空間内では何も見えることはなかった。

 そこで、視覚の次に焦点を当てたのは触覚。

 身体は動く、痛みすらないというか傷は?確実に致命傷だったはず、なのに痣や打撲など、傷一つない健康体そのものだった。

—どうして、どうして、ありえないそんなことは、確かに腸などのいろいろな臓器が飛び散ったはずだ。

 と、突如四方八方から獣の咆哮が反響を利用してと届く。

 そして、ゼノンはここがどこなのかを思い出す。

『あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』続けざまに放たれた唸り声は、まるで腹を空かせて獲物を探しているがごとくの殺意が混じったものだった。

 必ずこんなところにいたら見つかる。こんなところで生きている咆哮の主は必ずと言っていい、何か獲物の位置を認識する方法を持っている。

 そんな奴からどうしたら逃げることができる。しかも、こっちは地の利がないうえにこっちは現在地すらわからない。

 そんなこんなで打開策を編み出そうとしている間にも、着々とソレが近づいてきているのが分かった。

 唸り声がより鮮明に聞き取れるようになってきている。

「どこだ、どこにいる。いやどこからくる」

 ゼノンはすでに結論をいくつかの選択肢から、打開策はじき出していた。

 その打開策は選択の中から、最も生存確率が高い博打かけだった。

 最も高いといっても、ほんの数パーセントの話なのだが。

『ああああああああああああ』 

 反響からそれが確実に近づいていることを察する。

 次の瞬間、素早く立ち上がる。その右手には、手のひらサイズの石が握られていた。そのまま、石を軽く投げる。地面を二度三度弾み、その衝撃により反響を生み出した。

 それに反応したかのように、微小な地面をする音がゼノンの傍らを横切り、真っ先に音がしたほうへ突進していった。

(やはり予想通り、奴は音を感知して暗闇でも獲物を認識していんだ)

 この時のゼノンのには、脳裏に懸念点が浮かんでいた。

 そう、それは自分の物理攻撃が本当に奴に通用するのか。

 この暗闇では奴の体躯は見えなかった。でも、明らかに自分の攻撃が通用するような感じではなかった。

 そんな中、奴の咆哮が部屋ルーム全体を揺らす。

『ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

 そして、奴が突進してくるのが分かった。

(く、来る。でも、やるしかない)

 左足を半歩前に出して、拳を強くに握りしめて構えを作る。

 意識を集中し、構えを作ったまま、瞑目する。

(今度こそ、感じ取るんだ)

 7、6、5、4・・・。

 来る。そう思った瞬間に、全長4mを超える緑色の体躯に触手のような足2本に腕2本を携えた化け物が姿を現した。

 化け物の突進を間一髪で左によけ、振り向き様にガラ空きになった背後に一発食らわせる。

 化け物はびくともせず、鞭のような触手を振り回す。

「ぐはっ」

 どてっぱらに、一撃を見舞われ、後方に飛ばされ、盛大に壁にぶつかる。

「硬すぎだろ、無防備の背中への一発でダメージがないなら、僕に勝ち目は満の一つもない」

 今度こそ、ここまでか。

 あの化け物がこちらめがけて突貫してくるのが分かった。

「いったい何なのでしょうね、この場所は」

 と、突然投げられた言葉に、化け物は反応を示す。

 化け物は、左に方向転換し、言葉がしたほうへ突貫する。

 次の瞬間、光が化け物を貫き、一閃。

 断末魔と共に上半身が崩れ落ち血しぶきがあたりに飛び散った。

 そして、素足で地面を歩いているような、音が徐々に接近してくる。

「大丈夫ですか」

「だ、だ、大丈夫です」

 放たれた言葉は女性ものであった。

「こんな暗さじゃ、なんにも見えませんね」

 と、彼女は手もとで何かゴソゴソした後に、松明に炎を宿した。

(どこから、松明なんて取り出したんだ?)

 そんな疑問が脳裏に浮かぶ中、松明のあかりによって、明るみになったのは・・・。

「す、すみません、一つ聞いてもいいですか」

「いいですよ」

「なんで、なんで裸なんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 


 

 

 

 


 

  


 

 

 

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