第2話 male

 案件の途中、いつも、自動販売機のところに行く。

 意味はないし、飲み物を身体が欲しているわけでもない。水でいいし。

 それでも、この場所には、来てしまう。

 彼女に初めて逢ったのは、いつ、だろうか。

 なんか、最初からいたような気がしないでもない。綺麗なドレスだったり、それっぽいパンプスコーデだったり。彼女の服は、いつも違っている気がする。

 気がするだけで、きっと、私が気づかないだけで。

 彼女がいないと、彼女のことばかり考える。

 彼女の名前も。

 素性も。

 何も知らない。

 ただ、この自動販売機のところにいて、話をするだけ。それだけ。

 案件の話をすると通じるので、もしかしたら、同業者かも。


「あら」


 ひとつだけ。


「珍しいのね」


「俺が先なのが?」


「うん」


 ひとつだけ。彼女について、知っていることがある。


「セレイン」


「なに?」


「いや、なんでも」


「そう」


 彼女の、コードネームのような、何か。

 シークレット・セレイン。それが彼女の、何かの名前。


「ひなちゃん」


「なんですか?」


 萎びていたから、ひなちゃん。そう呼ばれはじめた。彼女の呼称は、いつも、適当。


「なんでもない。呼んでみただけ」


 無表情だけど、穏やか。それが、いつもの彼女。

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