第2話 デート
A君は毎晩、その子(Bさん)に電話するようになった。Bさんはすごく聞き上手で、声がかわいかった。A君は仕事の愚痴なんかも話していた。上司に嫌なやつがいるとか、先輩が面倒臭いとか、そんな話だ。前の彼女は、「そんなのみんな一緒だよ。私だって・・・」と言い返すタイプで、愚痴を言っても全然聞いてくれなかった。だから、Bさんとの時間はすごく心地よかった。
『Bちゃんは普段何してるの?』
きっと、習い事をしてるんだろうと思った。料理、茶道、華道、着付け、礼法とか・・・。俺は今50だけど、俺が20代の頃は家事手伝いと称して就職しない女性もいたようだ。ほとんどは富裕層だろうけど。今、家事手伝いと言うと、ニートとか引きこもりなのかなと思うけど、昔は今ほどそういう人がいなかった。ニートと言う言葉が一般的になったのも、ここ20年くらいだ。
『本が好きで読書してます』
『へえ、どんな本が好きなの?』
『村上春樹とか』
ノルウェイの森は1987年刊行で、当時の歴代売上No.1のベストセラーだった。Bさんは知的な文学少女なんだろう。A君の胸はときめいた。彼は奥さんになる人には、家にいて欲しかったから、家事手伝いはむしろ好ましかった。
「今度会わない?」A君は提案した。
「いいよ。どこで?」
「じゃあ、銀座は?」
「いいよ。あんまり詳しくないから、駅で待ち合わせでもいい?」
「うん。何線で来るの?」
「多分、JR」
「有楽町だったら、出口がいくつかあるから〇〇口で。金曜の7時はどう?」
「うん」
約束してからも、A君たちは電話で話していた。たわいもない話。それで何時間も過ごせた。本当にBさんとは相性がいいんだな、とA君は思った。
約束の日、A君は有楽町に行った。かわいい子だったらいいな、とワクワクしていた。性格重視でも、かわいいに越したことはない。
待ち合わせらしい若い女の人がパラパラといた。その中にボストンバックを持ってる女の人がいた。20くらいで、ちょっとダサい感じの子だった。あの子は違うだろうな。A君は思った。
メールを送ると、もう着いてるよ。と、書いてある。服装は白いブラウスにピンクのスカート。
あ、あの子か、、、
A君は正直言ってがっかりした。見た目は100点満点で50点くらい。会社でかわいい子を見慣れているから、かなり見劣りした。一緒に歩くのも恥ずかしい感じだった。
化粧を全然してなくて、髪は後ろに束ねている。とにかく地味な感じの子なんだ。
A君は性格のいい人だから、せっかく来てくれたんだし、別に付き合わなくても、友達でもいいや、と気持ちを切り替えて、感じよく振る舞うことにした。
「Bちゃん?」
「うん」
声は電話のままだった。何故か安心する。
「荷物多いね」
「泊まろうと思って」
「え?そうなの?」
「遠いから」
「家、どこ?」
それまでどうしても住所を言わなかったので、A君は尋ねた。
「新潟」
「えっ!?」
友永のやつ、わざとやったんだ、、、A君はゼミの男が冗談で家の遠い子を紹介して来たんだと気がついた。普通だったら、遠すぎる・・・とそこで終わるけど、Bさんが家を言わないから、近くに住んでると思い込んでしまったんだ。
「ごめんね。遠くまで来てもらって」
「いいの。東京初めてだし」
「じゃあ、どっか行きたいところある?」
「東京タワー」
A君は気を良くしてBさんに付き合った。久しぶりに行く東京タワーは思いの外よかった。オレンジ色の照明がきれいだった。鉄でできているのに、暖かでレトロな感じがした。
「こんなにキレイだと思わなかったなぁ」
Bさんは相変わらず話しやすくて、遠距離でも付き合おうかて迷い始めた。
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