第3話 ゴーレム捕獲戦

 ゴーレムに駆け寄りながら飛鳥は従魔と思考のリンクを行いつつ状況を確認する。

 交差点の中心に佇む巨体、その大きさはゆうに5mはありそうだ。

 周囲には倒壊した幾つかの建物、この個体がやったわけではないがいつ見ても酷いありさまである。

 そんな中ようやくゴーレムは彼が近づいてくることに気が付いたようで首を飛鳥の方に向ける。


「もう気付かれた!? 他の個体に比べると索敵範囲が広いのかな? まあ、まずは周囲の被害を抑えないとね!」


 飛鳥の接近に気が付いたゴーレムは、こちらにその巨体を向けその右腕を大きく振り被りそのこぶしが彼に狙いを定める。


「判断もよくて、滑らかな動き。でもそんなの喰らわないよ〈空を駆ける星の如き動きを我に下ろしたまえ〉【加速アクセラレート】【跳躍】からの【衝撃インパルス】」


 普通のゴーレムの場合この大きさだともう少し察知するのも動作も遅く攻撃される前に1撃を負わせることは容易である。今回の個体はその両方に優れているのだろう。

 それならばと飛鳥は速度強化の魔法を使う。

 飛鳥が魔法を唱えると彼の全貌に合わせるように青白い光で描かれた魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣が体を潜りその後プラズマ帯になり足首の周りに留まった。

 そして[成長スキル]《移動術》の中にある【跳躍】で前方に跳び迫るゴーレムの腕をかわすとともにその勢いを利用し、《大槌スキル》【衝撃】を使い左に大きく振りかぶってゴーレムの脇腹に攻撃する。


 ドゴッ!! ズシン!! 


 その小さな体の何処にそんな力が有るのかと思うほどに、石の巨人は勢いよくその身を空中に打ち上げられたのち重力に従いその身を地面に吸い込ませる。

 そこは道路のアスファルトの上ではなく大幅にずれた土の上。

 ゴーレムが落ちたところからは土煙が上がっている。

 すかさず飛鳥はゴーレムを飛ばした方へ追撃を仕掛けるため駆けだす。


「マスター!!」

「ッ!? アミー!!」


 コルティの叫びとともに土煙の中から石の礫が飛び出してきた。

 それは、まっすぐに飛鳥の元へと向かってきたが、彼の掛け声とともにアニムリウスが飛鳥の肩から飛び上がり彼の手に収まる。

 その体を飛鳥は走る勢いのままアニムリウスを礫に向けて投げつける。

 アニムリウスは礫にぶつかる瞬間にその体を広げてその礫を飲み込んだ。


「……魔法まで使って来るなんて…………本当に優秀」


 飛鳥はアニムリウスを投げたことによって勢いが消えたので立ち止まり、ゴーレムが魔法を使ったことに対して驚きつつもそのことに対して口角を上げる。

 煙が晴れるとそこには大きな足は土に飲み込まれているが健在なゴーレムの体の前で茶色い魔法陣が消えていくところだった。


 スチャッ!! ペッ!! 


 飛鳥の横にアニムリウスが着地するとその体から拳サイズほどの石の塊が数個でてきた。こんなものが当たってしまっていたらひとたまりもなかっただろう。


「そっちがそう来るなら僕だって!! 【雷槍Ⅲクリス・トニトゥルス・トリア】」


 飛鳥が唱えると目の前に3つ水色の魔法陣が現れそこに雷が現れ収束し小さな槍となってゴーレムに向かう。

 その魔法をゴーレムは腕を振るい雷の槍を弾くことで攻撃を防ぐ。


 “トスッ”


 攻撃を防いだゴーレムの手に小さな刃物が突き刺さる。

 刃物が飛んできた先にはコルティが降りぬいたような姿があった。


「〈金生水、水生木、木生火〉【爆破ニヒル・エールプティオー】」


 コルティが呟くとナイフが小規模な爆発を起こしゴーレムの腕を破壊する。

 これによりゴーレムは、四肢のうち3つが使用不能になるが、ゴーレムも黙ったままやられるわけもなく再び魔法陣を起動させ【石弾】をコルティに向かって打つ。

 しかし、コルティはそう来るのが分かっていたような動きで魔法によって発生した石の礫を避ける。


「やっぱり指示が無ければ攻撃した相手をターゲットにする特性は変わってなかったね。これでラスト一本【衝撃】」


 ゴーレムが魔法を放った直後に飛鳥が近寄り、四肢の最後の一本を破壊した。


「じゃあ、アミー【魔力吸収】お願いね」


 飛鳥がそういうとアニムリウスがゴーレムに覆いかぶさり不思議な光を発しだす。

 暫くゴーレムはアニムリウスを引きはがそうと藻掻いていたが、はがすための腕が無くなったことでそれも出来ずついに動きを止めた。


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「お兄様大丈夫かしら?」


 皆様初めまして。

 私は柊 環希、柊院の初期メンバーですわ。

 同じ初期メンバーのさやちゃんとほのちゃんと一緒にお兄様と一緒にダンジョンに向かっておりましたの。

 ああ、さやちちゃん、たまちゃんって言うのは紗花ちゃんと焔火ちゃんの愛称ですわね。

 私たちの夢は三人そろってお兄さまのお嫁さん……と今話その話をしている状況ではございません。

 私たちは柊院に引き取られる前はとある研究機関の実験台としてひどい扱いを受けていましたの。

 千尋お姉さま含めて当時の私たちはその状況を当然のものと思っていたのですけれど、お父様とお母様、お兄様のおかげで一般的な感性を得ることが出来ましたわ。

 とくに後処理に追われていたお父様とお母様の代わりの様に自分がを隠してまで私たちに気遣かってくれていたお兄様には感謝しかありませんわ。


 何故この話を今しましたと言いますと、お兄様が前に出て私たちが後ろから見ているだけの状況が少しだけあの時の構図に似ておりまして……

 ああ、だからと言ってお兄さまを信頼してないと言う訳ではございませんのであしからず。

「ダイジョブだよー 私たちだってあのころとは違うんだから。いつでも仕掛けれる」

「うん……アミーとコルティもいる。だからその時までは見て学ぼう」


 そうですわね。ほのちゃんの言う通り、今はアミーとコルティも一緒におりますしね。

 それに紗矢ちゃんと一緒で私たちもあの頃と違ってただ見ているわけでもなく、お兄様が危なくなった時に備えていつでも出れるようにしていますわ。


「あれは【加速】ですわね」


 まず、お兄様は自分の素早さを上げるために魔法を使った。あの魔法はダンジョンが始まった当初に現れたものではなくお兄様が個人で開発したものだ。

 最初の強化は筋力を上げるだけで人の体のことは考えられていないのでそのままでは関節が外れたり、肉離れを起こすなど支障がありましたわ。

 なので、お兄様含め付与術師立ちは日夜実験を積み重ねギルドにその術式を提出することで共有しているらしいですわ。


「おお!! お兄様がぶっ飛ばしました」

「よし!!」


 お兄様がゴーレムを吹き飛ばした衝撃で上がった土煙に向かって走り出しましたわ。


「マスター!!」


 コルティが何かを察知したのか、お兄様に注意のために呼びかけましたわ。

 その時土煙から何かが突き出てきてそれに向かってお兄さまがアミーを投げつけましたわ。


「ゴーレムが魔法を?」

「……良個体」

「魔力足りるでしょうか?」


 魔物を使役する方法は魔物の中にある魔力を押し出して使役する人物の魔力で満たすのですが、動きもよかったですし魔法も使える個体となるとその場合はあちらの抵抗も強いらしいのですし同い年の子たちよりは鍛えてますので魔力の量も質も自信はありますが。


「皆さん、マスターがお呼びです」


 そんなことを考えている間にお兄様の戦闘が終わってしまっていたようで、コルティが呼びに来ましたわ。

 お兄様を待たせるわけにもいきませんので早々に向かうと致しましょう。

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