第一章

第1話 約束

 暗い空間に一人のぼろぼろの女性が右手を釣り上げられた状態でいる。

 よく見るとその手には赤い鎖の様な物が絡まっている。

 その鎖は気味が悪いほどに脈動しており、まるで何かを吸い取っているかのようだ。

 左手もよく見ると鎖の跡がついており両手が繋がれていたことが分かる。


「条件を満たすものが現れましたか」


 女性は閉じていた眼を薄く開け呟いた。


「少々思っていたより早い気もしますが……成程そういう手段になりましたか。

 ……と言うことは馴染むまでもう少し様子を見る必要が有りそうですね」


 そう言うと女性は再び目を閉じ眠りについた

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 とある部屋に一組の親子がいた。

 子供の方は目を輝かせ目の前にあるディスプレイと母親であろう女性を交互に見ている。

 それを見た女性はくすくすと笑いながら膝の上に載せた子供が指さすものを一つ一つ説明している。

 そんな中、子供がマウスを動かしとあるボタンを押してしまった。大慌てで母親は止めようとしたがもう時は遅く、仕様がないという顔をしながらディスプレイに向かって話し出した。

 それに倣って子供も画面に向かって挨拶をすると母親の言うことに従いながらディスプレイに向かって話し出すのだった。


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「スゥ……スゥ……」


 ドンドン!! ガチャ

 パタパタパタ……ドスン!! 


「お兄さん!! 朝ですよ~」

「うぐ!?」


 いきなり訪れた衝撃に僕は目を覚ます。目を開けるとそこには金色の肩程まで伸びた髪を持ちそのてっぺんには狐をほうふつとさせるような耳を生やし白いワンピースを着た少女が僕の上に馬乗りになり笑顔を向けていた。その後ろの方では髪と同じ色のフワッとした


「飛び乗るのはやめてって言ってるよね? 環希たまきちゃん。まあ、おはよう」

「えへへへっ。おはようございます」


 僕の上に乗る少女に注意すると彼女は笑顔を浮かべたまま顔を傾けた。

 彼女を抱き上げて床に降ろすと、複数の部屋に近づいてくる足音が聞こえた。


「たまちゃん早いよ~ 一緒にお兄ちゃんを起ごすって言っでたのに……」

「……魔力を纏うのはズル」

「そうでしたわ。ごめんなさいですわ、さやちゃん、ほのちゃん」

紗花さやかちゃんに焔火ほのかちゃんおはよう」


 そこに現れたのは植物のような緑色の肌を持ちそれより深い緑のストレートの少女と赤い髪を黒いリボンでツーテールに結って猫の様な耳と尻尾を持った少女。

 二人とも肩で息をしていて環希を追ってきたということが分かる。


「すぐに着替えるから待っててね」

「「「はーい」」」


 僕は三人の姿に微笑ましく思いながらそういうと、皆いい返事をして廊下に仲良く出ていった。


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 ──―柊院。

 それは僕の両親が建てた孤児院でダンジョンが現れた後の世界で様々な理由で身寄りを亡くした子供を引き取っている。

 例えばダンジョン探索時の不慮の事故によって孤立無援になったり、三人の様に人とは違う容姿を持ってしまったことで捨てられた子もいる。

 近年ではVtuberが話題に上がってきていたおかげそう言う子はで受け入れる人も多くなっているが。


「そう言えば今日は三人が朝食の当番だったよね?」

「そうだったんだけど昨日の晩に私たち三人母様に呼ばれたんです……」

「今日の朝食はお母様が作るって……」

「……おにぃの初配信祝いだってママ張り切ってた」

「でもお手伝いしようと思ったがら、みんなでいつもの時間より早く起きたんだ。だけんど、厨房用の魔導人形も駆使したみたいで、行ったときにはもう完成してだんだ」

「それで手持無沙汰になってしまいましたので、各自時間を潰してからみんなでお兄様を起こしに行こうということになりまして」

「……たまが先走った」

「あー……なるほど。それなら仕方ないね」


 三人の言葉を聞いて僕は納得した。

 他の子たちのお祝いといえる時にも起きることだから初期からいるこの子たちにとっても慣れた状況となっている。

 それでもこの状況良しとせず、ちゃんと手伝いに行くように行動しているあたりいい子たちに育ったようだ。


(最初の頃は些細なことでも怯えてた子たちが立派になって……)


 5年前この孤児院が設立された時のことをふと思い出し、つい当時と比較して微笑ましく思う。そんなことを思い出しながら三人の話に相槌を打ちながら食堂にたどり着くと香ばしい揚げ物の匂いが漂ってきた。


「この香りは……唐揚げだ!!」

「……おにぃの好物」

「だから大変だと思って早起きしたんだけど」

「流石はお母様ですわ。私たちでも今は2~3体が限度ですのに」

「母さんの並列思考マルチタスクの数はすごいからね流石元Sランクの魔法使い」


 食堂に入るとそこには大勢の人で賑わっていた。この孤児院には大人子供を含めて総勢100人以上の人員がいる。

 本来の孤児院ならある一定の年齢になると施設を出る必要が出てくるらしいが、両親がその後の対応が問題になっているのを良しとしなかった。

 その対策として、ボクも何枚か噛ませてもらっているいくつかの事業に手を出し受け入れ先となる場所を創設した結果がこの人数だ。

 中にはこの孤児院に感謝して職員として働いている人たちもいるし、この1~2年ここを故郷として帰省してくる人も出てくるようにもなった。

 好条件な条件の孤児院と噂されていて何を勘違いしたのか己の子供を入居させたいという親が出てきてしまい、そう言う人の子を審査するにあたり幾つかの条件を付けている。

 その中でも必ず行うことは、親権者との対談、子供のみとの対談、普段からダンジョンに通っているかという問いと預けることになった際、親権を完全にこちらに譲れるかという問いだ。

 基本的にうちはダンジョンが発生した影響のある子供を引き取っているが、ダンジョンの攻略に集中したいからという理由だけで子供を預けようとするものもいる。

 そう言う親は基本的に最後の問いをすると諦めるのだが、この問いに頷いて対談で問題ありと判断したものはそれ以上子供に係わらないようにするなどの措置も取っている。


「おはよう、母さん」

「“あら飛鳥ちゃん起きて来たのね。おはよう。初配信おめでとう”」


 抑揚のない機械的だが確かに人の声。

 彼女が僕の母でその視た目は20代と見紛うほどの肌のつやを持っており、飛鳥と同じ黒髪の三つ編みのハーフアップロングのヘアスタイルでどことなく飛鳥の顔立ちと似ている。

 ──―柊 陽菜あきな

 彼女の声の発生源は彼女の胸元にある音響石を含んだ魔道具ネックレスでこれはイヤリングに付いている感応石が発言したい内容を感知して動く二対一体の魔道具である。

 五年前この孤児院を作るきっかけの事件で母さんは声とを失った。


 “僕がVtuberになったら一緒に大きな舞台でコラボしよう”


 幼い時に母さんと交わしたを果たせなくなりその原因の一部に自分が係わっていることに僕は絶望しかけた。

 そんな僕に「こんな不思議な世界になったんだもの。きっと取り戻せるわ」と筆談で母さんが言ってくれたおかげで「僕が取り戻して見せる」と奮起できたがその絶望感は今でも思い出すことが出来る。

 母が持っている魔道具は奮起した結果なのだが、それは一時凌ぎに過ぎない。

 目標は完璧に声を取り戻すことだ。

 この開発のおかげでいまピヨッターのトレンドに上がっている(来る最中に確認した)仮面の着想も得られたので悪いことばかりではない。

 まだ足取りもないけれど。最終目標は母さんの声を完璧に取り戻すことだ。

 約束は大きな舞台でコラボすることなので、もう一つの方は最悪最初から取り戻せばいいと相互の認識の元なのでそれに向かって突き進むだけだ。

 なので僕から母さんに言うことはこれだけだ。


「ありがとう。約束の第一歩だよ。母さん」

「“ええ、私の夢だもの必ず叶えるわよ”」



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