【第4話】虎吉、分別できない男


 


「……おい。これ、誰だ」


 


月詠荘の玄関先。


神河クロの低音が響いたとき…

全ては始まった。


 


足元に転がるのは、分別されてないゴミ袋。


プラ、燃えるごみ、電池、CD

タピオカカップ、あとは…

多分、気のせいじゃなければ納豆…

――混沌の極み。


 


静寂の中、ゆっくりと挙手する男がいた。


 


「……俺だな」


 


名乗りを上げたのは、便利屋・神宮寺虎吉。

金黒ツートンにジャラピアス、

180cmの怪力元・虎神。



だが、ゴミの前ではただの凡人である。


 


「反省はしてる。してるけどな。

クロ…最近のゴミ、難しすぎんだよ!」


 


クロがゴミ袋を一瞥。目が言ってる。

“問答無用で収集拒否”と。


 


「自治体のガイドライン、読んだか?」


 


「読んだ!でもあれ、もはや暗号文!」


 


「…例えば?」


 


「“汚れたプラ容器は燃えるごみ!

きれいなら資源”……って、

汚れるに決まってんだろ!

お湯かけてツルンって落ちるとでも

思ってんのか!?」


 


その場にいた全員が、ため息をついた。



しばらくしてから、ハルが口を開く。


 


「……これは教育の時間ですね」


 


そのまま、月詠荘・住人会議が開かれた。


 


◆ ◆ ◆


 


「題して!」


 


ジナンが派手に両手を広げる。


 


「“虎吉、分別マスターへの道!

〜できなきゃ女装で町内パレード〜”!」


 


「待て待て待て、なにそれ拷問!?

神を試すのやめろ!?」


 


「それ、私が提案した罰ゲームだけど…

パレードってどこから追加したのよ」


 


優が紅茶をくるりと回しながら、微笑む。


 


「ふふ、面白いからいいじゃない?」


茶蘭が肩を震わせながら言う。

 


「俺の尊厳が面白さで決まるの!?

おかしくない!?」


 


 かくして始まった…

虎吉・ゴミ分別修行、一週間コースである。


 


◆ ◆ ◆


 


【DAY1】


ハルによる実践型「分別判断クイズ」開講。


 


「これは?」


 


「……カップ麺のフタ。プラ!」


 


「じゃあ容器は?」


 


「プラ?」


 


「正解。ただし汚れてたら燃えるごみです」


 


「清潔まで求めてくるの!? もう嫁にいけるレベルの気遣いじゃん!」


 


【DAY2】


クロによる“無言指差しチェック”


 


「これは?」


(クロがじっと見つめる)


 


「……え、これはプラ……

じゃなくて資源?……え?」


(クロ、無言で手をクロス)


 


「おおぉぉい!? 無言怖すぎる!

なんで教育者がラスボスの

貫禄出してんの!?」


 


【DAY3】


ジナン&茶蘭による

「間違えたら即ツッコミ分別タイムアタック」


 


「30秒で10品目!間違えたら…

変顔ショット1枚。

あっ!TikTokに載せるもアリ!」


 


「それ社会的に燃えるごみ!!」


 


◆ ◆ ◆


 


 そんな、バカ騒ぎの日々が過ぎ

ついに迎えた最終日……


 


 虎吉が3つの袋を黙って差し出した。


 


「燃えるごみ…プラごみ…資源ごみ!完璧だ」


 


 クロが頷く。


 ハルが拍手する。


 優が「やるじゃない」と笑う。


 


 茶蘭がボソッと呟く。


「罰ゲームの女装衣装、返品するの

忘れたんだけど…」


 


「使う気満々だったろ、お前ェ!!」


 


 その夜。


月詠荘のキッチンに、1枚の貼り紙が

追加された。


 


【虎吉式・分別心得】

・迷ったらネットで聞け。

・納豆容器は“洗ってから”プラ。

・CDは思い出、でも市では燃えない。


 


 「……漢も、ゴミも、ちゃんと

分けられるもんなんだな」


 


 そう呟いた虎吉の背中は

 少しだけ、以前より堂々としていた。


 


《To be continued…》

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