【第5話】神田ジナンの苦悩
午前3時。
月詠荘のリビングに、ひとつだけ灯る明かり。
そこにいたのは、神田ジナン。
見た目、15歳。
星型の泣きぼくろ。元・神様。
ポテチを片手に、天井を見つめていた。
「……夜って“自分のこと”考えすぎるよな……」
カップ麺の湯気が立ちのぼる。
誰もいないはずの空間に、独り言が
ぽつぽつこぼれる。
「元・神様って、便利っちゃ便利だけど……」
ふざけていれば、誰かが笑う。
泣けば、誰かが構ってくれる。
でも、胸の奥ではずっと…
自分の価値が分からないままだ。
「俺、もう誰の“お願い”も
聞いてないんだよな……」
昔は、空の上で祈りを受け取ってた。
“あなたに見ていてほしい”という声に
応えることが、自分の存在理由だった。
今は……?
ただの厄介者じゃないか?
うるさくて、泣いて、甘えて。
「……俺、いらなくね?」
◆ ◆ ◆
「ジナンくん、夜中に考え事?」
その声にびくっとして振り返ると、
パジャマ姿の野崎ハルが立っていた。
髪が寝癖でふわっと浮いてる、目元は眠たげ…
でも、心配そうに見詰めていた。
「いやぁ~、ちょっと神的センチメンタルに
浸ってただけっすわ」
「カップ麺の匂いで目が覚めました。
胃、荒らしちゃいます」
「神様だったんで大丈夫……とか言いたい。
けど、そろそろ限界かもぉ…」
「そういう時こそ、ちゃんと寝ましょう」
ジナンは少し目を伏せて、ぽつりと呟いた。
「……俺さ、“ここにいていい”って
思える瞬間がある反面、
本当は誰にも…
必要とされてないんじゃないかって
思っちゃう時もあるんだ」
「願いが来ないなら…
自分の存在って、意味あるのかなって」
ハルはしばらく黙ってジナンを見つめた。
静かに、でもしっかりした声で言った。
「意味…ありますよ」
「え?」
「ジナンくんが笑ってくれてると、
空気が明るくなる。
僕も、正直…それで助かってるとき
ありますから」
ジナンが目を見開いた。
「お、お前……あ、いや、ハル……!
そういうの、もっと早く言ってよ…!」
「ふふ、照れてるんですか?」
「泣きそう……っていうか、
なんか胸いっぱいになってきた……」
「泣かないでくださいよ〜」
「泣いてないし…ぐずっ。
これは…酒のせいだし……」
「……え?酒?」
よく見ると、ジナンの手元には
ちっちゃい缶チューハイ。
“夜のセンチメンタルには炭酸が効く”と
ラベルに書かれている。
「それ……勝手に僕の冷蔵庫から
持ってきましたね?」
「しょーがねぇだろぉ~……
人間になってから色々あるんだよぉ~…」
「酔ってるじゃないですか…まったく……」
ジナンはフラフラと立ち上がると
そのまま、ハルの肩にもたれて
「俺さぁ…ここにいていいのかなぁって…
思うけどぉ…ハルがそばにいてくれる。
…俺、生きてていいって思えるんだよぉ…」
「……近いです、ジナンくん。
もう、酒くさいです」
──そのまま、ジナンはすーっと
眠ってしまった。
酔って、泣いて、語って、寝落ち。
とても神様だったとは思えない、ぐだぐださ。
「……困った人だな、全く」
でもハルは、そっとジナンの頭をなでながら
ふふっと小さく笑った。
「そういう、ジナンくんがいてくれるから。
僕も…少し気を抜けるんですよ」
静かなリビングには、ジナンの寝息と共に
あたたかい空気が残っていた。
《To be continued…》
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