第6話 神地行人と言う。不思議な人

 5時間目の休み時間。

 トイレに行こうと思ったけれど。

 教室の扉の前で、あまり目立つことのなかった男の子が、ターンをしていた???


 くるっと回って、左腕を下から背中側に伸ばし、右手は人さし指を眉間に当てる。


 何かはやりなのかしら? やがて、自分の机にもどり、ごそごそと探し物をしているふり? をしている。


 トイレに行きたいのに、気になってしまった。


 隣にいる友達に、あの人って名前誰だっけと聞いても。誰も知らなかった。


 そのうちに、また入り口にダッシュをしてターン??? 何かの練習かしら?

 

 見ていると、なぜかドアを開け閉めして。廊下に出て行った。


 でもすぐにチャイムが鳴って、戻って来た?


 何がしたいの? 何が起こっているの?


 あっ、トイレ……。


 授業が終わって、慌ててトイレに行こうとしたけれど。友達から少し頼まれて、話を聞いていた。

 思ったよりも長く。やっと終わったけど、ちょっとまずいわ。


 この年で、学校でおもらしなんて、考えたくもない状況が起こりそう。

 慌ててドアへ向かう。


 ちょうどくるくる回っていた彼が、ドアを開けた。

 ごめんなさい。そう思いながら、少し強引に通ろうとした。


 その時、ちょうど彼も、ドアを通ろうとして。 ……ドンとぶつかり。一緒に廊下へ。


 一緒にこけて。……廊下? いや何処よ。ここ? なんて考える間もなく、我慢の限界が来て、出ちゃった……。

 必死で止めようと思ったけれど。止まらない。どうしてよ~。


 目の前が、真っ暗になった……。

 目の前に浮かぶ、明日からの光景。


 この年で、学校でおもらしなんて、きっといじめられることになる……。


 閉じていた目を開く。

 やっぱりさっきと同じ、森の中。ここはどこ?


 漏らしちゃったことで、いっぱいいっぱいだったけれど?

 漏らした私を見ると思っていた、軽蔑の視線も一切なかった。


 森? 目の前で、後ろを向いていたのは。踊っていた男の子。

 つい。

「ごめんなさい」

 と、突き飛ばしたお詫びを言ったのだけど。

 私の足元には、水たまりが広がって行く……。


 状況がよくわからなかったけれど。

 その男の子は、手を差し伸べてくれて。川まで案内してくれた。

 おまけに、バスタオルまで、借りてしまった。

 なんでこんなものを、持っているのだろう?


 そして、自分の力に。巻き込んだって、何だろう?


 言われた通り、川で濡れたものを洗濯。

 ふと気が付く。

 あっ。干すところが無い。


 とりあえず。めいっぱい絞ったけれど。びしょ濡れだ。

 バスタオルを巻いて、ダメもとで彼に頼む。何でもない事のように、準備をしてくれた。


 それどころか、私の体を心配してくれて、さらにコーヒーと食べ物をくれた。


 私がトイレを我慢した原因の、半分はあなただけどね。

 同じクラスだけど、話したこともなかった。けれど、彼は普通だった。


 ただ特別な力を持っていて、それに私は巻き込まれたようだ。

 でも結果的に、廊下で漏らさなくて良かった。


 少し時間が経ち。確認すると下着だけは乾いていて、履こうとした。

 けれど、足場が悪く。ごろごろした石だったので、片足を上げた瞬間。

 思いっきり、転んでしまった。

 物音のせいで、向こうを向いていてくれた彼だが。

 こっちを、向いたようだ……。


 ……確認したが。しっかり見たようだ。

 恥ずかしい。


 フォローなのか、普通だから大丈夫と言われた。

 ちょっと待って、同じ年なのに……。

 なぜか、ちょっと心の奥がちくっとした。

 今まで話したことも、なかったのに。


 いろいろ話を聞くと、同じ年とは思えないくらい。

 いろんな経験をしているようだ。


 誰からも信じてもらえないって。

 どんなにつらかったのだろう。


 踊っていたときに、小耳にはさんだ名前。神地くん? 頑張って、彼女はいないのか聞いてみた。そうよ、私の大事なところを見たのよ。

 責任取ってよ。


 行人でいいよって。神地で正解だった。

 神地行人君だったのね。

 彼もクラスメートの名前は憶えていないのに、私の名前は知っていた。


 それを聞いた瞬間に、舞い上がっちゃった。


 今日初めて、ちゃんと話をしたくらいなのに。

 ……でっでも見られた。

 ダメ押しのように指摘された……。

 でも、おなかが鳴ったのに。気が付いてフォローしてくれるし……。


 あ~何だろう。この気持ち。

 つい、背もたれがあるような気がして、後ろに体重をかけてしまった。

 またこけると思ったら、素早く。

 彼がかばってくれた。


 彼の頭。すごい音がしたけれど、大丈夫かしら?

 目の前に、彼の顔がある。

 間近で見る男の子。


 少し見つめ合い。自然にキスされた。

 驚いたけれど、いやじゃなかった。

 それも。大人のキス……。やっぱり慣れているのね。


「けがはないか?」

 先に心配されてしまった。

 すごい音がしたのは、彼の方なのに……。


 なぜか、彼が凄く気になる。

 会ったばかり…… じゃないわね。クラスメートだった。


 んっ? 何か当たっている。

 それが何か、気が付いちゃった。

 男の人の……。


 私に興味があるんだ。

 嬉しくなって、こっちからキスをした。

 彼も受け入れてくれた……。ふふっ。



 時間が経ち、確認するとスカートも乾いていた。

 帰ることになって、帰りに連絡先を交換する。

 すごく喜んでくれた。

 ふふっ。


「また冒険に連れて行って」

 そうお願いする。誘ってくれることも、了承してくれた。


 今日はなんだか、とんでもない日だったけれど。

 すごくいい日だった。


 たぶん? まる。

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