第5話 存在証明の崩壊

「ねえ、神地くんて。ほんとに付き合っている人いないの?」

 なぜか彼女は、そんなことを聞いてきた。


「行人でいいよ。質問の回答はYesだ。さっきも言った通り、この力のせいで子供のころから、嘘つき野郎で…… 小3くらいから、友人さえいなかった」

「そうなんだ」


 そこまで言うと、黙り込んでしまった。

「親すら、嘘つき野郎って思っていると思うよ」

「さすがに、それはないんじゃない?」


 ちょっと考え、言葉を紡ぐ。

「実際一緒に異世界に来たから、そう思えるだけじゃないか? 実際さっきまで、来ても信じられないって。言っていたのに。来ていなくて信じられるか?」

「う~。そぉ~れは。そうだけど…… 」

「そんなもんだよ」

 あっさり俺がそう返す。

 彼女は何か言いたそうだが、紡がれた言葉は。

「そうかなぁ? 」

 だった。


「飛田さんは人気者だから、ひょっとして信じてくれる人がいるかもしれない。心ではどう思っているか、分からないけどね」

 

 ちょっと首をかしげながら。

「行人くんて、ちょっとひねくれている? 」

 と聞いてきた。


「ああ。そりゃそうだろう、途中でこの旅の面白さに気が付かなければ、もっとひねくれていたかもしれない」

「自分が特別って。何時、気が付いたの?」

「中一の時。入学して、他の小学区から来た奴に、指摘されて気が付いた」


 また、首がかしいでいる。

「ふーん、友達になれなかったの?」

「名前も覚えていない」


 驚く彼女。

「ひど。さすがに、今のクラスは覚えているよね」

「いや、知っているのは。飛田水希さんのみ」

「へっ、なんで私だけ」


 そう言いながら、赤くなる。

「そんなもの。気に入ったからに決まっている。他の奴らは知らん」

「か…… 行人くん……。 ありがとう」


「……」

 あれ? いまおれ告白した?

「まあ、なんだ。 ……と言うことで、今。実はすごいドキドキしている」

「えっ……。ありがとう」

 真っ赤になってうつむく彼女。


「良いもの見せてもらったし、満足だよ」

 そう言ったら、彼女は。

「なっ……最低」

 と言って、思いっきり膨れた。


「せっかく、良い雰囲気だったのに、台無しよ」

 フンという感じで、横を向いてしまった。


 再び黙り込む……。

「うん、まあ。ボッチが長くてね。あまり人と話す機会が無くて、申し訳ない」

 そう言って頭を下げる。


「そっ。そうだったわね」

 そう言った瞬間。彼女のおなかがクウと鳴る。


「そう言えば、少し小腹が空いたな」

 カバンの中を見る。


「えーと、インスタントで良ければ。雑炊とかもあるよ」

「何でも持っているのね。あっそれじゃあ。いただこうかな」



 再び湯を沸かして、インスタントの雑炊を取り出す。

 昔。3日ほどこちらをさまよった時に、米が恋しくなって。その時から常備している。


 湯が沸くのをぼーっと見ていると、なぜか彼女がこけそうになった。


 思わず、手を差し出したが、彼女が頭から行きそうだったので、強引に肩をつかみこちらに引き寄せる。

 彼女は大丈夫なようだ。だがこっちは、思いっきり頭をぶつけた。

 目を開けると、すぐ目の前に彼女の顔があったので、そっとキスをした。

 

 彼女は、ちょっと驚いたようだが、受け入れてくれた。


 彼女の上体を起こす。

「けがはないか?」

 と聞くと。

「そっちこそ。すごい感じで、頭をぶつけたみたいだけど。大丈夫なの?」

 と聞いてきた。さすが保健委員。


「ああ。まあ大丈夫だろ」


 彼女が俺の上に跨った格好なので、一部が反応している。

 健康な高校生。仕方ないじゃないか。


 彼女が、びくっとした。

 あっやべ。気が付いたな。

 彼女は少し思案したようだが、なぜだか。キスをしてきた。


 小一時間して、スカートを見ると、すっかり乾いたようだ。

 名残は惜しいが、彼女を立ち上がらせる。


 着替えを待って、ドアの場所に戻る。

「ほんとに。どこで○ドアみたい」

「ああ。でも現地の人には、見えないようだ」

 ちょっと気になり、つないでいた手を離す。


「あっ見えなくなっちゃった」

「やっぱりそうなのか」

 体が触れていると、一緒の物として、能力が有効になると言うことで、間違いないだろう。


「じゃあ。手を繋いで帰ろう」

 ドアの引手に手をかけると、ドアが開かない……。

「ああそういえば。夜は施錠するのだったか」

「どうしよう?」

 彼女はあせって、そう言って来る。

 クリップと、マルチツールのマイナスドライバーで、すぐに鍵を開ける。

 そして、ドアを開ける。


 中に入ると、当然誰もいない教室。

 振り返り。俺の後ろ側にいた彼女に頼んで、ドアを開けてもらう。


 彼女にドアを開けてもらう事を繰り返して、学校から無事出られたが。鍵は全部開きっぱなしだ。

 当直の先生ごめんなさい。


 彼女を家まで送り、連絡先を交換して。家に帰った。

 家族以外の人間が。初めて住所録と連絡ツールに登録された。


 これは小さな一歩だが、俺の人生において大きな一歩である。

 彼女はさらに。また、冒険に連れて行ってねとも言ってくれた。


 一人になっての帰り道。思わず「ひゃほー」と叫んでしまった。

 あっ。手放しで喜んでいたが。

 ひょっとすると、異世界での。行きずりエッチが、閉ざされたと言うことだ。


 だが、それと同時に。長年続いたボッチという、俺のアイデンティティが終わったと言うことでもある。

 まあいいか……。


 明日からは、10年ぶりくらいに。朝つながった場所の、報告ができる相手ができた。

 それは、たぶん良いことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る