第4話 ちょっとした、幸せ

 記憶に従い。歩き始める。

 

 しばらく歩くと、やはり川に出た。


 手を放して、説明する。

「あそこで洗濯すればいい」

 説明後、ザックからバスタオルを渡す。


「ありがとう。……でも、見ないでね」

 彼女は少し赤い顔で、そう言い残し川へ向かう。


 適当な岩の上にあおむけになる。

 どうしてこうなったかを。自分なりに思案する。


 あの時。教室から出ようと思ったが、森だった。

 そこで。ドアを開き直そうと思った。そこまでは記憶の通り。


 そこで。予測だが。……たぶん。トイレへと急いでいた、彼女にぶつかられた。

 そして、絡んだまま、同時に押し込まれた。


 その結果。一緒にこちらへ来た。


 やはり。体が触れていると、一緒に来れる。

 その仮説が、一番すんなり納得ができる。


 そんなことを考えていると、彼女が戻って来た。


「ごめんなさい。洗ったのだけど、干せないと乾かない」

 洗った下着と、スカートを持っている。


 ちょっと待ってね。

 火をおこし。すぐ横に、ロープを張る。

「ちょっと、時間はかかるけど、ここに吊るせば乾くよ」


 折りたたみ式、ハンギングラックの準備をする。


「うん」

 返事はしたけど、恥ずかしそうだ。

「そうだな。洗濯物が、俺の背中側になるように移動するよ」

 そう言って、反対側へ移動する。


 少しして、彼女は、火を挟んで、向かい側に座る。

「ちょっと待ってね。コーヒーで大丈夫?」

 彼女に聞く。


「えっ。そんなもの、持っているの?」

 質問を無視して、再度質問。

「コーヒー飲める?」

 と、聞きなおす。


「うん」


 そそくさと、準備をはじめる。

 ついでに、バッグの中から、カステラ系のお菓子を彼女に渡す。

「ちょっと、それでも食べていてくれるかな?」


 少し驚いたようだが。

「ありがとう」と、素直に返事が来た。


「あんまり話したことが無いけれど。さっきから、ありがとう。ばっかりだな?」

 多少、意地悪な質問する。

「えーあっ。ごめんなさい」


「謝ることはないさ。たぶん急いでいた所を、俺が邪魔をしたんだろう?」

「邪魔というわけじゃないけど。急いでいたのは確かで……。 理由は、分かると思うけど……」

「トイレね。ごめんな、邪魔しちゃって」

「いいの。でも、ほんとうに、内緒にしてね」

「ああ。巻き込んでなかったら。学校の廊下で、盛大にするところだったね」

 俺が言った瞬間。彼女は青くなった。


「それを考えると……。 ありがとう」

「ちょっと、色々。優先させないといけない事があって。つい我慢しちゃったの」

 

 その答えに、つい意地悪を言ってしまう。

「膀胱炎になるよ。気を付けないと」

「そうね。ありがとう」

 

 俺はそれを聞いて、おかしくなり、少し笑いながら答えた。

「ごめんの連続の後は、ありがとうの連続だね」


 彼女は、ほほを膨らませながら、「いじわる」とだけ答えた。


 それから。コッフェルを取り出して、フィルター付きボトルに、川で水を汲む。

 ろ過した水で、湯を沸かす。

 その後。キャンプ用。コーヒードリッパーを使って、コーヒーを入れる。

 淡々と作業をする俺を、彼女は目で追っているようだが、俺にはしゃれた会話もできない。とりあえず無視をして、時間だけが過ぎる。


 コーヒーを、マグカップに入れて。彼女に渡す。

 受け取った彼女に、「ミルクと砂糖はいる?」と聞く。

 すると、かわいく。

「うん」

 と返ってきた。


 じゃあこれ、ノンカロリーのガムシロップと、ミルクのパック。

 2~3個を握って渡す。

 それを見た彼女は、驚く。

「すごいね、普段からキャンプとかしているの?」

 と聞いて来る。


「うん、と言いたいところだけど、さっき言った通り。俺の力? 能力で、ドアを開けると、いろんな所につながるんだ。そのため、一通りは持っている」


「そうなの? さっきから言っていたけど、信じられなくって」

 と、とぼけたことを言う彼女。

「実際。来ているじゃない。さっきは教室だっただろう?」

「そうなんだけど…… 」


「まあいいさ、これのおかげで、誰も信じてくれなくって。小学生の頃から、ずっとボッチだけど。まあ。結構楽しんでいるしな」

「そうなんだ。でも、実際来ていても、まだ信じられない」


 ニヤッと笑い、からかってみる。

「なんだ。薬でも使って、さらって来たって思っているの? 携帯もつながらないはずだよ」

 その答えを聞いて、彼女は慌てて携帯を取り出す。そして、ポチポチしているが。

「ほんとだ」

「時間を確認してみて。そんなに、経っていないよ」

「ほんとだ」

 そう言って、呆然としている。


「さらって、移動には。無理があるだろう?」

「さらうって、そんな」

 

「実際。話したことも無いしね」

「それは、そうだけど」


 ちょっと、落ち込んだようなので、機嫌を取る。

「そう言えば、こんなものもある」

 パンを出して、手渡す。


「ほんとに準備万端だね」

「こんなことが、俺の日常なんだ」

 大げさに、手を肩まで上げて、参ったとポーズをとる。


「すごいね」

 喋っていると、一時間ほどが経過した。


「まだ。乾かないかな? ちょっと、確認してみて」


「あっ。そうねありがとう」

 彼女は立ち上がり。俺の後ろに回る。見るわけには行けないが、俺の後ろで、乾き具合を確認しているのだろう。

「スカートは、もう少しかな?」

 彼女が言った瞬間。どしゃっと音がした。


「どうした?」

 つい振り返る。


 パンツを履こうとして、こけたのだろう。


 彼女が、こちらに向けて、盛大にM字開脚ををしていた。

 その右足首には。静かに、パンツが揺れていた。


 男だもん。本能的にしようがないよね。


 ゆっくりと、堪能する。

 焚火はこちら側だ。うん。しようがない。


 ゆっくりと。起き上がった彼女。


「みた?」

 確信があるのだろう。涙目で聞いてくる。


 素直な俺。

「ありがとう。ございます」

 素直に礼を言って、手を合わせながら、頭を下げる。


 ぼっというくらい。顔が真っ赤になった彼女。

 すくっと起き上がり、そそくさとパンツを履く。

「忘れて」

 そう言いながら、近寄ってきて。俺の首を絞めながら。頭をゆすられた。


 呻きながら、俺は質問をする。

「なんで?」


 一瞬。彼女の動きが、止まる。

「なんでって、それは。恥ずかしいから?」


 なんで疑問形?

「なら、こっちも見せようか?」

 言ってみる。


 彼女は、また赤くなり。

「なっなんで。どうして、そんなことになるのよ」

 一瞬。間があったな?


「いや。見たお詫びに」

「そんなに、はっきり見たの?」

 俺は、親指を立てながら。答える。

「うん。バッチリ」

 完全。どや顔である。


「うー」

 すぐ横で、しゃがんで呻いている。

 バスタオルでしゃがむと。見えるよ。

 まあパンツは、はいているけど。


 とりあえず、フォローしてみる。

「まあ大丈夫だよ。変わった形。しているわけじゃないし、普通だから」


 彼女は、ふと顔を上げ。なぜか聞いてくる。

「えっと、ありがとう。他の人のも、見たことがあるの?」

 と、聞いてきた。


「うん」

 素直に答える。なんで残念そうな顔?


「そうなんだ。彼女とかいるの?」

「いや違う。さっきも言ったけど、いろんな世界へ、しょっちゅう行っているとね。裸族の集落とかに、行くこともあるんだよ。そういう所って、本能的に近親姦はよくないって、わかっているみたいで。もてなしとして、年頃の女の子を、あてがわれるんだよ」

「じゃあ。そういう時に、頂いちゃうんだ」

「逆に。断る方が悪い。下手すれば、殺される」


 その答えに、ひどく驚いたようだ。

「えっ。そうなの、ごめんなさい」

「いろんな世界があるのね。じゃあ。経験豊富なんだ」

「そんなこともないな。なかなか、同じところにつながらないし…… 」


「そうなの?」

「ああ」


 なぜか彼女は。

「それはそれで、ちょっと寂しいね」

 と、答えてきた。


「まあ。その辺は、割り切るしか仕方がない。いい思い出だよ」

「ふ~ん」


 彼女は、なにか考えていると思ったら。

「ねえ。ほんとに、おかしくなかった?」

 と聞いてきた。


「うん? なにが?」

「なにがって。…… 私のなにが」

 もう完全に顔が真っ赤だ。

 焚火のせいじゃないな。


「ああ普通だよ。もう一度明るいところで、ゆっくり見せてくれれば、はっきりするけど。まだちょっと、かわいいなという感じ?」

「えっ、明るいところで。……えっかわ? ……そんなの。分かるんだ。ふーん」

 そう言って、黙ってしまった。


 普段。人とあまりしゃべることのない俺にとって。

 この問答は、何なんだろうと、頭をひねる事になった。

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