第3話 謎解き……

 風呂から上がって、考えていた。


 ……あの時。

 俺の足は、まだ向こう側。海に浸かっていた。

 そして、俺の体を伝って、みうは這い上がって来た。

 あの、気持ちよさを覚えている。


 手でも繋いでいればいいのか? 俺の体だけが、空間を跨いでいればいいのか。

 後者なら、実験は簡単だし、手軽に検証できる。

 前者だと、ハードルが高いな。


 具合が悪いことにして、保健委員にでも連れて行ってもらうか? うん? いやだめだ。保健委員は、クラスナンバーワンの飛田水希さんじゃないか。

 そんなの、心臓が持たず本当に倒れてしまう。


 とりあえず。簡単にできそうなものは、自分の空間跨ぎの実験からだな。

 手軽にできるし、名も知らないクラスメートが、少々行方不明になるくらいだ。

 問題はないだろう。


 うん? でも、教室でドアをまたぐ? 

 ドアの脇に俺が立っていると考えれば、隙間は狭い。よな。

 その状態で、待ち構えていると、すごい不自然な気がする。


 落ち着いてよく考えてみよう。

 教室の扉が開いている。

 でも、そこに俺が立っていて、隙間が少ない。

 絶対。俺なら、別のドアに回る。


 結構。難易度が高いな。

 どうしよう。

 自然にさりげなく。……無理。


 その後。いい考えは浮かばず。

 みうを思い出しながら、幸せな眠りについた。


 翌朝。目を開けると、みうの顔が母さんになっていた。

 驚いて飛び起きる。ああ夢だったのか。よかった。




 今朝もいつものように、外れを引くまで、玄関をパタパタしてから、学校に向かう。


 大体、教室のドアまでは、開いているから。問題なく行ける。

 ちっ。教室のドアが閉まってやがる。

 開けとけよ。


 歩行速度を調整して、前のやつが開けてくれるのを期待する。

 前にいる奴にこそこそとついて行く。

 これのおかげで、ストーカーなんて話も出たが、背に腹は代えられない。


 無事に、教室に入り。退屈な授業を受る。


 その間もドアの狭さについて考える。 ……あけておいて、誰かが通りかかったら一緒にドアに入る。

 狭いから、体が触れるよね。


 でも、もし相手が、女子なら事案だ。

 それも周りからは、ドアで体が触れるのを期待して、タイミングをあわせた変な奴に見えてしまう。そこからの対応を、どう考察を進めても、弁解はできない。

 終局だな。


 そんなことを考えていて、ふと神からの啓示のように、案が降って来た。

 跨がなくても。良いんじゃね?

 空間を、体が超えていればいいんだから。指だけでいいじゃん。


 ドアを開けて、自然な感じで、ドアを抑えるだけ。

 それだけで、君の指は世界を超える。ドヤ。

 軽い感じの、神様からの啓示。

 そんなものを受けたので、早速試す。


 ドアを開け。向こうが、また見知らぬ砂漠だが。

 右側のドアを左にスライドさせたので、右手でドア2枚をつかんだ状態。

 体は左回転。ドアを開けて、ふと何かを思い出したかのように。黒板の方へと振り返る。


 完璧だ。…… だが、長くは、この状態ではいられない。


 怪しまれてしまう。


 一度ドアを握っていた、右手を放す。

 その勢いで、くるりと左向けに1回転ターンをする。


 ドアを持とうと、左手を伸ばす。

 ドアを放して。

 行き場のなくなった右手は、悩んでいるふりをするため。人差し指を立て。眉間へ。


 その様子を見ていた、クラス内の幾人か。

 自分の口元を隠し。友人同士だろう。何かをささやいている。


 途中で、厨二という単語が聞こえてきた。

 有名になった小説で、主人公ではないが。

 登場人物が、暇さえあればターンをする描写があり。

 最近ターンをすれば、イコール厨二となっている。


 こっ、このままでは、いけない人認定されてしまう。


 とりあえず、机に戻り、何かを探すふりをする。


 その間も、全開で意識は、扉の出入りに注意している。

 チャンスは、教室内から外に出ようとする。名もない奴がいい。

 やはり女子だと、名は知らなくとも、多少寝覚めが悪い。


 何かを見つけたふりをして、走り出す。


 教室から出ようと、ドアに向かっていたやつを抜き去り、そこでまた減速して。

 ドアを2枚をつかむ。

 さあ、来るがいい。

 

 また。悩んだふりをするために、今度は左の人差し指を立て、眉間に当てる。


 完璧だ。さあ来い。

 ドアを通るんだ。


 おいおい。なんで、後ろに向かうんだ。……此処のドアを、通ればいいじゃないかぁぁ。



 結局授業は終わり、下校の時間になる。

 なんということだ。


 結局思いの通りに、誰も抜けてはくれなかった。


 俺はあきらめ。

 ため息をつきながら、荷物をまとめて、帰宅の準備をする。

 

 とぼとぼと教室のドアを開けると、なんだ森か? 

 また、どこかにつながったようだ。


 ため息をつきながら、ドアの開閉をやり直そうと思ったとき。後ろから、思い切り押された。


 もんどり打って、こけた。


 現状を確認するために、周りを見回す。


 うん? なんでこっち側に。あこがれの保健委員。飛田水希さんがいるんだ?

 そう。なぜか彼女は、こちら側。

 異世界の森の中。そこに、美しく座り込んでいる……。

 絵になるな。


「ごめんなさい、ああっ……」

 そう謝り。焦る彼女のお尻の下。……静かに液体が、彼女を中心に広がって行く。


 これはきっと。見てはだめだと、目をそらす……。


 背中側で、「どうして止まらないの?」という声が聞こえる。


 ちょっと時間を置き、放心状態の彼女に手を伸ばす。


「大丈夫? 立てるかな?」

「ううっ。ごめんなさい。此処はどこなの?」

「う~ん。森の中?」

 とだけ、答える。


「でもさっき。教室から出て……」

「うん。そうだね」

 とりあえず。それだけ、答えを返す。


「どうしてなの?」

「ごめん。俺の力に巻きこんだようだ。此処は異世界だ」

 ババーンと、効果音が聞こえる。


 少し悩んだ様子で、彼女は答える。

「えっ、異世界? 帰れないの?」

「いや帰れるけど。いいの? そのままで……」

 少し、意地悪を言ってみた。


 そう。彼女はなぜかお漏らしをした。 ……結構盛大に。


「あっ。そうだあ。みないで……。くれると……。それに、黙っていて。くれると嬉しいな」

「ああ。それは大丈夫」

「本当に? ありがとう」

 真っ赤になってうつむく。


「それでここは?」と、再度聞いてきた。


「さっき言った通り。異世界の森の中」

「なんで、こんなところに」

「さっきも言ったけど、俺の力に巻き込んだ」

 再び。同じ答えを返す。

 さすがに黙り込んでしまった。彼女。


 ここは、幾度か来たことがある森だ。

 確かこっちへ行けば、川があったはず。


 彼女の手を取り、連れていく。

 手を取っているのは、彼女が望んだからで、俺が強引につないだわけではない。

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