第19話 帰路にて……飛田家の追想

 先週の訪問から、期間を置かず。

 再び週末に、ご実家へ招待したいと。水希を通じて連絡が来た。


「ご実家って、神社だって言っていたわよね?なんか、勧誘とかって、あるのかしら?」

「神社って、その土地の方が。氏子となって、世話をするものだから。勧誘とかは、無いと思うよ」


 などという話を、夫婦でしていたが。実際に訪れると。

 言っては悪いが、遠かった。

 ちょっとした小旅行だ。


 おじいさんとご挨拶をして。

 案内されるままついて行く。よく見る厄除けの輪っかが建っていた。

 へえ、茅の輪って言うんだ。


 くぐってみてと言われ。従う。

 そして、くぐった先には、なぜかお屋敷が建っていた。


 振り返ると、先ほどの茅の輪が建っている。

 でも、明らかに。さっきの山の中とは違う。

 頭の中は、完全にパニック。だが、目を進む人たちについて行く。

 そして、立派なお屋敷の門を、くぐる。


 案内の巫女さんが現れ、玄関へと向かう。

 すごく。立派な玄関。


 恐縮しながらついて行く。廊下の脇には、障子がずっと続いている。


 これは大広間ね。

 おじいさんについて、中に入ると。やはり大広間だった。

 けれど、中には人が大量に座っていた。と、言っても50人くらいだけど。

 一斉に、こちらへ視線が向く。怖い。案内されるまま席につく。


 おじいさんが、しゃべり始める。

「今日、集まってもらったのは。行人の元服と、婚約の広めじゃ」

 会場から「おおっ」と声が聞こえた。


「行人は皆。見知っておるじゃろうから良いじゃろう。そちらが、今回、婚約者となった。飛田水希さんと、ご両親じゃ。皆の者。これからよろしく頼む」

「「よろしくお願いいたします」」


 ひえっ、とりあえず頭を下げる。

 気になり聞いてみる。

「すみません。これは一体?」

「ああ、すまんな。たまたま。親族が集まる機会があったので。丁度いいから、皆に紹介をしておこうと思ってな。そんなに硬くならなくてもよい。これからは、親族となるのじゃからな」

 

 そんなことを言われても。緊張するわよ。

「来る前に。一言おっしゃって、くだされば……」

 つい愚痴ってしまった。


 行人君の元服の神事を行うというので、ついて行く。

 こちら側にも、立派な社殿が建っていた。

 本殿にお邪魔をして、神事を拝見する。

 旧家だと、こういう行事もきちっとするのね。

 烏帽子をかぶった姿は、なかなかりりしいわ。


 挨拶も、変に偉ぶらず。好感が持てるものだった。


 先ほどの大広間に戻ると、朱塗りのお膳(朱タタキ)が、すでに並べられていた。

 上座の方には、立派な鯛が腹合わせで、2匹飾られていた。


 最初に、おじいさんが鯛をとりわけ。行人君に渡す。

 すると残りを、巫女さんが全員に取り分けていく。

 そして、朱塗りの器に。お神酒を注ぎ、行人君が飲み干す。


 こういう和風の行事って、なんだか趣があっていいわね。

 結婚式のことを思い出すわ。

 祝詞をきれいに読めなくて、お父さんがおろおろしてたわね。ふふっ。


 少しすると、行人君がお酒を注ぎに来た。

 ぼそっと「うちの人間は、連絡が不足していてすみません」と言われて「いいわよ」と一応返す。

 後ろからおじいさんが「主賓がうろうろするな」と言われて、帰って行った。

 こういう家の子も大変なのね。変なところに、感心してしまった。

 

 注がれたお酒を頂くと、すごくフルーティで飲みやすい。

 話を聞くと、神地家用にこちらで仕込んでいるお酒で、市販はしていないということだった。純米大吟醸と言う製法? 種類? ですって。精米歩合が、60%以上で ……とか教えていただいたが、覚えきれなかった。


 うん? こちらっていうのは? 神地家でって、いう事よね・・・?


 宴会自体は、2時間程度でお開きになったのだけど。

 行人君がお酒を飲んで、寝込んじゃったり。

 それを見つけた、水希が添い寝しようとしたり。

 それをお父さんが、引きはがしに行ったり。


 いろいろがあって。

 今は、ダイニングでお茶を頂いている。

 だけど、さっき気になったこちら側。そのことについて、お話を伺うと。

 本当に、こちら側だった。


 幾度かの話の中で、『力』という言葉が出たけれども。

 神地家の人間は、空間を超える力があり、それを利用して。

 ここ、別の星で、主に生活をしている事。


 この話は、本来するべきではないと。親戚衆からも話があったらしいが。

 今回は、普通の婚約ではなく。

 水希には、水神様が力を与えており。それは、従来神地家が持っていない力で、大事にしたいとの事。

 過去の歴史を紐解いて。

 力があることを知られると、他人が脅威となる事。


 それを、私たちに説明し。こちら側なら、安全であることを告げるため。

 秘密を、すべて伝えることとなったと。教えられた。


 でも、話を聞いても。

 話が大きすぎて、理解ができなかった。

 おじいさんが。

「風呂は、温泉だから。ゆっくりとつかり。月を眺めれば、理解もできよう」

 そんな、謎めいた言葉を、教えてくれた。


 うん?

『月を眺めれば、理解もできよう』

 それって、何だろう?


 水希が酔っ払って寝たため。

 何十年ぶりかで、お父さん(旦那)と温泉に入った。


 言われた通り。月がきれいで、眺めていたのだが。……あれ? 海だったっけ? 黒い部分がちがう。

 兎さんは、どこに行ったの?


「ねえ、お父さん。月の黒い所って、あんな形だった?」

「うん? あんなもんじゃ。……ないな」

「ちょっと、見づらいけれど、微妙に星座もおかしい。さっき言っていた、地球だけど地球じゃない。あの言葉は、本当なのか」


「力を知られると、命の危険がある。ねえ」



 翌朝。

「あれっ。水希が居ない。もう起きたのか?」

 そんな声で、目が覚める。


 ごそごそと、外してあった、腕時計を見る。

「7時か、もう起きないと」


 お父さんが、あたふたしている。

「水希が居ないんだが。いつからだ?」


「さあ。散歩にでも、行ったのかしら?」

「探してくる」

 そう言って、飛び出していくお父さん。

「放っておきなさいよ」


 私がそう言っても、あっという間に、出て行ってしまった。

 まったくもう。


 わたしも、ついでに玄関から出て。お庭をくるっと散策。

 南側は板塀で入れないようだから、反時計回りに見ていく。

 すごい。手入れがされているわね。植物は、なじみがあるものばかり。


 途中。変な音が聞こえていたりしたけど。

 やがて裏側の玄関? にたどり着く。

 勝手口にしては立派ね。そんな事を思っていると、外側から、おじいさんたちが入って来た。


「おはようございます。お散歩ですか?」

 挨拶をされて、こちらも返す。

「おはようございます。散歩ではなくて、水希が見当たらなくて」

 そう聞くと、行人君がビクッとする。


「あっ。たぶん僕の部屋で寝ています。昨日、酒を飲んで、酔っていたから。部屋を間違えたのでしょう」

 旦那の目が。……水希やるわね。


 朝食に誘われ、ダイニング横の和室へと、通された。

 お膳での食事を頂いていると、行人君のおじさんだったかしら? 入って来た。

 旦那は、おいしかったのか。お代わりをしている。


 普段は、食欲がないとか言って。あまり食べないくせに。


 水希が入ってきたが、風呂上がりの様子? 

 それだけではなく、なんだか雰囲気が違う? 

 そういえば、行人君も。昨日と雰囲気が変わっている。

 なんだか、おじいさんがあたふたしているし。

 昨夜のうちに、何かあったのかしら?


「彼女もそうなのか。……信じられん」

 おじいさんがぼそっと言い。周りが、少し騒然とする。


「実は。お宅の娘さんは、水神様の力を、その身に宿していたのだが。昨夜。行人と共に、ほかの神様の力を。受けたようだ」


 旦那が焦りながら言い訳をする。

「いや。娘は普通の子で。そんな、力など持っていません」

 まあ。そう言い張ったが。

「後で力を、見せてもらおう」

 おじいさんが言い。食後になって、皆と一緒に、家の裏へ出た。


 なにか、向こうに焼けたわらの山があったり。

 変な壁があったり。

 なんだか、違和感のある景色。


 そんな事を、思っていると。

 水希が、水の塊とか。火の玉とか、撃ちだしている。


 少し。何かしゃべっていると思うと、さっき見た壁のわきに。

 2mくらいの壁が、20m位。いきなり出来上がった。


 おじいさんが、それを見て。嬉しそうに水希に言う。

「おお。これは良い。行人より、使いが易そうだ」

 そう言って、笑っていた。


 旦那は横で、完全に放心状態。

 確かに、普通の人がこんなの見ると。……迫害につながると言うのは、理解できるわ。


 それから、温泉をもう一度頂いて。帰ることとなった。

 けれど、車の中で思い返す。家はもう。一般家庭ではなくなってしまった。その実感と、神地家の庇護に入ったこと。その安心感が、私の心の中に広がる。


 ただ。旦那はもう一度。

 しっかり話をして、口止めをしておかないと、いけないかもしれない。

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