第17話 本当の力

 のどが渇いて、目が覚めた。

 

 起き上がって、周りを見ると。見知った部屋。

 起き上がり、羽織を羽織って、部屋を出る。


 えーと台所は、こっちだったよな。

 ぽてぽてと歩き。

 記憶違いではなかったようで、台所に到着する。


 グラスを見つけ、冷蔵庫のドアを開ける。

 麦茶かな? それぽっい液体を、グラスに少し入れ。

 一口含むと、やっぱりめんつゆだ……。


 こっちか? 少しグラスに入れ。一口飲んでみる。

 うん。こっちが麦茶だった。


 水差しに少し移し、お盆に乗せて。部屋に戻る。


 だが、なんとなく汗が気になり、下着を抱えて風呂場へ行く。


 ここの風呂は、温泉だから。いつでも入れる。

 掃除で、湯が抜けているなんて言う。落ちは無いよな?


 風呂場に明かりをつけて。とっとと浴衣を脱ぐ。

 浴室へと入る。広さが、八畳ほどの露天風呂。

 凜とした、月の光が差し込み、楚々とした雰囲気がある。


 体を洗ってから、風呂につかり。

 窓から見える月を、ぼ~っと眺める。


 よく見ると、いつも見ている月と、海の形が違う。


 今まで気が付かなかったな……。

 子供の時から、何度も来ていたのに。


 ふと、周りが少し。赤く染まった気がした……?


 うん? 体をひねって、背後に向き直る。

 すると、火をまとった。美人さんが立っていた。


 少しの間。目を惹かれて、ぼーっと見ていた。

 一応聞いてみる。

「精霊さんかな?」

 軽く彼女? は頷く。


「そうです。やっと、話ができるようになりました。幾度か、あなたに話しかけようとしたのですが。体に変な結界が施されていて。近づけませんでした。まさか手をこまねいている間に、水に手を出されるとは。思いもしませんでしたが。私を受け入れてくださいますか?」


「ああ。うん。俺の方は、いつでも」

 そう言って、湯船から出る。そして、火の精霊に向かって、向き直る。


 精霊は、静かに近寄ってきて、俺を抱きしめた。

 その瞬間。頭の奥で、何かがはじけた感じがした。

 そして、丹田だろうか? へその下あたり。暖かいものが、全身に行きわたるのが分かった。


 一気に、力が増したのが、分かる。

 きっと今。俺の髪の毛は、逆立ち金色に輝いているだろう。

 何でも、できそうな気分だ。


 ところがだ。頭の中から、言い合いが聞こえる。

 火の言い分としては、この子の家系に、延々と力を貸している。

 封じられ。火が近づけない隙に、勝手に取りついたような、水は出ていけ。

 そんな事を、言っているようだ。


 水の精霊は、いやよ。

 この子と水希は、とても気持ちがいいの。

 だから出て行かないと言っている。

 気持ちがいいって、なんだ?


 そう。俺が思ったように、火の精霊もそこが気になったようだ。

 何それは? と問いかけている。


 水の精霊が水希を呼ぶから、火も力を与えれば、わかると言い出す。

 チョットマテ。……水の精霊が、水希を呼ぶ? おれたちって、精霊に操られているのか?

〈んっ?いや。操るなんて、できないわよ〉

 おうそうか。まさか返事が来るとは。


〈ただ。水希ちゃんの場合。お風呂に行人君がいるよと、囁くだけでいいから。楽よね。うふ〉

 水の精霊から、とんでもない曝露が来た。


 などと言っている間に、水希が入って来た。

「精霊が教えてくれたの。ここにいるって」


 多少は恥ずかしいのか、もじもじしている。

「ああまぁ。せっかくだから、こっちへ来るか?」


 ぱあっと顔が明るくなり。

「ちょっと体を洗ってから」

 そう言って、洗い場に行ってしまった。


〈さっきの小娘が、そうなの?〉

〈そうよ。かわいいでしょ〉

〈かわいいかどうかは知らんが。受け入れる器は、持っているようだな。今まで、約定により。おなごには、力を分け与えたことは、無いのだが〉

〈そんな古い約定なんて。相手は、とっくに死んでるよね〉

〈それは、そうだが……〉

 精霊二人が、何かとんでもないことを言っている。


 やがて、水希は戻ってくると、いきなり抱き着いてきた。

「えへ。行人君だあ」

 言動がおかしいと思ったら、うん。酒の匂いがする。


「酒を飲んだのか?」

「うん。おいしかった。純米大吟醸って、いうんだって」

「まだ。未成年なのに……」


「お神酒だし。こっち側は、日本じゃないから大丈夫って。おじい……さまが。……うんっ……あっ」


〈ささどうぞ。ううむ。騙されている気がするが……〉

〈うん? おお。これは良い。精神的な繋がりとは、ちごうて。ううむ。これは、なかなか……〉

 なんか精霊ふたりが、盛り上がっているけれど。ずっと、覗かれている気分になるな……。


〈まあまあ。気にせず。力はかすから。火を司る方も、気に入ったみたいよ〉


 うん? あれ? 力が増して来た?

〈あら。すごいわね。ここまでリンクできるなんて、あなた本当に人間かしら?〉

 火の精霊が言うと、なぜか水の精霊が、

〈すごいでしょう〉

 と、見ないから分からないが、どやっている。


〈なんで、あなたが偉そうなのよ〉

〈他のも、呼んでみる?〉

〈耐えられる。かしら?〉

 なんだか精霊たちが、調子に乗って、変なことを言い出した。

 おい。火の精霊は不安そうだぞ。危ないなら、やめてくれ。


〈うーん。……大丈夫じゃない?〉

 水の精霊が、けしかける。


〈呼んでみるけど。……本当に、大丈夫かしら〉

 だから、やばそうなら。やめてくれ。


〈光と土が、近くにいたわ〉

 周りが、うっすら明るくなる。光っているのが光の精霊で、黒くてのっぺらぼうが土だな。逆ならびっくりだ。


〈来たけど、どういう状態?〉

〈とりあえず、この子に力を貸して〉

 やばいんじゃないのか? さっき、耐えれるかなって。言っていたじゃん。


〈なに。みんな大集合で、天界にでも戦争仕掛けるの?〉

 更に、やばそうなセリフが増えた。


〈物騒なこと言わないでよ。聞かれると、降りてくるわよ〉

〈げっ。やめてよ。でっ、なに?〉


〈実はね〉

〈へぇー。試すけど、耐えられるの?〉

 いや。人で遊ばないで。何で、さっきから。体が動かないんだ?


 その間にも、精霊達の企みは、進んでいく。

〈ダメそうなら。力を抑えれば。いいんじゃない?〉

 どうして疑問形なんだ。


〈耐えれないと、肉体が破裂するって、言っていたわよ〉

 だから……。

〈まあ、やってみましょ〉

 おいおい。ずいぶんと、物騒なこと言っているな。

 さっきからずっと。水希は、ガクガクしているけど。……大丈夫か。

 俺はそう心配をしたが。

「もっと。……んん。あっ」

 大丈夫、そうだな。


〈この男の子。すごいわね。……器が。ほんとうに、人間なのかしら?〉

〈それで。この女の子にも。少しずつね〉


 なんだか、水希がけいれん。あらっ、なんか体が光って来た。あれ? 俺もか? 爆発しないよな?


 水希が、がくがくしてる。

「おい。水希。大丈夫か?おい?」

「はえっ。行人君」


「さっきから、ガクガク痙攣してたけど。大丈夫か?」


「うん。大丈夫じゃないかもしれない。すんごい気持ち良い。えへへ。なんどでも、いける。大きな波が、繰り返しやってくるの。すごく深い奴」

 まあ、大丈夫そうだな。


 精霊たちに、聞いてみよう。

〈それで。結局、4人とも入ったのか?〉

〈うん。大丈夫そうよ。なじむまでには、少しかかりそうだけど。丁度、和合状態だし。いいんじゃない〉


〈なんだか。ずっと、体が光っているんだけど〉

〈じゃあ。もう少し、落ち着くまで。つながっていてね〉

〈えっ。あれ? もう、グンダリニー覚醒して。解脱しそうなんだけど。いくら若くても、限界というものが〉


〈えい。これでどう?〉

〈水の精霊。血液操ったな? いや、部分的に元気にされたって。水希。お前、元気だな……〉

 水希は痙攣と気絶。覚醒を繰り返していたが。非常に楽しそうだ。

 ただ、凄い汗を、かいているけど。脱水とか大丈夫か?


 結局。体の光が落ち着くまで。3時間ほどかかった。

 精霊の言い訳によると、一度に3つも増えたから。なじむまで、時間がかかったようだ。


 それと。本来水希は。

 そこまでの器がなかったが。

 ちょうど、俺につながっていたため。なんだか、交合によりプラーナの力が作用して、チャクラが活性化したとか何とか。全然分からんが、精霊たちも十分満足って。

 まさか、自分たちが満足するために。

 わざと、体を光らしていたのじゃ、ないだろうな?


 どこかで、ギクッとか、ソンナコトナイヨと、声が聞こえた気がした……。

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