第16話 本当の実家
週末。
再び、じいちゃんの神社に向かう。
ただし、飛田家のご両親が一緒だ。
迎えに行ったときに、挨拶合戦が繰り広げられて。疲れてしまった。
そんなことがあっても、移動時間は変わらず。
道中。うちのかあさんが、人の黒歴史を暴露していた気がするが、聞こえないふりをする。
きっちりと、4時間かかり神社に到着。
「おお。来たか、1週間ぶりじゃな」
疲れた声で、俺は答えた。
「遠いよ」
「それは、一人に言え。家を建てる場所が悪い」
「それは、仕事の都合上。あそこが、便利だったのですよ」
親父が答える。
「それで。こちらが、飛田家のご両親です」
「私が、飛田 樹で。こちらが、家内のほむらです。よろしくお願いいたします」
水希の両親が、頭を下げながら答える。
「こちらこそ。わしは、行人の祖父で隼人じゃ。よろしくお願い申し上げる」
じいちゃんも、頭を下げる。
「見てのとおり。ここで、社を守っておる守り人じゃ」
見慣れない場所のせいか、飛田両親はきょろきょろしている。
「静かで、良い所ですね」
「気を使わなくてもいい。ずいぶんと田舎じゃろう」
「立ち話もなんじゃし、こちらへ」
じいちゃんが、先頭に立ち案内を始める。
ぞろぞろと、社殿脇の茅の輪が設置された、簡素な建物に向かっている?
じいちゃんが茅の輪に触れると。
「どうぞ厄除けじゃ。本来は3回くぐるのじゃけど、まあいいじゃろ」
そう言われて順にくぐると。やっぱりね。
水希が俺に聞いて来る。
「おじいさんも力があるんだね。ここって異世界だよね」
「ああ。そうだな」
飛田家のご両親は、固まっているが……。
目の前には、家? どこかの、大名屋敷のような豪邸が建っている。
正面の門が開いており。中に入る。
「どうぞこちらへ」
見知らぬ巫女さんが、案内に出てきた。
案内されるままに。どこかの旅館のような玄関から、中へ入り奥へと進む。
長い板張りの廊下。
横には、障子がずっと続いており、中には人の気配がする。
やがて、一枚の障子を開き中に入る。……あれ? ここって。昔来た記憶がある。
中に入る。
すると視線が、一気に集まり。皆がこちらを向く。
「一同。待たせたな」
じいちゃんがそう言って、それに対し、座敷のみんなが頭を下げる中。じいちゃんが上座に座る。
飛田家のご両親と、水希は奥側に。
自分たちは、手前側に座る。
「今日。集まってもらったのは。行人の元服と、婚約の広めじゃ」
会場から「おおっ」と声が聞こえる。
落ち着いて、よくみると。
何度か会ったことのある。親戚の人たちだ。
「行人は皆。見知っておるじゃろうから良いじゃろう。そちらが、今回、婚約者となった。飛田水希さんと、ご両親じゃ。皆の者。これからよろしく頼む」
「「よろしくお願いいたします」」
下げていた頭を上げた後。飛田のお母さんが、小声で聞いてくる。
「すみません。これは一体?」
「ああ、すまんな。たまたま。親族が集まる機会があったので。丁度いいから、皆に紹介をしておこうと思ってな。そんなに硬くならなくてもよい。これからは、親族となるのじゃからな」
飛田の両親は、あたふたしている。
「来る前に。一言おっしゃって、くだされば……」
と、ぼやいていた。
「行人の元服について。親族への知らせと、単なる宴会じゃから。まあ。気楽に飲み食いしてくれればいい」
やっぱり。家って、報連相が足りないよね。
確信したよ。
神事をするということで、一度母屋から出て。脇の小道を少し進む。
すると、立派な社殿が厳かな雰囲気の中。建っている。
じいちゃんが祝詞を上げ。
なんだか、少し前髪を切られたり、烏帽子をかぶせられて。
いきなり一言、抱負を言えと言われ。
パニックを起こした。聞いていないよ。
「行人です。これから、立派とは言えずとも。身の丈に合った、大人になりたいと考えています。よろしくお願いします」
俺が言った瞬間。拍手がおこった。
「なんとも、ふわっとした宣言じゃな」
何とか一言を言ったのに、じいちゃんから突っこみがあった。
立派なことを言わそうと思ったら、先に連絡をくれと。心の中で思った。
再び、広間へ帰る。
すると、すでに、宴会の準備が整っていた。
でっかい鯛が。2匹供えられていた。
じいちゃんが、最初に箸を入れて取り分ける。
すると、再び巫女さんが現れ。みんなに、取り分けられていく。
そして、朱塗りの器に、お神酒が入れられ。目の前にやってくる。
「さあ。行人ぐっと行け」
「これ、お酒じゃないの?」
「いや。お神酒だ」
「酒だよね?」
「つべこべ言うな。いけ」
グイっと行くと、少しフルーツの様な香りと甘みがある。
でも、米の香りも。しっかりするお酒だった。
会場で拍手が起こり、宴会が始まったようだ。
おれは。ご挨拶が必要だろうと思い。
さっきの酒を持って、飛田の両親へ注ぎに行った。
うろうろしていると、今日の主賓が、うろうろするなと言われ。席に戻る。
それから、2時間後。飛田の両親は、酔っぱらってご機嫌なようだった。
「じいちゃん。この家、中というか。この広間は、見覚えがあるけど、表からは見たことがなかったけど。どうして?」
ちょっと悩むと。答えてくれた。
「普段は、駐車場から、直接上がってくるからじゃろう」
と、返して来た。
「と言うことは。ほかにも、どこかにつながっているの?」
「あん? そんなもの、各自の家の玄関に決まっとろうが。日本経由だと4時間くらいかかるから。こっち側でまっすぐ来た方が早い。飛田のご両親がいるので、表から来たんじゃろう」
「決まった所に、開くのもできると言うことだよね?」
「ああ。護符を使えばいい。まあ対になったものを一つ置き。そこにつながるように、念じれば。つながるじゃろう」
初めて聞く情報だ。
「いろんなことを、知らないな……」
そんなことを思っていると、じいちゃんに読まれたのだろう。
にまにましながら、耳打ちをしてくれる。
「まあ。元服はしたし。おいおい、教えてやろう」
ふと思った、疑問を聞く。
「元服って、本当は中学生くらいだよね?」
じいちゃんが、飲んでいた杯を置く。
「家では、一人前になったと当主が認めた時が元服となっている。力なくどうしようもない奴は、元服できないか。下野(げや)するか。どちらかじゃな」
さらっと大事なことを、伝えて来た。
もう一つ、想像がついたが聞いてみる。
「なんで、こちら側に。こんな家があるの?」
「こちら側は家の星だ。日本と違って、税金もかからん。いざという時のシェルターにも使える。いいじゃろう」
説明を聞きながら、のどが渇いて、目の前にあったコップの液体を飲む。
酒だった。
俺は、そのまま倒れ、意識を飛ばしたらしい。
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