第15話 神地家のお仕事

 神地家。

 この地を治める豪族であった先祖が。

 この地を治めるために、社を建立し。治め始めた。


 祀られているご神体は、どこからか持ち込まれた物で。

 なんでも切れる剣と、いかなる攻撃も通らない盾。

 この2つは、奈良時代よりも、古いとされている。

 

 実際に物は古く。

 装飾は朽ちて、修復を繰り返されてきたが、刀身などは全く錆びず。現在まで存在している。

 多分先祖が、どこかの世界から、持って帰って来たものだろう。


 長い歴史の中で。世の中では、たびたび戦乱があり、実質的に国を治める者は、その時々で。変りもした。

 その歴史の中で。神地家は、政事からは、いつのころからか手を引き。この社を守る家として。ただ、存在してきたと、言われている。


 だが、実際は。

 世の空間が、不安定で。次元の裂け目から、鬼が出没してきていた。奈良や平安の時代から。朝廷の依頼により。特殊な力を持って、鬼を退治し。空間の裂け目を封じる役目を。受け持ってきた。


 ただし、長い歴の中で。この力のことが、一般に知れ渡ると、逆に恐れられ。

 迫害の、対象となったことがある。


 そのため。すべての痕跡を消して。それ以降。歴史の表舞台からは姿を消した。


 現在でも、一般には知られてはいないが。

 次元の裂け目は、たまに出現し。

 巻き込まれた人間が。異世界で、迷い人や勇者になっていることがある。


 ゴシップで、繰り返し記事になる。

 飛行機が消えたとか、船が消えたなんていう事柄は。通常において墜落や沈没だが、次元の裂け目に落ちている事故の時には、救出に向かう。


 その場合。ひそかに、神地家へ依頼が来て。対応する。


 そして、逆に向こうから来たものが、鬼のような者なら倒す。

 それが、昔から延々と、受け継がれてきている。家業となっている。


 現代なら、一部の人々から。熱狂的に賞賛され。憧れられるであろう。

 闇の仕事を、受け持つ家である。

 残念ながら、能力は。一子相伝ではない。


 有事の時に、手が足りなくなるからね。




 放課後。教室のみんなから、にらまれる中。

 普通に、教室の扉を開けて、普通に出た。

 

 なんと言うことでしょう。

 扉の開閉を、繰り返さなくてもいいなんて。

 一般的には、ちょっとした違いだが。

 俺にとっては、大きな違いだ。

 心から嬉しい。


 水希は、まだ友達と。しゃべり倒しているようだから、一人で帰宅する。

 家に帰り。少し能力の状態を試す。


 水を手のひらの上で、玉にして。その上に、火の玉を出してみる。


 無事に。2種類の能力を、使用ができるようになっていた。

 火が使えるなら。

 これからは、キャンプするのに便利だな。

 などと考えて、能力を使い続けていた。


 すると、手のひらの水玉が、当然お湯になる。

「あつっ」

 周りに振り撒く……。


 まあ驚いただけで、そんなに熱くはなかったけれど。頭から水をかぶってしまった。

 濡れたシャツを、脱ぎすて。

 そのまま、頭を拭いていると。

 誰かが、ガシッと抱き着いてきた。


 多少驚いた俺は、問いかける。

「あん? 誰だ?」

 まあ、そんなことをするのは、1人しかいない。

 人に抱き着きながら、なぜか人のにおいをかいでいる。


「こら変態。何をやってんだ?」

「学校で気が付いたら、行人君が居ないから。慌てて追いかけてきたの」


 その答えに、俺は突っ込みを入れる。

「ちがう。なんで、人の匂いを、嗅いでいるかと聞いている」

「行人君。成分の補充」

 あざとく、小首をかしげ。

 おまけに、人差し指の先を顎に当てて、答える水希。

「断言しやがった」


 その答えを無視して。キラキラした目で、俺に聞いて来る。

「なんで。行人君は、上半身裸でいたの? 私を迎える準備? 」

「なんだよ。その迎える準備って?」

 ため息をつきながら、聞いてみる。


「えっちする?」

 上目遣いで、聞いて来る水希。ずいぶんと斜め上の質問に、一瞬。俺は、頭の上にクエスチョンマークが飛び交い。目が点になった。


「いや。まあそれでもいいが、上半身裸でいたのは。力のテストを、していたんだよ」

「?? 力のテストで、はだか?」

 今度は、水希の頭の上に、クエスチョンマークが浮いている。


 仕方がない。

「ちょっと。失敗したんだよ」

 吐露をする。


「熱そうだから、手のひらに水を出し。その上に、火を出していたら、水が湯になって来てな」

「火傷したの? 大丈夫?」


 慌てて、俺の手を取り。手のひらを見る水希。

「ああ。大丈夫。驚いて、ぬれただけ」

「よかった。まだ、力の制御。うまくいかないの?」

 などと言いながら。俺の手を、自分の胸にあてようとする。


「いや。もう、なじんだようだ」

 あわてて、手を引っ込める。


「そう。よかった。また、冒険に行けるね」

 そう言いながら、手をつかみに来る。

 手を、背中の後ろに隠す俺。


「そっちが本命か?」

「そうじゃないけど。この前も、楽しかったし」


 ……で、結局。

 お決まりの。

「ねえ行人。今度の休みに……」

 部屋のドアを開ける音がして。のぞき込むお母さん。

「おっほほほ。ごゆっくり」


 ……だよね。上半身裸で、俺の膝の上に水希が乗ってる。

 下は、脱いでないのだけど。水希スカートだからな。

 かあさん絶対。勘違いしたよね。


「……おかあさん勘違いしたかな」

「したな」

「……じゃあ。いっそ」

 なんだ、その返しは。


 水希が、ごそごそし始める。

「何を、やっているんだ?」

「いや。勘違いされたなら。どうせ一緒だし。してもいいかと?」

「どんな理屈だ?」

「だめかなあ……?」


「……いや。良いけど」

 なんだか、水希はもっと。清楚なイメージだったけどな。ずいぶん変わった。もしかして、あの精霊の影響でもあるのか?

〈えへ、ばれちゃった? 大丈夫よ。この子も、元々好きだから。私は、ちょっと後押ししているだけ〉


 頭の中に、声が響く。

〈なんだ? こっちに、ついてきたのか?〉

〈いいえ。本体は向こう。こっちの分体が、力を持って自立? している感じかな? 前より。お得に力が使えるはずよ〉


〈そういや。イメージ通りに使えると思ったのは、魂の馴染みだけじゃなかったのか?〉

〈うん。この前急に。同化するのに邪魔になっていた。変な魔法かな? が無くなったの〉

〈魔法?〉

〈そう。私たちの、使う力ではないもの〉

〈そうか。封印は魔法だったのか。それも、教えてもらいたいもんだな。どっちにしろ。爺さんたちには、いろいろ教えてもらわないと。だめだな?〉


 精霊との話に、夢中になっていると。知らない間に、水希は気を失っていた。そっと抱きかかえて、ベッドに寝かせる。着替えて、下へ降りていく。


「あっ。行人。カギくらい、かけなさいよ」

「知らないうちに、水希が入って来てたんだよ。さっき上半身が裸だったのは、力の練習で、頭から水をかぶったからだよ」

「そうなの? それで、水希ちゃんは?」


「気を、……寝てるよ」

 そう言うと。途端に、母さんの目が。ジト目になった。

「ふーん?まあいいけど、カギ位しなさいよ」

 やっぱり、疑ってやがる。


「ああ。分かった。で、この週末がどうしたって?」

「ああ。飛田家の皆さんを誘って、旅行に行かないかと思って」

 冷蔵庫を開けて、物色しながら答える。

「ふーん。何処へ?」


 ちょっと、目が泳ぐ母さん。

「由緒正しき。神社かな?」

「それって。じいちゃんの所だよな? 2週続けて?」

「……まあそうだけど。予定を聞いておいて。車は出すから」

 こっちの質問は、ぶった切られた。


「わかった。聞いとく」

 冷たいお茶を、コップに入れ。上へ上がろうとしたら。

「まだ。学生なんだから、子供は作っちゃだめよ」

 背後から、声が聞こえた……。

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