第11話 逃げられない
「えーと。どういう状況?」
「どういう状況って。お前たちが消えて、探していたら現れた?」
周りを囲む。クラスメートに俺は言った。
「じゃあ。問題はなくなった。解散」
「…………」
代表の。名も知らないクラスメート? が聞いてきた。
「ダメだろう。説明してくれ」
目をそらし。
「気のせいだ」
と答える。
「消えたよな?」
「気のせいだ」
と答える。
そっと、霧を使った。光学迷彩を使う。
「あいつが、消えた」
見えなくなったようだ。使えるな。
「あいつだあいつ。踊っていた奴」
バタバタしているクラスメートをかいくぐり。そっと移動して、水希の手を取る。
荷物をもって、後ろのドアから脱出した。
「どこに、行っていたの?」
「森」
彼女が、俺のにおいをかぐ。
「だからなの? なんだか、体が獣臭い」
「ああ。熊が出て、退治していた」
「大丈夫……だったみたいね。でも。ケガをしないようにね」
「ああ。精霊に貰った魔法が、結構使える」
「そうなんだ。私まだ、水を出すくらいしかできない」
ごまかせたか。あいつらが、風呂に入る連中じゃなくてよかった。
「うんーと。水が出れば、あとはどうしたいかの。イメージだな」
「うん。練習して見る」
「危なくないように、気を付けろよ」
「うん。ありがとう」
水希の家まで送って行き。それから帰った。
なんだか疲れた。
週末。今回から土曜日に出発ということで。朝8時に水希の手を取って、ドアをくぐった。
あーしまった。ここか……。
「うわーすごい、ここはどこなの?」
「どこかは、わからないんだ。国民ライセンス証っていう、腕輪をしていないと何もできなくて。昔。通貨を手に入れようと思ったんだけど。腕輪自体が、クレジット機能を持っているみたいでね。腕輪がないと、話にならなかった」
などと話をしていると、周りから、ばらばらと軍人のような連中に囲まれた。
「言葉は分かるか? 分かるなら、抵抗せず。地面に手を付け」
「ちっ。なんだよ」
手をつくふりをして、水希ごと。水魔法で光学迷彩を発動。体を包む。
ドアに戻ろうと思ったが、兵隊が変なメガネをかぶると、一直線にこちらへ来た。
「特殊な、偏光装置か?」
殺すとやばそうなので。全員に水をぶっかけた。
電子装備なら、これで何とか。……ちっ平気かよ。
「そこまでだ。無駄なことをせず。おとなしくしろ。何もしなければ、危害は加えない」
悩んだが、光学迷彩を解く。
水希が震えていたので、手を握る。
「この空間のゆがみは、お前がやっているのか?」
「ドアのことなら、そうだ」
「……ドア?」
「ああ。何もしないから、帰してくれないか?」
「帰る? どこへだ」
正直に言うのもまずそうだ。与える情報は少なくが、基本だよな。
「言っても、わからんだろう」
「ちょっとまて……」
偉そうなやつが、どこかに連絡をして。伺いを立てているようだ。が……さて、このまま捕まるのも癪だな。
ひそかに、また光学迷彩をかけてと思ったが。幾人かは、まだあのゴーグルをかけている。
「ちょっと、いいか?」
その辺の隊員に問いかけるが、銃口だろうな? 腰だめにした筒を、こちらに向けたまま。相手にしてくれない……。
その間にも、ドアの周りで、なにか機械を持った隊員がうろうろしている。
そういえば。現地では、いくらドアを開けても。別のところにはつながらなかった。
何かされて、壊されると帰れなくなるのか? それだとやばいな……。
かといって。リアクションを起こせば。今度はドアが、俺の弱みになる。……まいったな。
「警戒解除」
その声と共に、銃口が下ろされる。
「君たちは。あのゆがみを通ってこちらに来た。で間違いないんだな?」
「ああそうだ」
「危害は加えんから、話を聞きたいそうだ。今担当者がやってくるが、武器は所持してはいないか?」
「サバイバル用に、いくつかは持っているさ」
「すまないが、預けてもらおう」
背中に背負ったザックを渡す。
おっさんが、中をガサゴソ漁って、
「ちょっと中を見たが、まあとりあえず預かっておこう」
そういった瞬間に、荷物が消えた。
「そちらの方もいいかな?」
「水希預けろ」
そう言うと、水希も荷物を預ける。
「その、荷物を消したのは何だ?」
「ああこれは。国民証の機能で、亜空間を利用した収納庫だ」
「亜空間収納……その腕輪。魔道具だったのか」
「魔道具が何かは知らんが、いろいろな機能がある」
「しかし。こんな基本的なことを知らないとは。……やはり、仮説は正しかったのか」
なんだか。意味ありげに考えているから、聞いてみる。
「仮説?」
「ああ。今は良い。あとで、双方でちょっと情報をまとめよう。担当者も来たようだしな」
おっさんの見た方を見上げると、空から箱が降りて来た。二人ほど降りてきたが、そのうち一人が。
「初めまして、科学省の篠原と言います」
挨拶をしてきた。敵対するのもなんだし。
「ああ。神地と、こっちは飛田だ」
と答えた。
「ほう。今のは苗字。ファミリーネームでしょうか?」
「ああそうだ。名前もいるのか?」
「お聞かせいただくと、うれしいのですが?」
「……行人だ。神地行人。こっちは、名前が水希で飛田水希だ」
「ほうほう。苗字に名前。命名規則が一緒とは。興味深い。私は長房と申します」
すごく喜んでいるな。なんだこいつ?
「では、こちらへ」
案内されて、箱に乗り込む。
少しすると、浮遊感があり。移動を開始したようだ。
両者無言で、移動をしていたが。水希は、外の景色を楽しんで、いるようだ。
意外と図太いな。言わないけどね。
やがて、浮遊感が収まり。どこかに到着したようだ。
「ではこちらへ」
箱から降りて、少し歩くと、床に円が書かれていた。
「このリングの中へどうぞ」
入り込むと、移動を開始する。
エレベーターだったのかと思ったら、下降した階からは、廊下も移動していた。
ひょっとすると、こいつら体が弱いんじゃないか? 逃げようかとも思ったが、空を10分くらい移動したから。戻るのが、めんどうくさいな。
そんなことを考えていると、目的の部屋に到着したようだ。
周りは、塗装じゃなく。琺瑯(ほうろう)っぽい。
案内されて部屋に入る。白い空間で、椅子の座面が浮かんでいた。
「どうぞ、お座りください」
案内されるまま。椅子に腰かける。……難しいな。
「さてこれから。少し、お二方に質問をさせていただきます。ご協力をお願いいたします」
さてさて。どうなるかな……。
いきなり、解剖されることは無いだろうが。やばそうなら、水希だけでも逃がしたい。
だが、俺が死ぬと。ドアは消えるんだろうな。こういうのを、八方塞がりって言うんだったか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます