第10話 学校での異変

 とっても疲れた体で、学校に来た。


 教室に入ると、また雰囲気がおかしい。

 今度は何だと思ったら、元普と雑古がわざわざ挨拶をしに来た。


「神地さん。おはようございます」

 二人の顔は引きつり、必死だ。一体なんだ?


「ああ。おはよう。……どうしたんだ?」

「いえ。御挨拶に伺っただけです」

 そう言いながら、目は泳いでいる。


「そうなのか? ありがとう」

「もったいなき。お言葉」


 うっとうしいから、そのまま机に向かう。

 その途中でも、教室からは、ざわざわと某有名映画のようなざわめきが収まらない。


 だれか、一発逆転の勝負でもしているのか?


 しばらくすると、水希が登校してきた。

 するとあの二人が駆け寄り。

「飛田さん。おはようございます」

 とやっていた。


 当然。彼女も面食らっていたが。一応。

「おはようございます」

 と返していた。


 ざわめきが、止まらない。

 教室全体が、ずっとざわざわだ。

 それは、先生が来るまで続いた。


 幾度かの授業があり、昼休みになると。水希がこっちにやってきて、小声で。

「一体。あの二人に、何をしたの?」

 と、聞いてきた。


「いや別に。特別なことはしていない。お話をしただけだよ」

「話? ってどんな?」

 思いっきり。俺の目は、泳いでいたかもしれない。


「いやあいつら。水希にちょっかいをかけそうだったから。ちょっかいかけるんじゃねぇ。みたいな感じ?」

 だけ伝える。


「えーとねえ。行人くん。魔王にされているよ」


 その言葉に、思考が停止する。

「えっ、魔王? えっ。……なんで?」

 一応、聞いてみる。


「なんか、空間を超えたり。すごくでっかい、魔物を使役しているとか?」


 あー。少し思い当たることがあるなあ。

「あいつら。ばらしやがったな。やっぱり、連れて帰るんじゃなかった」

 つい。口に出してしまった。


「ということは、どこかに連れて行ったの?」

 んー。水希になら、まあいいか。

「ああ。ちょうど巨大な砂漠で。中にワーム。と言っても、正式名かどうかは知らんけど。それが、住んでいるところで。二人に、丁寧にお願いしたんだが……」


 すると、水希から驚きの情報が。

「あの人たち。朝一番から、口々に言いふらしていたみたい」

「私も。魔王の女だから、手を出すとやばいって」

「あー。それは、心配事が減っていいかも」


 うん。そうだな。虫よけには、なりそうだ。

「それは。そうだけど」

「何だ。いやなのか? 誰か付き合いたい相手でも居るなら。俺がお話合い、して来るよ」

 そう言って。へらへら笑ってみる。


「それって。やきもち焼いてくれているのかな?」

 ちょっと予想外な返答だが。まあいい。

「当たり前だ。俺にはNTR属性はない」

「えへ」

 水希が真っ赤になって、いやいやしている。

 正解だったか。


「とりあえず。あいつらもう一度。お話合いだな……」


 放課後。速攻で2人を捕まえる。

 首根っこを、持った状態で。引きずっていく。

 精霊が力をくれたせいか。腕力が上がって。2人くらい引きずっても、楽勝になっている。


 教室のドアを開け。外に放り出す。

 あれ? この森は、裸族の森だ。

 やばいかな? とりあえずは。お話合いだ。


「おまえら。此処によばれた、理由は分かるな?」

「いえ全く。分かりません」

 なぜか。直立不動で、答えが返ってくる。


「なぜか。俺が、魔王と、呼ばれているようだが?」

「そうなんですか? 我々は、原因を知りません」

 目が壮絶に泳いでいる。

 黒だな。まあ知っていたけどな。


「ほう? 誰にも、言ってないんだな?」


「はっ。はい」

 言葉ではそう言っているが、目が泳いで。冷や汗が滝のように流れている……。


 俺は、ゆっくりと、2人の周りをまわる。

「正直に、言った方がいいぞ」

 声を抑えて、静かに問いかける。


「僕は聞きました。今朝、雑古君が、言いふらしていました」

 びしっと音がするような敬礼をして、元普が答える。


「ばっ。お前も言っただろう」

 雑古が、暴露する。


「ほう。さっきは、言っていないと言ったのに、嘘だったのか?」


「えー。すいません。つい、ちょっとだけ……」

 あたふたしながら、答える。

「へぇ、ちょっとだけで。クラス中が、知っているんだ」

 そう言うと、あたふたし始める。


「なぜか、あっという間に。どうしてでしょうね?」

「へへっ」


 笑って、ごまかせる気なのか? こいつ等とあきれていると……。

 その時。背後から物音がして、裸族の集団が現れた。


 見回して、片手をあげる。

「よう久しぶり」

 族長と握手をする。

 覚えていてくれたか。良かった。

 あれは、15の夜だったから。2年も前だ。


「久しぶりだな。いくと」

「ああ族長も、元気そうだな。何よりだ」

 泥で化粧をした、族長が。にかっと笑う。


「今日は、どうしたんだ。ゆっくりできるのか?」

「残忍だが、今日は時間がない」

「そうなのか。残念だ」

 意外と、落ち込んでいるな。何かあるのか?


 その時。後ろからバフっと、誰かが抱き着いてきた。まあ予想通り。振り返ると、ねねだった。


「おう。ねね久しぶり。美人になったな」


 そう言うと、嬉しそうに微笑む。

「うふ。ありがとう。今日は、時間がないの?」

 首をちょっとかしげて、聞いてくる。ねね。


「ああ。そうなんだ。ちょっとこいつらの、お仕置きの為に、ここへ来ただけで。ゆっくりできなくて、すまんな」


 すると、ねねの顔つきが変わる。

「こいつら。ダメなやつら? お仕置きする?」

 ねねがそういった瞬間。周りの殺気が膨れ上がる。


 さすがにやばい。雰囲気を感じたのか?


 二人は。

「ひっ」

 と、引きつっていた。

 おバカな二人でも。さすがに、これだけ濃密な殺気ならわかるのか。


「すいません。反省しています。もう絶対言いません」


 すると、ねねが合いの手を入れて来る。

「指を2~3本切ればいい。そうすれば、反省忘れない」


「ひぃ……」

 あまり脅すと、やばそうだ。


「まあ、そこまでしなくていい」

「いくとは、やさしいな」

 そう言ってくれる。ねねをぎゅっと抱きしめる。


「えへへ」


 その時。目の端に熊が映った。


 精霊に貰った力で、水を細く圧縮して撃ちだす。

 すると。ちょうど、熊が移動してきて。首が落ちた。


 部族の皆が、大仰に驚く。

「おお、くまが。いくとは、やはり神だったのだな?」


 いやいや。違うよ。心の中で言い訳をしつつ。

「神じゃあないが。その熊を追っていたのか?」

 皆に聞いてみた。

 

 すると族長が、

「そうだ、村人が5人以上食われた」

 と答えて来た。

 そうだったのか。皆で総出は、おかしいと思ったが。


「そうだったのか。災難だったな」

「退治してくれた、感謝する」

 と、礼を言われた。


 なぜか、皆が俺にかしずく。

「やめてくれ。まあ、退治できたから良かった。顔をあげてくれ」

 とだけ答える。


 そんな話の最中。裸族の見た目に興奮。

 殺気で縮こまり。魔法で驚き。

 神だと、かしずかれる行人に。二人の混乱は極まっている。


 ぼーっと立っている2人に。けりが入れられた。

 理由は神に対する、不敬のようだ。

 槍の穂先が、すちゃっと2人に向く。


 泣きそうな二人。


「そこまでに、してくれ」

「はっ」

 と、返事し。皆が下がる。


「じゃあ。俺はやることがあるので、帰るが。熊で宴会でもして、犠牲になった村人を見送ってやれ」


 一同が頭を下げて来る。

「ありがとうございます」


「ねね。それじゃあ。またな」

 軽くキスをして、扉を開く。

 腰を抜かした2人を、引きずって、扉に入った。



 すぐ後。

「やはり神だ。何もないところに、消えていった」

 前回は村で見送り。行人が消えて行くところを、見ていなかった。


 族長が、まじめな顔をして。

「ねね。今度お姿を現した時には、子供を授からなくてはいかんな」

 すると。

「神様との間に、子供は出来るのかな?」

 そう聞かれ、頭を抱える族長。


「ううむ。どうだろう? だれもしらん。試すしかあるまい」

 部族のみなが、頷く。


 2人を引きずって戻った神は。

 クラスの生徒に、囲まれていた……。

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