第9話 中世の街でデートと、精霊との出会い
日曜日。
朝7時に、スマホの着信が鳴る。
荷物を抱えて、おりて行き。
玄関で、水希を迎え入れる。
俺は靴を履いて。
「それじゃあ、行くか」
水希と手をつなぎ。ドアを開けた。
ドアを開けると、目の前には石造りの街並み。
「ありゃ。ここは町だな。名前なんだっけ?」
「始まりの町?」
ボケたつもりか? 分からんからスルーする。
「惜しいが。確かエレメンタルだった。気がする」
「来た事があるんだ?」
「ずいぶん前だけどな。金がなくて、2日間アルバイトした」
へっ? て言う顔に、水希がなった。
いくつか、財布を出して。中を確認する。
んー。これかな?
「多分。これが、ここの硬貨だと思う」
「すごいわね」
そう言われて、何だろう嬉しい。
てくてくと、町に入っていく。
「ちょっと、町中を観光するか」
「う~ん。すごいね」
さっきから、水希はきょろきょろしっぱなしだ。
中世の石畳。
通路と広場。
見慣れない建物。
初めての海外旅行みたいなもんか? いや海外だよな。異世界だし。
その時歩きながら考える。
俺は。ここでデートなら、あそこだとプランを練っていた。
そう。伝説だけの。しょぼい池。
ただロケーションはよく。
森の中に、ぽっかりと空間が開いていて、なんだか気持ちのいい所。
だった気がする。
水もきれいだったしな。
ずんずんと、市場の方へ進み。ある店の前で立ち止まる。
「お久しぶりです。アンさん」
「? あーえーとひさしぶりだね。……いくと。そうだ、いくとだ」
「はっはっは。ぎりぎりですね」
「また。こっちに、来たのかい?」
「ええ。たまたまです。ただ、今回は長居ができないので。すぐ、出ますけどね」
「横の人は奥さんかい。別嬪さんだね」
「ええ。かわいいでしょう」
会話に会わせる。合わせてみる。
横で、真っ赤になりながら、
「みずきでしゅ」
自己紹介する水希。
「はっはっは。私はアンだよ。昔旦那が金に困っていた時に、こき使った雇い主だよ」
それを聞いて、俺も合わせる。
「ああ。ひどい店主だった。でも、あんときは助かったよ」
「ひどいって。失礼じゃ」
水希は、話を聞いてあせっている。
「いや、このおばさん。客をみて、値段を決めるんだ。おんなじ商品で、値段が5倍くらい違う。適当に売ったら、もっとぼったくれって。怒られたんだぜ」
ざっと説明をする。
「この辺りじゃ。みんなそうさ。着ている服を観たら、懐具合が分かるだろう」
「……だそうだ」
「お前さん位だよ。変わった服を着て、金を持っていなかったのは」
「挙句。働かせてくれだし?」
二人で、笑い合う。
「ああまあ。邪魔しちゃあ悪いからそれじゃあ。あっと、そうだ。これ、腹の薬」
「あらまあ、悪いわね」
「それじゃあ」
頭を下げて、店を後にする。
「こっちでは、ボッチじゃなかったのね」
何気に、ひどいことを言う水希。
「ああ。元々異世界に行けることを、信じてもらえなかっただけだからな。少なくとも。俺は普通だと思っているんだよ。奥さん」
仕返しをしてみる。
「おくっ、いじわる」
赤くなって、うつむく水希。
「建物が珍しいくらいで、ほかに見どころはないし。目的地に行くか」
「あの果物みたいの。なんか、おいしそうだけど。買っちゃダメ?」
「あれは、そのままじゃ食えない。それに、この辺の人が生で食えても。俺らは絶対腹をこわす。今度は、違うものを漏らすことになるぞ」
「ひっひど。いじめっ子」
「ああ。水希がかわいいから。つい、いじめたくなってしまう」
「もう」
なんだか、楽しい。
これが、幸せか?
てくてくと、町の裏門から出て。山へ入っていく。
「ここは、異世界定番の、モンスターとか。大丈夫なの?」
「ああ。普通の獣はいるけれど。町には、近づいてこないから。大丈夫」
「ただ。地球の動物と、ちょっと違うから。驚くかも」
「えっ。違うの?」
「地球でも、固有種っているじゃないか。象だったり、ラクダだったり、有袋類とかパンダとか」
「そうか。動物園とかで見ることはできるけど。もともと日本にはいないから。初めて見れば……」
「そう、驚くだろう」
「そうね」
うんうんと、うなずき納得したようだ。
少し休憩を入れながら、歩き。目的地に、たどり着いた。
「わあ。池なの?」
「そう。伝説の池。ここには、妖精が住んでいると言われている。水も湧水できれいだしな」
そう説明しながら、地面にクッション入り。レジャーシートを張る。
頭上には、日よけのターフを、少し斜めに張る。
ここは、地面で火を焚きたくないから。バーナーで湯を沸かす。
コーヒーを、入れようとしていたら。水希が、聞いてくる。
「泳いじゃダメかな」
じとっと、見つめてくる。
「大丈夫だけど、中心に行くと。すごい冷たいから。浅いところでだけなら、大丈夫」
そう説明すると、ぽいぽいと服を脱ぎ。全裸で池に入っていった。
おいおい。いくら見られたことがあると言っても、どうしたんだあいつ?
まあ寒くなったら、上がってくるだろう。
コーヒーと、お茶を沸かして。ポットに移した。
それからしばらく、生暖かい目で見ていたが、寒くないのか?
何か、おかしい。
池に近づき。水希に声をかけるが、反応がない。
どうなっているんだと、手を水につける。
やはり、プールなんかより。断然冷たい。
やばいと思い。ターフ下に敷いていた。クッションレジャーシートをつかむ。
その辺りに服を脱ぎ散らかして、池に飛び込む。
うひゃーと叫ぶくらい。つめてー。
泳いでいると、足元からすごく冷たい水が……。
「うひゃあ」
思わず。声が出る。
一生懸命。慌てて、水希に近づいていく。
やっと背後から捕まえ。
背中の下に、クッションシートを折り返して、敷き込む。
そのまま。背中側に倒して、抱えて岸まで帰って来た。
抱え上げて、池から出す。
その場に、クッションシートを広げ直す。
その上に寝かせ、呼吸と心音を確認しようとすると、いきなり抱き着かれた。だが体温は下がり、かなり冷たい。
体温がやばい。……そのまま抱き合う。
うん? すごくゆっくりだが、呼吸はしている。
心音も、すごくゆっくりだ。
だが、この目の感じ。普通じゃない。
水希を抱えたまま。シートも持って移動する。
荷物の中から、タオルケットを取り出す。
クッションシートの上に座り込み。対面座位状態で、抱えたまま。水希の背中からタオルケットを巻き付ける。
体温が帰ってこないけれど、心臓とかも動いている。
あっそうだ。
さっき入れたコーヒーを、コップに入れて。口に含む。
そのまま、水希の口に流し込む。
寒いから、自分も飲む。
コーヒーが無くなると、お茶で同じことを繰り返そうとすると、水希の手が俺の物をぐにぐにと刺激している? 冷たい? ああ繋がっているのか?
まあいい。
とりあえず、あったかいお茶を飲ます。
そのうち。水希の口から、透明なアメーバー状の物が出てきた。
這い出して来た透明なものは。すぐ横で立ち上がり。女の子の形を取った。
ふと気が付くと、水希の体温も戻っている、よかった。
しかし。おぼれたわけじゃなくて、横に立っているこいつに。取り憑かれていたのか。
透明な奴は、俺に近づいてきたが。
俺は、胡坐をかき座っている。
しかも、その上に水希を抱えている。
動けない顔に。ぬっと近づいて来て、俺のほほにキスした。
その瞬間。頭の中に、声が響いてきた。
「私が少し。その体をお借りしていました。少し生体のエネルギーを頂きましたが、少しすれば、元に戻ると思います」
「俺たちは。ここの世界の住人じゃないんだが。大丈夫なのか?」
「ああ。それで、なのですね。普通。人型の生命体で、こんなにも、波長が合うと言いますか。なじむことが、できたのは」
「なじむ?」
「ええ。感覚まで共有ができました。今なさっている行為も、気持ちがいいものですね」
「ああ。まあな。で、結局。お前は何なんだ?」
「この世界では、妖精と呼ばれています。私は、水を司ります」
「ここまで、相性がいいのも。何かの縁でしょう。私の力を、分け与えましょう。また何か困ったときにでも、この星の上であれば。呼んでいただければ。力をお貸しすることもできるでしょう」
「それは。ありがとう。使い方は?」
「魂になじめば、自然にわかります。あとは、形にする力のみ。必要です」
「そうか。あと、こいつはいつ。解放されるんだ?」
「先ほど、私が抜けてからは、ご自身の意識となっているはずですよ」
「先ほど?」
「ええ。私がこちら側に抜け出てからは、ご自分の意志で、行動されています。力を分け与えたので。精神的つながりがありますので、間違いはありません」
「そうか。ありがとう」
「ではまた」
そんな言葉を言い残し。精霊は、地面に吸い込まれていった。
本人は妖精と言っていたが、水をつかさどっているなら。水の精霊だよな。
俺は目の前で。非常に控えめだが、ぐにぐにと動いている水希を見る。目はつむっているが、顔が赤い。
「さてと。こいつは、人を心配させるだけ心配させて。自堕落に快楽へ浸っている馬鹿者。と言うことだな」
タオルケットを引きはがし。水希を抱えたまま。池に近づく……で飛び込んだ。
「ひゃあ」
突然の冷たい水で、びっくりしたのか、水希は喚いていたが、
「ふざけんな」
冷たい水で、洗い清めてやった。
なぜかクッションシートまで、ドロドロに汚れていた。
池の水で、洗っていいのか。ちょっとだけ思案したが。だめなら、叱られるだろうと、じゃぶじゃぶ洗った。
時間が時間なので、かたずけをして。急いで帰ることになった。
水希は足がとか、腰がと言っていたが。自業自得なので、強引に連れて帰った。
本当は、もう疲れたので。泊まりたかったのだが。明日は月曜日。
今度は、土曜に来るのが正解だね。と予定が決まった。
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