第8話 ちょっとしたお願い
「踊る変人ね。そんなの、名乗った覚えもないぞ」
「名乗って無くても、いいんだよ」
そんなことを仰るから、ちょっと脅してみる。
「ああ。あんまり大声出すと、さっきのワームが来るぞ」
「ひぃ」
後ろを、振り返る2人。
「それで、続きは?」
「彼女は、俺と付き合う予定だったんだ」
元普が何か言っている。と思ったら、
「元普お前何言ってんだ。彼女は、俺の彼女になるはずだ」
……雑古君乱入。
「どっちも。告白でもしたのか?」
「そんなこと……」「……してない」
なんだこいつら。警戒したけど、単なるヘタレじゃないか。
「それじゃあ。話は終わったな。俺は帰るから。ごゆっくり」
そう言い残して、歩き始める。
「ちょっと待ってくれ。帰れるのか?」
「あん? 帰りたいのか?」
まあ。そうだろうな。
「当り前じゃないか。こんな訳が、分からないところ」
俺は、ニヤッと笑いながら、さらに脅す。
「でも。話を聞くと、水希にちょっかいを、かけてきそうだしな」
「あたりま……。いや。あきらめたから、帰してくれ」
「それは。帰ったら、そんな話は知らない。と、開き直るパターンだよな」
俺は、にやにやとしながら、さらに話を詰める。
「いやぁ。そんなことは、しないよ」
うん? 振動がこっちに来たな。
手近にあったちょっと大きめの石を拾い上げ、弧を描くようにぶん投げる。
どんという感じで、石が落下すると、落下地点で、ワームが飛び上がる。ワーム君ナイスだ。
話を詰めよう。
「結構。近くまで来たから、話を急ごうか」
「いやいや。話は終わっただろう。つれて帰ってくれ」
ちょっと、泣きが入って来たな。
「しようがないな。あっちだ。あっちに向かってまっすぐ歩けば……」
「帰れるのか?」
期待した目で聞いてくる、元普君。
「どこかに着く。たぶん」
30kmくらい先に、オアシスがあったよな。
「なんだ。そりゃ」
うーん。また、地下を移動する。振動がする。
きょろきょろと見まわし。適当な石をつかむと、投げる。
石が落ちた瞬間。またワームが、飛び上がる。
ワーム君。ナイス。
「うーん。めんどうくさくなった。じゃあな。元気でやれよ」
後ろを向いて、歩きはじめる。すると肩をつかまれた。
「こっちが下手に出てれば、いい気になりやがって」
おお? 元普君が切れた。
「定番のセリフ。それで?」
「それで、こうするんだよ」
元普が、砂を蹴り上げる。
残念。こっちも5年の間に、色々あったのだよ。
山賊とも戦ったことがあるし。そして、俺は突っ立ったまま、もろに砂を食らった。
……目は、つむっているけどね。
右前から、近づいて来る気配がする。
この辺りかな? とりあえず蹴ってみる。
丁度。みぞおち辺りに、入ったようだ。
ボディは、食らうと。しんどいんだよな。
蹲っている元普の横を抜け。雑古君参戦。
右ストレートか? 外側にかわし、手首を握って引っ張りながら、膝を入れる。
もろに入ったようだ。 雑古君の右手は握ったままなので、小指側をねじると同時に少し引き上げて、ひっくり返す。
「もういいかな? 本気で、ワームが近づいてきたから。ほんとうに帰るぞ」
「さっき言っていた。水希にちょっかいを掛けないと、本気で約束してくれないと。置いていくよ」
そういいながら、ドアを開き。体を半分だけ入れる。
たぶんこいつらからは、半分体が消えたように、見えるのだろう。
その状態でさらに。忠告をする。
「この俺の力も。他言無用だから、お約束はできるかな?」
と、言ってみる。なんだか、俺が悪役になったな。
コクコクと、壊れたおもちゃのように首を振る二人。
近づいてきた元普が、脇を走り抜ける? 何やってんだ?
雑古君は、近づいて来て。
「絶対。約束するから帰してくれ」
と、言ってきた。手首をつかんで、店の方に引っ張り込む。
中に入って。周りを見回し。腰が抜けたようだ。へたり込んだ。
さて、元普くんは? ああ。反対から見ると、砂漠しか見えないのか。
納得しながら思って見ていると、なんか泣き出した。それも大声で。……やばいな。
「おおい。そこのバカ。大声を出すな」
その瞬間。俺に気が付いたのか、駆け出して来た。
「頼むよぉ。本気で約束するから。……帰らしてくれ」
「あー。まあ。しようがない」
引っ張り込む。……と、目の前をワームが飛び上がって行った。
やっべぇ。こっち側に立っていたから、振動が分からなかった。
そっと、ドアを閉める。
んっ? なんだか、二人で抱き合って。泣いているから、置いて行こう。
てくてくと、フードコートに戻る。
俺に気が付くと。水希が飛びついてきた。
「お待たせ。説得にちょっと、時間がかかっちゃった」
「なんだか、砂っぽいよ」
そういや、元普に砂掛けられたな。
「まあ、大丈夫だろう」
ちょっと、問題はあったが。
楽しく、初デートはできた。
明日は本番だ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます